派遣社員あすみの家計簿

派遣社員あすみの家計簿
青木裕子・小学館文庫キャラブン!
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女性雑誌でほぼローテでしょっちゅう特集組まれてるなーって内容、かつ
「三大挫折ジャンル」
として、誰が決めたか
・ダイエット
・片付け
・貯金
てのがあるらしいんですよ。わたしもこの三大扱いされてるの、どこで見たんだったかなー…て思い出せないんですけれど、自分に当てはめてみてもよくわかります。生活習慣がもろに出るんですよねこのみっつ。

幸いにも個人的には「片付け」は一定以上気が済んだところまでいけたので、さて残り2つなんですけれど、手強いですよね…ダイエット(食生活)とお金…
ダイエット作品も面白いものがたくさんあるので追々ご紹介していくとして、本作は「貯金」…正しくは貯金まではまだ作内では途中までかしら…「お金の使い方見直し」といいましょうか、そんな小説です。

この作家さんの作品、本作で初めて拝読したんですけれど
「これは経費で落ちません!」
を書かれた方だったんですね!あれも気になってたー。一巻は買ってみたのでまたあとで読ませていただこうと思います。本作のあすみちゃんはご自分のお財布の範囲ですけれど、「これは~」の方は職業ものですものね。シリーズにもなってるしわくわくするなあー。読んだらここで感想書きますね。
この方の著作、他に「風呂ソムリエ」っていう風呂ジャンル小説もあるようで、これも面白そうやな…読んでみたい作品としてメモメモ…作家流しってついついしちゃいますよね。ぜひ相互理解を深めたい作家さんです。

主人公はちょっといい企業に勤めていた元OLの「あすみ」ちゃん。
結婚を機に退社したものの、肝心の結婚相手が消息を断ってしまい、残ったのは支払いのみ…というなかなかシビアな状況からのスタートです。残高428円からの逆転劇なのですが、「う、運がいいーーー」ってことも多少あれど、解決策はいずれもすこぶる現実的なものばかりで、わたし、そこはすごく実用的な小説だなこれ、と感心しました。
似たような境遇…て人はなかなかいないでしょうけれど、なんといいますか
「手元・現実の見直し方」
「状況改善の仕方」
が具体的なので、ちょっとお金を意識しはじめた方には大変おすすめです。そうなのよね、なまじっか収入にちょっとゆとりがあるってほうが出費の見直しあまりしなくなるというか…人間て困った時に成長するんですよね…困らないとそのままなんだよね…しみじみ…

地の文体があすみちゃん視点で、それもあってか困っている様子や何にどう困っているのかは切実に伝わるのですが、あまり暗い雰囲気にならない上に読みやすいのが良い点です。
面白かったので作家さん流しをしようとしてググってさらに判明したんですが、著者さんコバルト文庫でシリーズものごっそり書かれていたんですね。どおりですいすい読めるはずです。状況説明がわかりやすいし、出てくるキャラクターにブレがありません。
冒頭の「これまでの展開」の短い文章読んでてすでに
「うわぁ…うさんくさい…こんな男やめておきなさいよ…」
とあすみちゃんのご家族のみならず読者にも一発でわかるのに、当事者にしてみたら多分すごく魅力的だったんだろうなーこれ、って流れの説明が抜群にうまいです。なるほどねえ、これであすみちゃんは結構お金使っちゃったのねえ、て。誰しも無駄遣いの経験て大なり小なりあると思うんですけれど、なんせ勤めていた会社辞めたてなのに残高428円ですからね。相当な勢いでいきましたねあすみちゃん…

ここらへんの「読者が思うであろう「バカじゃないのあんた」って言いたい気持ち」も、ちゃんと作品内のあすみちゃんのお友達が担ってくれます。あすみちゃんよかったなーーこのお友達がいて!そう、お金は貸さずに知恵は貸す。えらいよお友達(仁子ちゃんといいます)!
同じ年で、ちゃんと考えて自立・自活してきてた人という、あすみちゃんにとっての「比較対象」を冒頭に置くのはすごく良いですね。
また、二人の会話を入れることで、自然とあすみちゃんの性格や行動の傾向と、この状況に陥った理由を、我々読者は速やかに知ることが出来るわけです。そして「お金に困った時にまず何をすればいいか」がわかって、光のようなものが見えてきたあすみちゃんと読者は活路を見出せるんですね。
仁子ちゃんと会話する前までは、あすみちゃんにとって自分の状況て
「どこか他人ごと」
で、それこそが生活立て直しの際の罠なんですが、その罠を仁子ちゃんが早々に破ってくれるので、そこは読んでいる側も展開が早くて大変助かります。ここで目が覚めるところまで書いちゃってたら話が1.5倍ぐらいになっていたと思う…本題にすぐ入って正解…
たしか岡田斗司夫さんのレコーディングダイエットの本で、
「借金をしている人はたいてい自分の状況・数字をきちんと把握していなかったりする」
とあったんですけれど(そして同じ理屈で岡田さんは食べたものの記録を始めるんですけれど)、冒頭のあすみちゃんがまさにそれなんですね。そこそこお金入ってきてたので遠慮なく・不安無く使えてたけれど、なにせお仕事辞めちゃった上に貯金も無いんで、これから何がどれだけ出るか、いつまでにいくら必要なのか、それはどう工面しないといけないのか、を、改めて見直して考えることを始めます。
あすみちゃんにあれこれ教えてくれる仁子ちゃんの偉いところは、あすみちゃんがまず何をしないといけないのかをしっかりと眼の前でメモに書き出してくれるところです。紙とペン好きなわたしなのでここ評価高いです!
(後の展開でも「モンブランの万年筆」が活躍してくれて、そこも「好き…」てなりました。作者さんは文具お好きかしら…)
そしてもっと言いたいことがあるだろうに、直近のやることを3つに絞ってくれるこのね…仁子ちゃん仕事出来る人だよ…ありがとう仁子ちゃん…
「さっぱりわからない。めそめそする暇があるならハロワ行きなさいよ」
とか超名言だよありがとう…

ここまでの話がほんと冒頭数ページのことなので、あとの中身はもう気になった方は読んで頂くと良いです。その楽しみを奪ってはいけませんため展開や解説の記載は省略しますが、しょっぱい現実をいろいろと味わってきた私としましては
「どうにかなって本当によかったね…」
が読後の感想でした。
これはあすみちゃんが明るい頑張り屋さんだったからなのと、なんのかんので人生終わるレベルの状況ではなく、
「頑張ればどうにかなるレベルの出来事」
で済んだからで、そこは本当に…本当によかった…宮部みゆきの「火車」とか読むとね…もうね…不幸の連鎖がしゃれにならないからね…
(火車の感想文はいまのところ予定は無いですけれど、その気になったらそのうち…あーでも再読がなー…つらいなー…)

わたしもわりと入ってきたお金をぽいぽい使っちゃう方なので、本作読んで
「もうちょっと…どうにかせにゃな…」
と気を引き締める方向です。仁子ちゃんの名言に
「考えなくてすむから癖になる」
てのもあるんですけれど、生活の不具合て突き詰めるとだいたいがこれなんでしょうね。考えなくていいというのは楽ですからね。

もちろんなんですが、「お金が無い」て人にとってものすごくストレスが高いことなので、人によっては立ち向かう元気や気力がごっそりと無くなってしまっているって事も普通にあると思います。本作はあすみちゃんのこれまでの生活や考え方やお金の使い方が自分でコントロール出来る範囲、自分の生活範囲だったのであすみちゃん自身で立ち向かえたことですけれど、他人の都合で自身が困窮するだなんてことも世の中には普通にあるわけで。
直近なんてコロナ関連で、お店やってる人だったりお仕事の業種によっては、なかなかシビアな状況だったりもするのではないでしょうか。
他にも天災だの事故だの…どんなに備えていても読めないことでお金がなくなるって普通にありますもんね。

そういう場合は助けを求めることや人に聞く、調べるてことをぜひしてみてほしいと思います。お金のことって恥ずかしいからなんとなく言えずに過ごしちゃうし、把握するのが追いつかなくなると
「もうどうでもいい!」
とやけっぱちになってしまうこともありますけれど、いつからでもどこからでも、今よりもうちょっと良い形には出来ると思うんですよね。
自分も楽しく読んでいるから贔屓になりますけれど、読書とかとてもコスパのいい娯楽ですよ。読書は良いですよ…

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