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棚からつぶ貝

棚からつぶ貝
イモトアヤコ・文藝春秋
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太い眉毛メイクにセーラー服でおなじみの「イッテQ・珍獣ハンター」イモトさんがエッセイを出したということで、これはさぞかし海外での珍事やご当地ネタ、滅多に読めないようなおもしろ経験をたっぷりつめこんだ作品なのではないか、私は旅エッセイ読むのが大好きなんだ、とワクワク読んだら、思ったよりは海外・特殊ネタ主軸の話が無かった…あれ…せっかくの唯一無二の経験なのにマジか……てのが初見の正直な意見。

ただ、無かったんだけどこれはこれですごくいい本なんじゃないの…とじわじわ思える、大変素朴な日常を素朴な文章で綴った本でした。正直、あのビジュアルとあれらの行動をするというのに、イモトさん驚くほど普通で「そこらへんにいそうな人」でそっちにかえってびっくりしたほどです。
自分の経験した出来事より、身近な人への思いを綴った手紙のような書き方をしているからかもしれないですが、ちょっと小さなズルをしようとするところとか、やっちまったのは自分なのになかなか言い出せないままであとで「ごめんなさーーーい」となるところなど、こんなに普通の人があんなに世界中に飛んでトカゲにおっかけられたり高地でプロレスしてたりしたのか…と思うと、芸能人てわからんもんだなあ、と感心します。

先に海外絡みの特殊ネタが無かったと書きましたが、日常の描写のところどころはさすがにちょいちょいおかしいです。正月を「南極で迎えた」とか、妹の話をする時に「アコングアという山を登った時のこと※南米最高峰」とか。
そういうどこで何をした、て描写が全体的に想定よりも全然少なくて、主題は別の所にあるんですよ。南極の回はガイドのおじさんが変て話で、南極は完全に添え物なんですよね。南極なのに。

どうも、イモトさんにとって海外行ってなんかした話が日常になりすぎてるようで、こういう形に残るものにコツコツ綴られたのは、友達やご家族、芸能界の大好きな先輩や安室ちゃん、旦那さんなどなど、ご自身が大事にしているものへの想いなんですね。
番組名やディレクターさんらの名前も出てるから別に各所に行った話を制限されているわけではないと思うんですが、とにかく場所や経験より「人」にスポットが当たっていて、それが実に興味深いなあと思うわけです。
私ならどうしてもどこそこの国のここがこんなにすごくって!って話しちゃうと思うんですけれど、このエッセイの中では地元歩いたのと同じぐらいの感覚でロンドンだのミャンマーだのマナスルだのマッターホルン登った話だのはちらっと出るだけで、掘り下げて話をされるのは恵比寿の整体師だったりドラマ出たんだーって話だったりするわけなんですね。これ逆にすごい面白いことだなと思うし、編集からもリクエストとかチェックが入らなかったのかと思うとそこも大変興味深いです。
「イモトといえば…でしょ!?」
てならなかったんだなあ、て。例えば面白おかしい写真だとかもいっぱい載せて、いくらでもキャッチーな本に出来そうだったのに、かわいらしいイラストを表紙に、写真は帯ぐらい。カットも無し、と、本としてはすごく「良い本」だなと感じました。

エッセイ読む時て、著者さんがどういう人か、何をした人か、っていう予備知識がある程度無いと、読者側としてはどうにも読みづらいんですよね。普段何をしてる人があの時にこういうこと考えてたのか、て知るのが楽しかったりするわけですし。そういう意味では私は思ったよりイモトさんて人を知らなかったなあ、てのが読んでみての率直な感想なのですが、この本で知れてよかったのも嬉しかったことのひとつです。正直、テレビ見て
「何だこの人!足の筋肉めちゃすげーーーーーー」
って言いつつ、なんやかや大騒ぎしてるところをわははと笑ってたぐらいが関の山だったんですが、そうか陸上やってて足の速さでもぎとった仕事だったんだな珍獣ハンター。で、初回の仕事が腰に肉ぶらさげてコモドドラゴンに追いかけられること、と…この素朴なエッセイからはとてもそれはわからない…

こちら連載だったそうで、書かれた記事以外に「後日談」としてその後どうなったかなども数行書かれてるのですが、こういう形式もいいですね。どうしてもリアルタイムとちょっと事情が変わることもありますし。
書物を専門にしてる方ではないのでどうしても筆力は弱めなのですが、イモトさんを知っている人、イモトさんに興味がある人ならばゆったり楽しく読めると思います。

イモトさん、もしまた本を書かれるなら、ぜひ海外話を盛り込んだやつもそれはそれで読ませて欲しいです!

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