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古き良き恋人

タイトル:(仮)古き良き恋人

▼登場人物
●尾井流(おいる)カケオ:男性。37歳。独身サラリーマン(途中から自宅ワーク)。莫大な財産の持ち主。両親は他界。一人っ子。
●澄川由紀恵(すみかわ ゆきえ):女性。36歳。独身OL。カケオのフィアンセ。性格は多少荒い。カケオに近付いたのは財産目当て。本編では「由紀恵」と記載。
●夢野幸恵(ゆめの さちえ):女性。享年30歳(生きて居れば由紀恵と同い年)。カケオの元恋人。本編では「幸恵」と記載。

▼場所設定
●カケオの自宅:少し郊外にある豪邸のイメージで。地下室もある(地下室はやや広い)。
●街中:こちらは必要ならで一般的なイメージでお願いします。

NAは尾井流カケオでよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは過去に誰かと付き合い、別れた事がありますか?
恋愛の話です。
つまり失恋で、
その失恋した相手の事をいつまでも思ってしまう。
そんな経験がなかったでしょうか?
もし今それを経験している人があれば、
ぜひこれを見て、こうならないよう注意してみて下さい。
何かの役に立つかもしれません。

メインシナリオ〜

ト書き〈カケオの部屋〉

俺の名前は尾井流カケオ。
今年37歳になる独身サラリーマン。

今俺は自分の部屋で、新しい恋人…
由紀恵と一緒に将来を夢見ながら
まったりとした時間・空間を過ごしている。

由紀恵「あなたと一緒になれて幸せ…もうずっと離さないでね」

カケオ「ああ、決まってるさ。俺がこの世で愛してるのは君だけだから」

由紀恵は本当に優しく朗らかで、
俺にとっては勿体ない位の女性だった。

でも1つだけ不満があった。
それは過去に付き合い、不慮の事故で亡くした
恋人への想いが理由になっている。
俺の昔の恋人・彼女の名前は幸恵。

由紀恵と名前は少し似ていたが、外見容姿は程遠かった。
俺は幸恵の事を本当に心から愛していた。
彼女と結婚するつもりでいた。
でもあんな事になってしまって、
俺の心にはポッカリ空洞があいてしまった。
そしてその空洞は俺の空想を産んだのだ。

理想にも近いその空想…。
やがてその理想と空想は俺の日常を支配するようになり、
今付き合っている由紀恵にもその影響が及んでいった。

ト書き〈数日後〉

由紀恵「え?髪を黒く染めてって?」

カケオ「あ、ああ。出来たらその…君は黒のほうが似合うと思うからさ」

「君の美しさを引き出す為には髪の毛を黒くしたほうが良い」
そんな歯の浮くような事を言い、俺はある日、
彼女に髪を黒く染めてくれるよう頼んだ。

由紀恵の髪は生来、色素が薄く茶色。
だから由紀恵は昔から自分の髪の事を言われると
少しコンプレックスが刺激されるのか。
余り良い顔をしなかった。

由紀恵「…どうしてよ?黒く染めたって又すぐ茶色に戻っちゃうわ。そんな無駄な事しなくても」

カケオ「いや無駄じゃないんだよ。出来たらその、俺の為に黒くしてほしい…って、そう思ってるんだ」

由紀恵は「どうして?」と言う表情(かお)をずっと見せてきた。
それと同時に少し怒りの感情も湧いたのだろう。

由紀恵「あなた、私の事を愛してくれるんじゃなかったの?だったらその相手の全てを受け止めるって、それぐらいの気持ちがあるのが普通じゃないの?」

たかが髪の毛を染める・染めないの話で
こんなつまらない喧嘩をしてしまうなんて。
そう思われても仕方がないが、内心、俺は本気だ。

それから数日が経ち、由紀恵は俺の要望通り
結局、髪の毛を黒く染めてくれた。

由紀恵「これで良いのよね?あなた、満足?」

カケオ「ああ♪有難う」

やたら喜ぶ俺を見て、少し不思議に思った由紀恵。
でもそれから俺の要望は更にエスカレートしていく。

ト書き〈数ヵ月後〉

それから数ヶ月が経ち、由紀恵は俺と付き合った当初の元の姿から
だいぶん変わった出で立ちになっていた。

香水は少し前に流行ったエスキュールの物を使い、
どこかへ2人で出かけていく時には必ず白のワンピース。
帽子をかぶるなら小ぶりの麦わら帽で、
靴はつま先が少し出て見えるローヒールを履いて居た。

どれも今の流行からすれば少し時代遅れに見えるだろうか。
全部、俺の要望通りに彼女は容姿を整えてくれ、
ただ「俺に愛される為、気に入られる為に」と
自分の外見全てを変えてくれていたのだ。

由紀恵「これで愛してくれる?全部、あなたの希望通りにしてみたわ」

カケオ「ああ♪有難う。俺が愛してるのは、世界で君1人だよ」

でも俺達の間に、本当の愛はなかったんだろうか。
きっとそうだと思う。
俺は今は亡き父の仕事の成功により、結構、莫大な財産を持っていた。

母も父の後を追ってすぐに亡くなったから、
その財産の全ては長男である俺が引き継ぐ事になる。
俺は一人っ子。
だから遺産相続で誰かと奪い合うなんて、
そんな問題が起きる事もこの先にはない。

その安定を見計らい、彼女は俺に近づいたのだ。
彼女とは仕事の提携先で知り合い、そのまま交際し、
そして結婚の約束をして今に至る。

彼女の目当ては俺の財産。
俺とは年齢こそ近く、また俺の元彼女と同い年だったのもあるが、
過去に失ったあの幸せから見てみれば
表面の美しさ・華やかさから掛け離れ、
俺の心は今、不幸のどん底にある。

これは誰にも言えない事。
新しくできた彼女になぜそんな事を要求してきたのか?
これを由紀恵に言えない秘密と同じようにして。

ト書き〈トラブル〉

でもそんな生活が長く続く筈もない。
俺と由紀恵はある日、大喧嘩をした。

由紀恵「ちょっとイイ加減にしてよ!一体どこまで私を変えれば気が済むのよ!」

カケオ「ゆ、由紀恵!頼むから落ち着いてくれ!」

由紀恵「ふざけないでよ!」

一方的に大声で怒鳴りちらし、
責めてくる彼女をなだめるだけの俺だったが、
彼女がそうして怒ってしまうのもやはり無理はなかった。

あれからまた彼女の容姿についてあれこれ言い、
あれを変えろ・これを変えろ…と俺は言ってしまい、
彼女がお気に入りで買ってきた洋服を少し否定した上、
「それを買うならこっちのが良い」
みたいな事を言ったのだ。

女性にとってファッションとは、男が思っている以上に大事なものか。
それにそんな事が続いたのもあり、
彼女もとうとう堪忍袋の緒が切れたのだ。

カケオ「わ、悪かった!俺が悪かったよ!ごめん!謝ってるじゃないか」

その後も暫く彼女からの一方的な責めが続く。
でも仕方がない。
俺が悪いのは分かっていたから
俺は自分の感情を引き出さないように努力をし、
なんとか彼女をなだめ、また落ち着いて貰うようにと
それだけに尽力していた。

でも由紀恵は未来の財産が惜しくなったのだろう。

由紀恵「…ごめんなさい、ちょっと感情的になっちゃって。実はちょっと会社で嫌な事があったから心の中にストレスも溜まってたの。本当にごめんなさいね。私、あなたが良いって言うなら、その服を買う事にするわ。今日買ってきたこれはタンスに封印しちゃって、あなたが良いって言ってくれるその服をずっと着る事にするから」

由紀恵はそれから打って変わったように何度も謝ってきて、
とにかく「これを理由に喧嘩別れだけはしたくない」
「変わらずこれまで通り婚約の関係に居て、必ず結婚しましょう」
そう言ってきた。

カケオ「ああ。本当にすまない。俺も自分の理想ばっかりを君に押し付けて、ほんとに悪かったよ。これからは君が好きなように…自分の気に入ったものを身に付けて…」

由紀恵「ううん、あなたが気に入ったものを身につける、私これからもそうしていくわ。私をあなた色(いろ)に染めて…」

カケオ「由紀恵…」

(それから愛の営みを暫くする)

ト書き〈トラブル2〉

それから暫くは、穏便な生活が続いた。
由紀恵はそれまで住んでいた都内のマンションから
俺の一軒家に引っ越してきて、それから同棲が始まった。

由紀恵「あなた、コーヒー入ったわよ♪」

カケオ「や、有難う♪」

由紀恵「今日は何書いてるの?」

カケオ「ん、これか?新作の恋愛ものさ」

俺は都内で一応働いてはいたが、出版社であり、
そこはオンライン業務を推奨してくれる
俺にとっては都合の良い側面もあり、
俺は自宅ワークでそれまで通り小説を書き、
時にはYouTubeなんかでアップする為の
シナリオ執筆なんかも手がけていた。

今書いてるのは新しい恋愛もので、
小説の分野に含まれるから少し時間がかかる。
シナリオならすぐに書けてしまう俺だが、
小説となればそれなりに資料を集め、知らない事を調べ、
いろいろ模索しながらアイデアを引き出していかねばならない。

由紀恵「うふ♪なんだか感動的な作品みたいね。そうだ、何か私にできる事ない?」

由紀恵は俺の家に引っ越してきてから
俺の仕事を少しずつ手伝うようになってくれ、
アシスタントのような事までしてくれていた。

俺の家には資料がいっぱい散乱しており、
書棚には感性を刺激してくれる宝物で溢れている。
おまけに地下室まであり、そこにも書棚を設けて、
自分の作品を書く為の様々な素材を集め尽くしていたのだ。

そこで或る資料が必要になり…

カケオ「ああ、由紀恵、すまない。ちょっと地下室へ行って『ほころびの植物図鑑』ってタイトルの本を持ってきてくれないか?降りてすぐの所にあるからきっと君にもすぐ見つけられると思う」

由紀恵「植物図鑑ね?わかったわ。ちょっと待ってて」

由紀恵は颯爽と地下室まで降りて行き、
俺に言われたその本を持ってこようとしていた。
その地下室まで歩く姿も元気活発で、
「この豪邸がやがて自分の住む家になるのか」
なんて目と心を輝かせている…そんな様子も見て取れた。

カケオ「入ってすぐ目の前にある書棚にあるからなぁ~」

由紀恵「わかってるわ〜」

俺は念入りに彼女にそう言う。

でも、彼女がその地下室から戻ってくるのは少し遅かった。
そこで何かをしていたかのように時間がかかっていたのだ。

そして戻ってきた彼女は1枚の写真を右手に持っており、
図鑑を左手に抱えたまま、俺に面と向かって冷たい瞳…
いや怒りの表情(かお)を露わにしていた。

由紀恵「これなに?」

カケオ「え…?」

その写真を俺に突き付けるようにしてそう言う彼女。

由紀恵「この人、一体誰なの?」

カケオ「あ、それは…」

その写真に写っていたのは俺の昔の彼女・幸恵だ。

由紀恵「わかったわ。私にどうしてこんな姿をさせたのか。…全部この人に似せる為だったのね!?」

カケオ「いや、それは…!」

由紀恵「髪の色も靴のデザインも!このブレスレットも、マニキュアの色も香水の種類も全部!彼女に私を似せる為だったんでしょう!?」

由紀恵はまた荒れ狂った。

実はその通りで、俺は幸恵の幻影を彼女に追い、
どうにかこうにか由紀恵を幸恵そっくりの女性にできないか?
…そればかりを算段した挙句、一方の自分から見ても
無茶ばかりを要求する一辺倒な男に成り果てていた。

由紀恵「ふざけないでよ!あたしって人間をあなた愛してなかったのね!全然愛してくれてないわ!」

カケオ「ちょっと由紀恵…!落ち着け!落ち着いてくれ!違うんだ!これには…」

由紀恵「もうイイわよ!この先アンタなんかと結婚したってイイ事なんか絶対ありゃしない!もっと早くに気づくべきだったわ!こんなもの!」

そう叫んで、由紀恵は俺がプレゼントしたブレスレットを床に投げ捨てた。

由紀恵「アンタも、もしかしたら気づいてたかもしれないけど、アタシだってねぇ、アンタのこと本気で愛したから結婚しようなんて言ったんじゃないのよ。この豪邸、アンタが手に持ってる財産、それを私の将来の為に少しでも役立てないかなんて思ってねwでも、もう沢山!もうウンザリよ。アンタはこの財産と一緒にずっと独りで生きるとイイわwじゃあね!」

それだけまくしたて、出て行こうとした時。
俺はゆっくり椅子から立ち上がって彼女に言った。

カケオ「…いいや、俺を独りにはしないさ。君が財産目当てに近づいたのは仰せの通りよく知っていた。でもそれでもイイと俺は思ってたんだよ?俺の要望を全部聞いてくれた君だ。だから財産を君にあげたいと思ったんだ。これは本当だ。だから今、君にその財産を分けてあげるよ。…『美しい彼女に成れる』って、その財産をね」

ト書き〈数年後〉

それから数年が経ち、俺はまだ警察には捕まっていない。
でもまぁゆっくりはできないだろうから、
俺もそれなりに準備をし始めていた。

この世を離れる為のその準備。
それにはどうしても彼女が必要だった。
これも、俺の要望だ。

(地下室の影にひっそり置いたベッドに横たわりながら)

今俺は、地下室に誰にも気づかれないよう
ひっそり置いていたベッドに横たわりつつ、
周りの光景を見て満足している。

俺の足元にはまるでミイラ化して
干からびてしまった由紀恵の両足、
右隣には美しく磨き上げた由紀恵の両腕、
そして俺の胸の上には今、
何もかも幸恵そっくりにデザインした由紀恵の胴体と顔がある。

カケオ「…さて由紀…いや幸恵、永遠に崩れる事のない古き良き時代、俺達だけのパラダイスへ旅立とう」

そう呟いて薬を飲んで、それからずっと覚めない暖かな夢の世界へ旅立った。

この現実で生きる者には全て限りがあるもの。
どれだけ愛した人に誰かを似せても、体の老いには限界があり、
その理想も悉く崩れてしまう。
この事もよく解っていた。
幸恵と付き合ったその瞬間から、俺はきっとこうなる運命だった。
いや必ずそうだったのだ。

そうして俺が幸恵と一緒に夢の中に旅立ったあと、
この地下室の隠し扉の向こうにずっと隠し続けておいた幸恵のミイラが、
少し微笑んだように思えた。

動画はこちら(^^♪
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