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suppression

suppression
「suppression」
 彼は強国の王であった。当時は絶対王政であった。王の命令には絶対に従わねばならなかった。その国王はまだ若かった。まわりの側近の方が年配勝ちだった。その国王は代々受け継がれて来た血筋とは異なり、影響され易かった。特にその血筋の中でも彼は優しさが目立った方だったので、その優しさが目立つ故に、側近から苦情が出ていた。だが、その優しさが災いしていてその苦情が全て、悪口に聞こえていた。彼には若い故に、親が居た。父親は戦死して、母親は病気ひとつせず元気であった。彼は、自分のその優しさが親孝行にも繋がり、母親への待遇をとても大切にしていた。側近はその様子をあまり国王としては好ましく思わなかった(好んでいなかったのだ)。“国を担う主としては、それではいけないのだ”と、彼を戒める日もあった。彼の父親は彼とは正反対の性格で、血の気の多い方であった。その父親は戦いの度に喜びに満ち、持ち前の側近の強さを他国へ自慢し、ありとあらゆる財産を手に入れた。しかし、その激しい攻防戦の末、病に死んだのである。彼はやはりいつまでもその父親の生き方を納得せず、生きている母親への孝行を大切にした。その彼の母親も側近の前では気前の良い顔をしているが、実はその孝行に少し不安気な様子を浮かべていた。自分の夫がそのような暴君であった為、それが板についていたのだ。彼はそのことには一切気付かず、母親を思い続けた。
 そんなある日、他国の刃が彼の国へ侵攻するに至る。その勢いは、今まで彼の父親に財産を奪われた日からずっと蓄積していたものであった為、一瞬にして国の一部が消えてしまう程であった。彼は生まれながらにしてその強国の王であった為、まわりの国が攻めて来ず、戦というものを余りした事がなかった。故に、少しでも強い国が攻めて来たら彼の国は危なかった。内心、彼の側近も母親もそれを恐れていた。その戦は急なものだった。突然襲って来て、みるみる内に大きくなりつつあるのである。彼の前ではいつも冷静に振る舞っていた母親は、やはりその時になっても側近が近くに居る為、冷静に振る舞っていた。母親の優しさだけを見て育ってきた彼は、とても焦っていた。どうしていいかわからないのである。若いといっても二十歳、その年相応の常識は頭にあるのである。
 以前の子供ようには最早いかない、と彼は思い込んでいた。子供の頃は結構やんちゃな方であった。その戦の勢はみるみる内に燃え広がり、やがては国の半分までも占領されてしまった。勢いに乗った他国軍は、彼の国に恨みがある連中を引き連れて連合国にしてしまった。そこまで来た末にやっと、彼の元・強国も盛り返した。何とか、父親が国王だった頃に一緒に戦っていた側近が頑張ったのだ。だが国王は彼である。皆を統一させるには、長年のその国の癖故、国王が纏めねばならなかった。そこでその他国連合軍は、彼の国にある条件を出した。内容は、“もしも、そちらの国を出てこちらの民衆になるというのなら血を流さずにそうしたい。だが歯向かうのならばその国民は皆、殺害する。―――”―――と。元・強国の国王のことを知ったのだ。彼はまた焦っていた。彼の側近達は、彼の父親の時の側近も居たので戦おうと決心していた。彼の母親は依然変わらず、易しく振舞っていた。
 その条件待ちの期間は三日間であった。そして、三日目の最後の日が来た。彼はまだ迷っていた。いざ戦になっても、戦う術を知らないのである。だが彼の側近はその腕に力を任せて立ち上がろうとしていた。そうしている内に連合軍の催促があった。すると彼は、“母親と二人で話がしたい、”と側近に言った。側近は暫く絶句したが、許可を出した。母親の部屋で、彼は母親と二人で話をしようとした。すると、二人になったが途端、彼の母親は急に激しく怒り出し、物を投げつけながら敵に対して、又彼に対して悪口憎音を以て怒鳴り続けた。その声は、その隣りの隣りの部屋まで聴こえる程であった。その部屋の外に居た側近もその声を聴いていた。その側近は驚いて、その部屋に入ろうとしたが、彼の言葉を思い出し、又母親の姿を見るのも「驚くだろう」と予測した為、止めた。彼は、その狂った様に言い続ける母親の悪口憎音の大きさに耐え切れず、ついに慌てて外へ出た。部屋の中からはまだ彼が部屋の中に居るかのように、母親が怒鳴り続けていた。
 日頃の彼へ対するストレスが溜まり過ぎ、死が近付く恐怖に耐え切れず、その母親は狂ってしまったのだった。
 彼は暫く外の、他国の群を眺めながら、ぼうっとしていた。側近はさっきの母親の声を聴かなかったことにして、彼に話し掛けた。約束の時間までもう少しだと。彼は、その国民の事と、側近の事、母親の事を思い続けた。その時ふと、彼の心の中に、以前の母親が顔を出した。その優しさに影響され、彼はその条件を呑むことに決めた。国民も皆、それに従わねばならなくなった。側近は黙ってその命令に従った。母親はまだ錯乱していた。その母親を見付けた者がその錯乱に気付き、丁重にその母親を介護した。連合軍の前に出て行こうとする時、彼は廊下で錯乱状態の母親に出くわした。が、彼にはその人が誰かわからなかった。
 こうして彼はその連合軍の前へその姿を現す事となり、再度提示された条件を呑んだところで殺された。その条件は囮であり、連合軍は自分達の様な他の勢力を恐れ、その側近達を皆殺しにした。そしてその最も責任能力が高いとされる、その国の王の母親、彼の母親をも、不安によって殺された。気付いた時には、その強国は壊滅していた。
 向うから誰かが見る。背後から誰かが見ている、そして自分が自力で眼を拡げて、自然と映るこの世界を見ているのに、訳のわからない連中が生き残る不条理は、彼の意識から独立して生きている。その国の王であった「彼」は姿なき王の前に跪き、流れる空気の中で、唯、生きている。

「Ma-Ma said……”Down.”」
 ある日、水曜日の夜だった。とある酒場へ行ったら、オヤジがワンサカいたので軽く一杯ひっかけようとして立ち寄った。するとあの野郎がいたのである。あの野郎は片手でおかわりを注文すると、すたすたと僕の方へやってきた。
「今日は水曜の雨だぜ、なんでこんな店に来るんだよ」と。
僕は照れながら、愛想笑いをした。その内、雨も降り止んで、外は霧が少し出ている薄暗い天気になった。右手に持っていたサイフを置き、しばらく呆然としていた。すると、女がやってきた。赤い女である。
「あ~ら、」と声を掛けたのも束の間、猛ダッシュでサイフを盗み、逃げて行った。早い展開である。
 そこのママは僕に氷の入っていない水割りを入れてくれて、一言呟いた。
「明日は木曜日だね、だったらこの水割りは……、」
そう思うのも束の間、ママは安心することを言ってくれた。そうこうしている内に、また雨が降り出し、僕は濡れて帰らなきゃいけなくなった。タクシーもここは通らないのだ。傘は誰かが使ってるし、置き傘もない。
「ツイてないな…」とママが言うと、僕は帰り仕度をし始めた。
ママは、「お金はいいのかい?」と僕に尋ねた。
「今持っていないんだ」と答えると、「今、持ってないんだはないでしょう。きちんと払いなさい。それがつかまらない方法よ…、」どうしても払わなくてはならない様だった。
 席の後には用心棒らしき者が二人、いや四人いた。僕はやはり青ざめ顔で興ざめた。まさかこの酒場の「ママさん」が僕をハメようなどと…。気が付いたら、僕はそのママを抱いていた。用心棒は入口のところと、出口のところにピッタリ、マークしている。僕はママを抱きながら、胸を揉んでいた。柔らかくて大きめだったので、しゃぶりついた。ママは顔をしかめながら、用心棒を呼んだ。僕は叩きのめされたらしい。最後に持っていた銀行のカードを取られた揚句、その店はその日、潰れたのである。

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