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若返りの果て

タイトル:(仮)若返りの果て

▼登場人物
●余久井和香(よくい わか):女性。40歳。パート主婦から正社員に。若返りたい。
●余久井健二(よくい けんじ):男性。43歳。和香の夫。優しい。
●上司:男性。40代。和香を正社員として雇う化粧品会社のオーナー。
●風間真理子(かざま まりこ):女性。37歳。和香の先輩社員。和香に嫉妬。
●同僚男と女:20~40代。和香の会社の同僚。不特定多数の一般的なイメージで。
●恋瀬理乃(こいせ りの):女性。30~40代。和香の欲望と理性から生まれた生霊。

▼場所設定
●某化粧品会社:和香が働いている。都内にある中小企業のイメージ。
●Endless Rejuvenation:お洒落なカクテルバー。理乃の行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。
●和香と健二の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージで。「自宅」とも記載。

▼アイテム
●Ultimate Rejuvenation:理乃が和香に勧める特製の液体サプリ。これを飲むと驚く程に若返る。でも理乃との約束を破り特定の人と愛を裏切ると悲惨な目に(和香の場合は若返りの果て胎児まで若返る)。

NAは余久井和香でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは、若返りたいですか?
特に女性のあなた、そうは思いませんか?
いや最近では男性も子供の頃に帰りたい、
昔のあの楽しかった頃に帰りたい、
そう思う人も少なくないようです。
でも若いというのは苦しいという字にもよく似ていて
それは夢や欲望に奔走する挙句、
自分の取り付く島・土台をなくし、
疲れ果てるまで走り回る時期…そうとも言えそうです。
今回は、そんな若返りを目指した或る女性にまつわる
不思議で悲惨なお話。

メインシナリオ〜

ト書き〈自宅〉

和香「はぁ、いやだわ。また目尻にシワが…」

私の名前は余久井和香(よくい わか)。
今年40歳になる主婦。

夫の健二は会社で働きながら、私も都内の化粧品売り場で働いている。
まぁ私の場合はパートであって、夫の稼ぎをアテにしながら
2人で仲睦まじく温かい家庭を築き会うのが夢だった。

でも最近私はその仕事場で、
新しい仕事をどんどん任されるようになり、
そしてついには…

上司「余久井さん、もしあなたさえよかったら、ウチで正社員として働いてみませんか?あなたはこの仕事に向いてるようだし、あなたにとってもやり甲斐は増すと思えますし、それに給料も上げさせて頂きますよ?」

そんな事までその店を経営しているオーナー会社の社員に言われ、
私は夢のような気持ちに浸っていたのだ。

和香「嘘でしょ、私みたいな者が…」

当然そう思うが、新しく突き付けられた夢が余りにも大きい。
そして魅力的だった。

健二「え?そうなのか?」

和香「うん。あなた、どう思う…?」

健二「そりゃお前がやりたいんならやってもイイんじゃないか?まぁウチにはまだ子供も居ないし、その辺は自由だからな」

夫なりにそんな事も言ってくれ、
私は本格的に正社員として働く事になったのだ。
こんな夢のような話、滅多にあるものじゃない。

ト書き〈トラブルからカクテルバーへ〉

そして晴れて正社員となった私は、
それからどんどん自分の夢に向かって歩き始めた。
元からこんな仕事がしたかったのだ。

自分の昔からの夢が叶った勢いで、更に仕事に没頭し、
周りの人達も私を認めるようになった。

「こんなとんとん拍子に進んで良いのかしら?」
なんて思っていたその矢先、トラブルが来た。

真理子「余久井さん、ちょっとイイかしら?」

和香「あ、はい?」

私より3つ若い先輩の真理子さんに私は呼ばれ、
人目につかない所に連れて行かれた挙句、
散々嫌みを言われたのだ。

「あんたさぁ、もうちょっとお化粧キレイにできない?」
「ここは女性に夢を売る場所なのよ?そんな所帯染みた格好で来られちゃ困るのよね」
「イイ歳したオバさんが、何が化粧品売って女性に夢を売るよw目尻のシワ、頬はたるんでるし、体型だって良くないし、なにその肌のシミ?w若い子と一緒になって調子乗ってんじゃないわよw」

和香「そ…そんな…」

たぶん嫉妬。
周りに認められ始めた私に嫉妬して彼女はそう言った。

同僚1「ええ?そんなこと言われたの?」

同僚2「そんなの気にする事ないわ。あの人ったら誰にだってそうやって八つ当たりするんだから」

周りはそんな私を慰めてくれたが、それでもショックだった。

和香「はぁ…。だよなぁ。こんな私が化粧品売り場で…なんてやっぱり場違いなのかな」

私は同年代の女性に比べても顔のシワが多く、
確かにスタイルも良くないし、肌に染みだって沢山あった。
この会社に正社員として入ったのも、
ほとんど夢だけを追って入ったようなもの。

(自宅)

健二「えぇ?そんなこと言われたってかwまぁ気にする事ないよ。馬が合わないヤツはどこにだって居るんだから。俺だって散々言われてきたぜ?」

和香「笑って言わないでよぉ、私真剣なんだから」

健二「おぉごめんごめん。でもホントにそんなの気にする事ねぇって。お前はお前なんだし、俺はそんなお前を愛したんだから」

和香「…あなた」

夫の言葉は確かに嬉しかった。
でも女として…彼にふさわしい女としても、
私はやっぱりもっと綺麗になりたかった。
つまりもっと若返りたかったのだ。

(カクテルバー)

そんなある日。
私は少しやり切れない思いで飲屋街に来ていた。
もちろん1人で。

そうして歩いていると…

和香「ん、『Endless Rejuvenation』?新装かしら」

全く見慣れないバーがある。
でも、初めて見たがかなり心を惹かれる。
私はそこに入りカウンターにつき1人飲む事にした。

していると…

理乃「フフ、お1人ですか?もしよければご一緒しません?」

と1人の女性が声をかけてきた。
見るとかなり綺麗な人。

和香「あ…どうぞ…」

私は少し彼女の美しさに見惚れ、隣の席をあけてすぐ彼女を迎えた。

彼女の名前は恋瀬理乃(こいせ りの)さん。
都内で恋愛コンサルタントやメンタルヒーラーの仕事をしているようで、
どこか落ち着きがあって清楚で、そのうえ理知的で、
何となく私が子供の頃に夢に描いたその理想像を思い出させた。

そんな彼女には大きく2つの魅力があって、
1つは「昔どこかで会った事がある人?」
と思わせてくるその不思議な感覚。
そして2つ目は、彼女の前に居ると
なんだか自分の事を無性に打ち明けたくなる…
と言うその気持ち。

そのせいで、私は今の悩みを全部彼女に打ち明けていた。

理乃「え?若返り、ですか?」

和香「え、ええ。こんなこと初対面のあなたに言うなんておかしいですけど、でも私、今その事でホントに悩んでるんです」

それから30分程、私は自分の事を延々話し続けた。

理乃「…なるほど。どうやら真剣に悩まれているようですね」

和香「ええ。そのせいで、せっかく決まったこの正社員の仕事も、なんだか張り合いが無くなっちゃって。辞めたくなる事も正直あるんです…。でもそれより私、いつも私の事を大事に思ってくれてる夫の為にも、もっと綺麗な女で居たいって、そう改めて思うようになったんです」

私はそのとき真理子の事も彼女に話し、
夫に対する自分の正直な思いも話した。

理乃「そうですか、会社でそんなつらい事も。ホントひどい事を言う人ってどこにでも居ますね。でも、旦那さんの為に綺麗になりたいと言うその気持ち、私にもほんとによく分かりますよ。良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が少しお力になりましょうか?」

和香「え?」

そう言って彼女は持っていたバッグの中から
1本の栄養ドリンクのような物を取り出し、
それを私に勧めてきてこう言った。

理乃「どうぞ、そちらを1度お試し下さい。それは『Ultimate Rejuvenation』と言う特製の美容サプリで、それを飲めば今あなたが抱えられているその悩みは一掃されるほど綺麗に消え去るでしょう」

理乃「あなたは先ほど旦那さんの為に綺麗になりたいとおっしゃられました。つまりそのサプリはその願いを叶える為のものです。そしてそうなれば会社でも仕事が楽しくなるでしょう。ぜひ騙されたと思ってお試し下さい。決して騙しませんけど」

ここでもう1つ彼女の魅力に気づく。
それは他の人に言われたって信じられない事でも、
彼女に言われると信じてしまい、その気にさせられる事。

私はその場でサプリを手に取り、一気に飲み干していた。

ト書き〈変わる〉

(会社)

同僚男1「お、おい…あれ、余久井さんか?」

同僚男2「ああ、そうらしいな…」

同僚男1「…めっちゃ綺麗になってねぇ?」

同僚女1「余久井さん、最近すごく綺麗になりましたね?こんなこと言って失礼ですけど、でも正直そう思います」

和香「え、そう?あははwありがと」

あのサプリを飲んでから、周りの私を見る目が変わった。
いやそれだけじゃなく、
私から見ても自分が本当に変わったと思えたのだ。

まず顔に刻まれたシワが全て消え、肌のたるみは引き締まり、
体中にあったシミも全て消えてくれ、
私は本当に20代にも見間違われるほど美しく、
若返る事に成功していた。

真理子「…チッ!あいつ、益々チヤホヤされやがって…」

真理子もそんな私を見、自分に負けを知ったのか。
それ以来、私にとやかく言ったり付きまとう事もなくなった。

和香「(ウフフ♪ほんと、こんな自分に成れたのが夢のよう…。まさか私がこんなに美しく成れるなんて。こんなに若返れるなんて…)」

(自宅)

健二「よぉ、なんか最近お前変わったなぁ?綺麗になったぞぉ?w」

和香「え、そう?有難う♪あなたにそう言って貰えたら1番嬉しいわ」

夫の為に美しく若返る事ができた自分。
本当に私は幸せの絶頂のようだった。
心で何度も理乃さんに感謝した。

ト書き〈トラブル2〉

でもそれから、第2のトラブルがやってきたのだ。

三上「あの、和香さん、僕とディナーでも行きませんか?」

和香「え?」

仕事帰り。
いきなりそう言って三上さんが私を誘ってきた。
実は三上さんはこの会社の御曹司で、将来が約束されており、
会社に入った時、少し憧れた人。

歳は4つほど下だったが、仕事が出来、誠実で、女性には優しく、
付き合うのには申し分ない人…
本当に10人居れば10人の女子にそう言わせる
女性にとって最高の憧れのような人だったのだ。

和香「あ、はい…こんな私でよければ…」

おかしな返事だったが私はその三上さんに付き合う事にし、
その夜、彼と一緒にディナーを楽しんだ。

でもその帰り…

三上「…ねぇ和香さん。僕の事どう想ってますか?」

和香「え?ど、どうって…」

三上「あなたはただの付き合いだと思ってるかもしれませんが、実は僕、本気なんです。本気で今夜、あなたを誘いました。あなたに家庭があるのはわかってます。でもこの気持ち、抑えられなくて…!」

和香「あっ、ちょっとやめて…!」

ひとけの引いた公園で、彼はいきなり私にキスをしてきた。
初めは抵抗していた私だが、そのうち力が抜けて…

和香「ンもう…しょうがないわね…」

みたいな感じで彼の気持ちを受け入れたのだ。

いや、抵抗して見せたのは演技。
女特有の奥ゆかしさを彼に見せつけようとした。
理由は彼を自分の虜にする為。
その第一歩を踏み出そうとしたからだ。
力を抜いたのも計算済み。

三上「和香さん…!」

和香「三上さん…!」

私の狙いは彼の財産だった。
その欲望がチラッと心によぎりそのまま居座った。

そしてそのまま彼と2人でホテルへ行って、
一夜を明かしてしまった。
夫の健二には「女友達の家に泊まる」と言って。

ト書き〈オチ〉

そして翌朝。
その日は会社が休みだったので、三上さんと一緒にホテルを出てから、
私はゆっくり1人で帰路につく。

和香「ウフフ、やっぱり恋をすると、女の肌は更に美しくなるようね♪」

コンパクトを見ながら微笑む私。

でもその直後、そのコンパクトを覗く私の背後に
いきなりあの人…理乃さんが現れたのだ。

和香「…え?…きゃあ!あ、あなた…?!」

理乃「フフ、こんにちは。今日は仕事ないんですね?」

和香「え…え…?」

理乃「でも幾ら仕事が無いって言っても、こんな朝っぱらからこんな場所に?…旦那さんは家に居られるのでしょう?なのにあなた1人でこんな所で、一体何をしていたのかしら?」

和香「いや、これはその…」

理乃「あなた、三上さんと言う人と一緒に居ましたね?会社の御曹司。その方とホテルから出てきたんじゃありません?今がその帰りで…?」

この時、私は彼女に恐怖した。

理乃「…私との約束、破りましたね?あのサプリはあなたと旦那さんの為に差し上げた物。なのにあなたはそれを裏切り、別の人との恋にそのサプリの力を使ってしまった」

理乃「あの時お伝えするのを忘れてましたが、そのサプリには副作用がありまして、それは与えられた特定の人との愛を裏切り、別の人と恋に落ちた場合、その欲望があなたに悲劇をもたらすと言う事」

和香「…え?」

理乃「あなたには責任を取って頂きましょう。そんなに自分の欲望の為に若返りたいなら、どんどん若返れば良い。あなたを極限まで若返らせてあげましょう」

そう言って、スッと上げた右手の指を彼女がパチンと鳴らした瞬間、
私の意識は飛んでしまった。

ト書き〈和香と健二の自宅〉

そして次に目覚めたのは、どうやら私の家のようだ。
でもよく分からない。
僅かに自分の家の見覚えがある…その程度。

(呼び鈴が成る)

健二「あ、はぁい」

そしてドアのチャイムが鳴った。
健二が出る。

健二「え?どなたですか?」

理乃「フフ、私、あなたの奥様・和香さんの古い友人です。彼女の事でちょっとお伝えに上がりました」

そこで理乃さんは、これまで私がしてきた事を
健二に包み隠さず全部話してしまった。
そして最後に…

理乃「おっと、お互い、足元に気をつけましょうね?思わず彼女を踏み潰してしまわないように…ってこんなセリフ、どっかの漫画にあったっけ?それでは…」

と。

ト書き〈自宅アパートを外から見ながら〉

理乃「私は和香の欲望と理性から生まれた生霊。その理性のほうの夢を叶えてあげようとしたけど、やっぱり無理だったわね。夢を叶えた瞬間、欲望が宇宙の広さほど大きくなってしまって、その理性を飲み込んじゃった」

理乃「私があげたあのサプリは、私との約束を破り、特定の人との愛を裏切ってしまえば、胎児にまで若返らせる力を秘めていたのよ。まさに究極の若返りよね。それはもう哀しい程に。とりあえず彼女を家に帰してあげたけど、夫の健二が彼女を見つけた時、どう思うかしら。彼女はベッドの布団の中に小さく居るわ…」

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