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鏡餅のなる木

 鏡餅のなる木があった。
女は長く病の床に臥せっており庭に面する窓からそれを見上げる。
小さな頃は同じ背丈ほどで、手のひらに収まる位のみつ重の餅がふたつみっつ実を結んでいた。
晩秋の空へとぽつねんひとつ、大ぶりの実を提示している鏡餅の木。
ほろほろおとなしく三つにほどける実は、隣家の新築祝いに華々しく撒かれ、晦日すぎての雑煮にもなり、あれこれとかこつけて生誕の記念に併せあしらいもした。

絵に描いた餅を、空に、バンクシーが描いてくれる。

我ながら素敵な空想だ。
冬用にと準備しておいた上掛けを羽織らせたベットで何時になく明るい陽射しに私は思うんだ。
どうして蜜柑の苗木も、一緒にしてあげなかったんだろう、と。

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