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【短編】インフルエンサーの憂鬱

今日もブログの更新が終わった。

瞬く間に「42いいね」が付いている。きっと明日の朝、目覚めた頃には「120いいね」まで増えていることだろう。不思議なことに何も感じない。

最近は感覚が麻痺してきて、迷子になった自意識を追いかけているうちに1日が終わる。のんべんだらりと暮らしていたのに、今はビックサンダーマウンテンに乗っているような日々を送っている。

身の周りのオジサンたちを美容品に喩えて皮肉った記事が、若者に人気のインフルエンサーの目に留まって拡散された。あっという間にSNSの台風の目になって、当時のタイムラインを占領した。

それ以来、ブログの閲覧者数は桁が1つ増えた。その後もたくさんの共感コメントが後を絶たない。ワタシはそんなに賢くないのに…。

始めは驚いて受け入れられなかったものの、すぐにちやほやされる状況にも慣れ、フォロワーに刺さるポイントを掴んでいった。

高校生からネット上に物を書いているが、人から何かを学んだことはない。理論ではなく体感でこの世界を理解できる才能が私にはあったのだ。

先月は某Webメディアの担当者からインタビュー依頼があった。書く仕事ではなく喋る仕事は新鮮味があって楽しい。

他にも令和世代ネット発の人気者として、私と音楽の作り手、2次元の絵が得意な描き手という3名が集められ鼎談をする話も舞い込んでいた。

炎上も経験して来なかった私は、知らない間に一部の界隈でブームに火を付けていた。

Twitterのフォロワーも順調に増えていき、10万人に登る勢いだ。もう訳が分からない。誰が私の陳腐な呟きを欲しているのか理解が及ばない。

企業からの仕事の依頼も届き始めた。たいていは何か商品をそれとなくプロモする内容なので断っているのだが、日頃から愛用しているブランドのPR案件は喜んで引き受けた。

プライベートの雑然とした写真を載せただけのインスタは、3万フォロワーを超えた辺りから空気が変わった。悠々自適にやってきてたのにビジネスの話を持ち込まれることが増えた。心が落ち着かなくなったので、鍵付きの垢を新たに作った。

トントン拍子に雑誌での連載も決まって、生きていくだけのお金が安定して手に入るようになった。そんな訳でたまに顔を出していたバーの仕事は辞めてしまった。辞めたあとで、私はそんなにお酒が好きではなかったのだなと気付いた。

不定期で行っているライブ配信も順調に視聴者が増えている。特定のファンが付いてきて有難い限り。心無いコメントに対しては善意のファンが大人な対応をしてくれて、とても助かっている。

1ヶ月先までブログに投稿するネタは事欠かない。が、確実に自由に使える時間は減っているので、優秀なライターを雇おうかなと検討している。

私のブログを読んでいる人には感謝しかないが、変な誘いがDMに届くようになっていて、ストレスの元になっている。これが人気者の有名税なのか。いかに目立たずに生きるかも考えないと。

SNSとインターネットは体に毒なので辞めたいとは年中思っている。だが、そしたら私の生活は終わりを迎えるので続けるしかない。今日も強く生きると胸に誓って、布団を被る。おやすみ。


また読みにきてもらえたらうれしいです。