【短編】無個性ドライブ in 東京

深夜、首都高でお台場を目指して車を走らせている。

いい大人なのに無趣味なのが恥ずかしかった。ゴルフやフットサルに手を出してみたりもしたが、楽しみ方がまるで見出せなかった。父が好きだったNHKの相撲中継を眺めてみたが同じだった。

今年で34歳になる。独り身で過ごす夜が物悲しく、先月から一人酒を嗜むようになった。財布に余裕があるようになって、こだわりの地酒をネットショッピングで買い漁るようになった。

飲み屋やバーで飲むと落ち着かないので、もっぱら晩酌は自宅で一人。深夜帯のTVドラマかNetflixの海外ドラマをアテにして、睡魔が来るまで飲みふける。死んだ父親に似てきたな、と思う。

4年付き合ったミユキとは考え方の違いから衝突が増え、向こうから別れを切り出された。結婚を切り出す矢先の出来事だった。しばらくは恋愛のことを考えたくない。だから親にも話してない。

ペットでも飼おうかと近くのペットショップに行ったこともある。ただ、自宅という密室で餌を与えて自分だけ満足するのはエゴではないかと想像が働いてしまい情けなくなった。ペットにも悪い気がしたので、結局何も買わずに店を出た。

最近、ドライブにハマり出した。知らない街を気ままに走るのが心地よい。車はカーシェアリングで3時間だけレンタルしている。スマホから好きなジャズを流したり、ラジオをかけてそのひとときに浸る。仕事のことも忘れられて物理的にも精神的にも一人になれるので、気に入っている。

たまに人生の終わりについて考える。何を残してこの世を去るか。俺が人生でやり残したことはあるだろうか。あの世に行ってから後悔することはなんだろう。そんな取り止めもないことを思う。

地方から上京してきたものの、キラキラした生活への憧れはなかった。大学の知人たちは派手な友人から疎遠になっていった。こうして気ままに過ぎていく、誰に言うでも見せるでもない時間が好きだった。映えるかどうか

帰宅したらどんなお酒を飲もうかと考えながら、都内へ引き返す。自宅へ向かう車内のミラーには、満足げな自分の姿が映っていた。


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