家にグリーンがやってくる
「家に植物を置きたいんだよね」
彼女がリビングでそう言った。そういえば緑がある生活が理想だ、と前に話していたのを僕は思い出していた。
「置くのは賛成だよ。だけど、その前に植物を置くスペースを確保しないとね」
整頓が苦手な彼女に対して、僕は軽くジャブを打つ。事実、家のリビングには彼女の私物が散乱している。
「でも、あそこを見て。あの隅っこの空間は、植物を置く用に作ったの」
よくよく室内を見回すと、たしかに部屋の角に40cm×40cm程のスペースがある。いつのまに、片付けをしていたのか…。全くそんなことには気が付かなかった。
彼女が願望を語るとき、僕はそのレベル感を慎重に見定めることを常に意識している。
というのも同棲して最初の頃は、「海外に住んでみたいよね」とか「地方に移住するのもいいなぁ」という彼女から漏れる言葉をどれも本気にしてしまっていた。
ところが日をおいて話してみると、これらの発言はその瞬間のあくまで一抹の希望に過ぎず、そこまで優先度の高い理想ではないと知ったりすることがあった。
その一件があってから「自転車が欲しいな」「冷蔵庫がもう一つあった方がいいかも」といった願望に対して、
「何に使うの?」「それは絶対にないといけないもの?」と彼女の真意を確かめるための質問をするようにしている。
結果的に、冷蔵庫は彼女の実家から送られてくる野菜を保存するために必要だという結論になった。それに彼女はよくお菓子を作るので、その材料でメインの冷蔵庫は常に搭載率95%を超えることが多かった。
自転車はジムに行くのにあったらいいなくらいで緊急性はないとのこと。そのため、今回は見送った。
植物の件も自転車と同じレベルかと思っていたので、スペース確保に関しては少し驚いた。さらに、彼女からは具体的な品種も提示された。自由ヶ丘のお店で見かけて気に入ったようだ。
どうやら彼女は「フィカス」というのに目を付けているらしい。大きいものだと諭吉さんが一人では足りないようだ。なるほど…
たしかに僕もグリーンは欲しい。家にいる時間が長いので、部屋の景観が美しくなり空気が綺麗になるのはメリットしかない。
幼い頃に思い描く理想の家に植物のイメージはなかったが、その話を聴いてから自然と緑に目がいくようになった。昨日も無印に寄ったとき、いつもは行かないグリーンが置いてあるエリアを様子見していた。知らないうちに影響されている。
そんな訳で、家に植物が置かれる日は近そうだ。
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