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【演劇】【稽古の仕方改革 草の根プロジェクトの検証結果発信_No.1】模擬稽古日程組みによる、稽古の仕方改革の検証

(1)模擬稽古日程の想定条件

◇当プロジェクトチームからの『発信_No.0』の最後の部分で、稽古改革の余地を模索するにあたり、まず集中稽古に着目したい旨を言及しました。
◇論より証拠、さっそく模擬的な稽古日程を組んでみて、集中稽古のあり方を検討してみたいと思います。まず、以下のような条件で日程組みをおこなってみます。
※こちらは、これまで自分が実際に参加してきた公演の稽古スケジュールをベースにしており、多くの劇団・座組で、一定以上汎用性のある稽古パターンかと思っております。

【模擬的に組む稽古日程の想定条件】
☆公演期間 = 水曜初日~同じ週の日曜終演という公演を見立て、その稽古を仮想的に構築しています。
☆稽古期間 = 公演週含め、約1ヶ月半 (≒7週間) / 週当たり稽古日数 = 1・2週目は週2回、3~5週目は週5日、6週目は毎日(7週目は小屋入り~本番)
☆集中稽古期間 = 6週目より開始 (←小屋入りの1週間前から開始にあたります)
※集中稽古前に1回通し稽古を実施すると想定し、4週目にも1日だけ昼夜連続稽古を見立てています。
☆総稽古時間 = 計算したところ、136時間となりました(※後述しますが、これがキーポイントの1つと考えています。)

上記をふまえて、実際に組んだ次の模擬稽古日程をご参照ください。

模擬稽古日程1-1
模擬稽古日程1-2

(画像はクリックで拡大してご覧いただけます。)

(2)模擬日程から読み取れることと、打開策

◇先述のように上記の日程では、小屋入り1週間前より集中稽古を開始しています。質の高い稽古を展開したい座組において大いに採られ得る日程かと思います。集中稽古開始がもっと早い座組もあろうかと思います。
一方で、当座の生活費の為の仕事時間の確保という目線ではどうでしょうか。たとえプロを目指す演劇人であっても、その時間は当然必要であることは言うまでもありません。
◇日程表の右端にその軸での分析を施していますが、昼夜に渡る稽古となるため、生活費の為の仕事時間の確保は、集中稽古初日からかなり難しくなります。かつ、そうした昼夜シフトが基本的に本番終了まで続きますので、結果、生活費を得られない(想定)期間は14日間にも渡ります。
◇その間、オフ日や夜公演のみの日もあると思いますので、うち3日は生活費仕事の時間確保がなんとか可能と見立てました。しかし、その日を抜いても11日です。更に、週休2日と考えた場合、上記14日間のうち4日は仕事想定外の日となりますが、それでも都合7日は生活費確保ができない事となります。

◇演劇人は、こうした「生活費確保の危機」を、公演に参加するたび乗り切らなくてはいけない事となります。演劇人としての実力とは無関係の部分で、大変高いハードルが課されていると感じます。

◇ここで、稽古にある工夫が施せるのではと考えます。この昼夜兼行で行っている稽古を何日か、夜のみ(または日中のみでも)の稽古にできないものでしょうか。夜のみにした分だけ、稽古日を増やすイメージです。総稽古時間ベースで同じ時間であれば、稽古の質は保てると考えられます。
この条件で調整を試みたところ、稽古日程は次のように変わりました。

【調整後】模擬稽古日程1-1
【調整後】模擬稽古日程1-2

(画像はクリックで拡大してご覧いただけます。)

(3)稽古の時間/日程調整により得られること

【トリミング版】模擬稽古日程 調整前・後比較

(画像はクリックで拡大してご覧いただけます。)

◇集中稽古期間のうち、場面転換の練習や音響を交えたテクニカルな稽古が確実に入るであろう後半に比べると、前半は昼夜→夜のみへの調整が比較的可能ではないかと考えました。
◇ふまえて、調整前の日程上集中稽古期間であった前半4日の昼分を、別の日の夜稽古に振替調整しました。調整後日程では、稽古開始を早める形で、4日分稽古日を増やしています。
◇調整前と調整後の稽古日程の主な軸での比較結果が上記の表となります。4日分昼夜稽古が減った事により、生活費を得られない(想定)期間が最低7日から、最低3日に減少するという結果が得られました。
◇調整前後で稽古時間は変わっていません(136時間)。稽古時間を無駄なく有効に使えば、たとえ集中稽古の日数が減っても、稽古の質は同等たりうるのではと考えます。(次頁・最終まとめの(4)に続く)

(4)まとめ:今より無理のない稽古はほぼ間違いなく可能

◇読者の皆さんは、この結果をどのように感じますでしょうか。筆者としては、思ったよりも容易に、稽古の時間と当座の生活費確保仕事の時間の競合を低減しうるシミュレート結果が得られたと感じています。
◇模擬稽古日程や(3)のまとめで見てきた、7日以上(ほぼ)連続で生活費確保仕事のお休みが必要という状況(≒現況)には、下記のような複数の面にわたるリスクがあります。 
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▼必要な生活費が得られない:借金や心身の健康面のリスク
長期にわたるお休みによる、解雇のリスク、または長期就業できないリスク
▼(時給仕事かどうかに関わらず)長期就業によれば普通に得られるであろう「職能」を、延々得られないリスク
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◇7日のお休みが3日で済むのであれば、上記いずれのリスクも相当に低減することができるのでは、と思われます。
また、その代償となる4日分の稽古増加は、受容可能なレベルではないかと思います。
◇この模擬稽古日程では『稽古期間約1.5か月・本番5日』という前提でシミュレートしましたが、稽古期間/本番共に期間に長短の違いあっても、昼夜稽古を夜or昼のみに調整→その分稽古日数を増やすという調整ロジックは同じです。
カギとなるのは、『総稽古時間』を稽古の質を管理するうえでの物差しとすることだと考えます。総稽古時間が同じであれば、稽古日程が調整されても基本的には稽古の質は同じになる「はず」ですし、総稽古時間の意識を持つことで、「同じ時間稽古しているが、自団体の過去と比べて現在の稽古の質はどうか」とか、あるいは「他の団体の総稽古時間分の成果と比べて、自団体の稽古の質はどうか」、といった意識を持つこともできます。『総稽古時間』の基準を持つことで、稽古の質は下がるどころか、むしろ向上するきっかけをはらんでいると思います。

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