【単語リクエスト➀】駅×愛
──駅は愛が通る場所だと、小説の一節で読んだことがある。本好きの他人(ひと)に勧められて読んだ本だった。
その他人は、いま腕の中にいる彼女でないことは確かだ。
──ごめん、好きになれなかった。
ふんわりとした笑顔が可愛くて、人懐っこい。それでいて芯の強い彼女。
ゆっくりと腕をほどくと、彼女はうつむいたまま一歩後ずさった。
少しずり落ちたショルダーバッグの肩紐を戻してやると、彼女は泣き笑いの顔をした。
「…とおる君ってほんと、…。」
僕に聞こえないくらいの声でつぶやいた彼女は、2回横に小さく首を振ると顔を上げた。
「ありがとう。さよなら。」
そういうと、彼女は改札を通り、ホームの人込みへと消えていった。
──2駅隣の町に住む彼女とよく待ち合わせた、僕が住む町の駅。
ここに来るたびに思い出すに違いない。
この駅で「またね。」と笑顔で手を振り、それきり帰らなかった彼女と、「さよなら。」を置いて去っていった彼女のことを、これからもずっと。
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