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金の麦、銀の月(12)

第十一話 確信

本の読み方には、その種類が大きく分けて2つあるように思う。

元来文系の私の好きな本といえば、絵本やフィクション小説といったものに偏っていた。サスペンスやミステリーといった、小説は避けて通ってきたようなものだ。考えながら読むと言うよりは、読むうちに文体が染み込んでくる、と言った方がしっくり来る。文学部の春日部さん達もわりあい私の読み方に似ていて、物語の中に没入し主人公と併走しながら読み進められるようなストーリーが好きだという。

片や堀は、ミステリーなど最後に大きなどんでん返しがあるような本を好んで読んでいる。主人公より先に仕掛けを見破れるかが勝負で、ずっと先を見据えながら読むそうだ。理学部の阿部くんは本が与えてくれる情報と自分の知識と照らし合わせながら読んでいるらしい。自分の知らないことが出てくる本に興味を引かれるらしく、いつも難しそうな本を小脇に抱えている。

本と自分という二つの軸があり、それらが時に勝負するような読み方には新鮮さを覚えた。それは、逆も然りで理系の二人も私たちの読み方を新鮮に感じているようだった。

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松下さんが思いついた、というふうに小さく手を挙げた。

「みんなが知っている本を一冊選んで、それぞれの読み方で紹介するっていうのはどうかな? 」

うんうん、と頷くと松下さんは言葉を続けた。

「私は古典専攻だから、例えが古典になっちゃうんだけど、かぐや姫ってあるじゃない? かぐや姫が出てくる光る竹って、よく考えるとなんで光るんだろうって。あれって、かぐや姫が光ってるはずなんだけど、どのぐらい光ってるのかとか分かると面白いんじゃないかなと思う。」

確かに面白そう、と頷いていると、堀があっと声を上げた。

「それって、空想科学読本に載ってるかも。」

何それ、と興味津々に堀を見つめると、堀はちょっと待ってと言うと何やらスマホで調べだした。阿部くんも知ってる、と言うふうに頷いている。

「…あったあった。これ見て。」

みんなで堀のスマホをのぞき込むと、何やら博士のような格好をした人の写真が載っている。

「柳田理科雄さんっていう人なんだけど、小説とか漫画の空想部分を大真面目に検証してて、読みやすいしとっても面白い本なんだよね。」

自分のスマホでそのサイトを調べて読み進めると、堀が言った通りかぐや姫はどれくらい光っているのかという検証がされていた。他のみんなももくもくとサイトを読み進めていたが、顔を上げると、みんなの表情がこれだ!と確信を得たものに変わっていた。

「…たぶん、街の図書館の児童書コーナーに置いてあるから、今度みんなで借りに行く?」

みんなの空気感に気圧された様子で、堀が小さく街の方を指さした。


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◈主人公◈

中原美月(なかはら・みづき) 
26歳 会社員・作家
ペンネーム 月野つき
大学時代のサークル 文芸サークル

佐野穂高(さの・ほだか)
27歳 作家・ライター
ペンネーム 穂高麦人
大学時代のサークル 演劇サークル

◈登場人物◈


18歳(当時)
工学部
所属サークル 文芸サークル
趣味 ゲーム

春日部さん
18歳(当時)
文学部
所属サークル 文芸サークル

松下さん
18歳(当時)
文学部
所属サークル 文芸サークル

阿部くん
18歳(当時)
理学部
所属サークル 文芸サークル

金の麦、銀の月マガジンはこちら


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作中の柳田理科雄さんの空想科学読本は実在する本です。面白そうだなと思った方はこちら。ご参考までに。とっても面白い読み物です。

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