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読了【心霊探偵八雲・青の呪い】神永学

久々に本を一冊読み終えた。
ここ数年、読書とかなり疎遠になっていたが、最近転職して電車通勤になったため、朝と夕方は電車に揺られながら30分ずつ本を読むようになった。

表題の本はその記念すべき1冊目。
なんとはなしに計ってみたが、本を読むスピードとしては30分弱で80ページほどだろうか。

今まで本を読む時間について考えたことはなかったが、調べてみると1時間で100〜150ページ読み進めるのが平均らしい。そう考えると少し早めかもしれないが、今回読んだ八雲シリーズはキャラクターたちの会話中心の文章なので読み進めやすいというのもあるかもしれない。

「心霊探偵八雲」と出会ったのはいつか、と問われるとはっきりとは思い出せないのだが、小学校高学年〜中学1年生くらいだと思う。文庫本で全巻揃えている上に、神永学先生のサイン本も買い求めるくらいには昔からの大ファンである。八雲シリーズ以外だと「革命のリベリオン」も好きだが、続刊がなかなか出ないので待ちくたびれている。

さて、この小説はキャラが立っている、と書いたが実際、主人公である斎藤八雲は2013の「決定!みんなが選んだ発見!角川文庫グランプリ」で、好きな男性キャラクターランキング1位を獲得してる。推し贔屓もあるかもしれないが、神永学先生の書く人物は本当に存在する人物のように生き生きとしている。

陶器のような白い頬の上に真っ赤な瞳を湛えた八雲。春風のような軽やかな空気を纏いながらも、抱えきれない大きな後悔を抱える晴香。無骨だか自分の身を呈してでも周りの人を助ける熊のような大男・後藤刑事。上司の後藤とは正反対で細っこく、よくずっこける上に臆病だが、窮地に陥った時の奮闘ぶりに思わず応援したくなる石井。

など、彼らの色とりどりの個性は八雲の人生を左右していく。そして、彼らに共通しているのは、非常に「おせっかい」ということである。

赤い瞳が原因で人生を達観し、人と深く関わろうとしない八雲だが、晴香たち「おせっかい」集団(?)と出会ったことで様々な事件に巻き込まれ、自身の運命と向き合っていく。もがき苦しむ八雲であったが、晴香たちの存在が次第に八雲の心を溶かし、絶望の淵にあった八雲を明るい運命へと導いていく。

そして、今回読了した『青の呪い』はそんな八雲の高校生時代を描いた作品である。

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以下ネタバレを含みます。

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『青の呪い』(以下本作)は、声に色がついて見える”サウンドカラー共感覚”を持つ琢海目線で書かれ、物語の中心となるのは彼の通う高校で噂される「呪いの絵」。この絵をめぐって事件が次々と起こり、琢海が心を寄せる先輩・真希や彼のクラスメイトが巻き込まれて行く。

他人とは違う能力を持つ琢海は、本編のヒロイン・晴香とは異なり、どちらかというと八雲と同じようなどこか達観した雰囲気を纏っている。

八雲はそんな琢海のクラスメイトとして登場するのだが、中学生時代の八雲は相も変わらず寝癖だらけの頭をしている。赤い左目はコンタクトで隠してはいるが、この頃からすでに鋭い観察眼を持ち、琢海たちの身に起こる事件を解決へと導いて行く。その過程では八雲にゆかりのある人物も度々登場するため、本編を読んでいる人はさらに楽しめるに違いない。

本作は心霊探偵八雲シリーズの流れを汲み、八雲が心霊にまつわる事件を解決していくのだが、それとはまた別に大きな主題があるように思えた。

”他人とは違う能力”を生まれ持った人間”

物語の中で八雲と琢海だけがそれに当てはまる。
そして、彼らはその能力を畏怖され、心無い言葉によって負った深い傷を心に抱えている。

境遇が似ていることから2人は交わりかけたが、琢海は大切な人を思うあまり、事件終盤に八雲の期待とは真逆の選択をしてしまう。琢海とは分かり合えると思った矢先のこともあり、八雲の様子から悲しみが伝わってきた。

八雲や琢海の想い人である真希のおかげで事件は解決し、最後に琢海は自分の能力を受け入れ前を向いて歩いて行く様子が描かれる。

そして、なんと言っても本作の最後の文章。本編でこそないが、八雲の物語の結びとしてあまりに美しい文章だった。
これまで八雲シリーズを読んできた人は八雲の物語が完結したことに強い寂しさを覚えたと思うが、その最後の文章は私たち読者の寂しさをじんわりと和らげる、とても優しく温かい日差しのような一文だった。

今回の作品は『青の呪い』という表題にふさわしく、八雲や琢海の纏う静かな雰囲気も相まって、ひんやりと張りつめたような空気を持つ作品であるが、ラストに向けて琢海や八雲が変わっていく過程が描かれていることで最後は温かい感触で読み終えられる。

八雲シリーズは私が唯一10年近く読み続けている作品であり、これからもっともっと多くの人に読んでもらいたい物語の一つである。

P.S. 小説はちょっと手が出し辛い…という方は、小田すずか先生の漫画版を読むのがオススメ(とても綺麗なタッチで八雲のもろく崩れそうな雰囲気もしっかり描かれている。)

現在「デルフィニア戦記 国王の受難」を読書中📕

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