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ショートショート作品まとめ

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【ショートショート】や【掌編小説】など短めの作品をまとめています。
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#小説

【ショートショート】“古い油絵”のような男

今日、隣で飲んだ”古い油絵”みたいな男はお屋敷で音を飼っているらしい。 見た目はまるで画家だが、”古い油絵”は音楽家と名乗った。無学なもので申し訳ないと前置き、音を飼うとはどういうことか聞くと、男は屋敷に来た方が早いと言い、半ば無理やりBARから連れ出された。 ”古い油絵”が屋敷と言うものだから、何となくこうおどろおどろしい大きな洋館だと思っていたが、なんのことは無い。着いてみるとただの小さなアパートの一室だった。 何やらキーホルダーのジャラジャラ付いた鍵をジャラジャラ

【掌編小説】カバンの中の

カバンにいっぱい詰めたはずの夢や希望が、走れば走るほど零れ出ていってしまった。 軽くなったカバンが悲しくて、私は走るのをやめ、ゆっくり歩きながらカバンの中を見た。そこには、夢や希望の転がりでた空っぽのカプセルがあるだけだった。 私はむしゃくしゃしてカバンをひっくり返した。空っぽのカプセルはとても軽くて、四方八方に飛び出していった。 その中で一つだけ、地面に落ちて大きくはねたカプセルが目に入った。私は無意識に手を伸ばし、つかみ取っていた。そのカプセルの中に小さい青色が見え

【掌編小説】雨

雨が降ると決まって、右手の親指が痛くなる。 傷はとうの昔に消えたけれど、あの感触だけは覚えている。 初めて家に連れてきた彼女に噛みついたのを叱った日。僕に爪ひとつ立てることが無かったのに、初めて僕に噛みついた日。そして、少し開いた窓から飛び出して行った日。 そして僕が君を追いかけなかった日。 雨は好きだ。 君の僕への愛情を鮮烈に感じたあの雨の日を、僕はずっとこの痛みと共に心に抱き続けている。

文末タイトル①

うん、いい塩梅の寝床だ。 体温より少し緩くて、うたた寝するにはぴったりの四角い寝床。 むにゃむにゃと目を擦っていると、上から覗くものがいる。見上げると、大きいのが困った顔で見つめてきた。 はて、何用だろうか。先程、存分に背中は撫でさせたが。 黙っていると、何やらにゃあにゃあ言ってきたが、この大きいのは何を言っているのかさっぱり分からない。 それよりもさっきから、寝床がブルブルしている。 うん、震える寝床っていうのもなかなか心地がいい。 ━━━━━━━━━━━━━━

【掌編小説】四角い空

花が色とりどりに咲き乱れ、草が青々と茂った場所だった。毎日誰かが手入れをしているのだろう。寝心地はとてもいい。 羽を閉じてずっと空を見上げていた。さまざまに表情を変える空。霞むほど高い壁に四角く切り取られたその空は美しいけれど、いつもたくさんの目がこちらを覗いている。飛んでいても、走り回っていても、眠っていても、何をしていても。 あぁ、あの目から開放されたい。 あの美しい空に思いっきり飛び出したい。 空はどんな感触がするのだろう。 水のようにとろとろと私を包むのだろうか

【掌編小説】きみを待つ夢

僕はパク。 ぼくは君のおじいちゃんのおじいちゃんが生まれるずっと前から生きている。 ぼくのおにいちゃんは、バクって名前。みんなが夜に見た悪夢を食べる。ちょっと涙の味がするんだって。 ぼくはおにいちゃんとちょっと違って、みんながなくしてしまった夢を食べている。 みんなの夢はどれもキラキラしていて、ふんわりしている。焼きたてのパンの匂いがしたり、焦がしキャラメルみたいな香ばしい匂いがすることもある。 もしきみが夢を思い出した時、もう一度夢を叶えたいと思った時、きみの夢は