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ショートショート作品まとめ

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【ショートショート】や【掌編小説】など短めの作品をまとめています。
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2021年5月の記事一覧

【ショートショート】“古い油絵”のような男

今日、隣で飲んだ”古い油絵”みたいな男はお屋敷で音を飼っているらしい。 見た目はまるで画家だが、”古い油絵”は音楽家と名乗った。無学なもので申し訳ないと前置き、音を飼うとはどういうことか聞くと、男は屋敷に来た方が早いと言い、半ば無理やりBARから連れ出された。 ”古い油絵”が屋敷と言うものだから、何となくこうおどろおどろしい大きな洋館だと思っていたが、なんのことは無い。着いてみるとただの小さなアパートの一室だった。 何やらキーホルダーのジャラジャラ付いた鍵をジャラジャラ

【掌編小説】猫々と犬々

最近、猫をお散歩させている紳士とよくすれ違う。深いグレーの毛並みの猫は、首に赤いリボンを結び付けられ、少し太めの赤いリールで繋がれていた。 あれ、猫ってこういう犬らしいお散歩なんて嫌いじゃなかったかしら。 そう思っていたある日、猫の方から話しかけてきた。 「そんなに意外?猫だってお散歩好きなのよ。」 なるほど、と猫の顔をまじまじ見ると確かにいたって楽しそうだ。 よくよく考えてみると、猫と犬どっちが好き?なんて構図は人間が考え出したものだし、本人たちからしてみれば、猫

【ショートショート】忘レ袋

最寄り駅の近くにあるこじんまりしたガラクタ屋で、「忘レ袋」と書かれたボロボロの小さな麻袋を見つけた。なんとなく気になって、手に取ってあれこれひっくり返して見てみたが、どこにも値札がない。奥でふんぞり返って新聞を読んでいる主人に聞くと、こちらに見向きもせず、指を三本立てて見せた。 切り出した木の板をそのまま横たえたような大きな木のカウンターに千円札を三枚置くと、主人は千円だけ抜いて小銭をバラバラとカウンターに置いた。五百円玉が一枚と百円玉が二枚。どうやらさっきの三本指は三百円と

【ショートショート】神様はお客様です

私は目の前の神様を必死でとめた。 「だぁめですってば!この間も貴重な本が1冊燃えたんですよ!」 すんでのところで、背表紙を抑えると神様は「あっ」と言って手の炎を引っ込めた。 「自分から炎が出てること忘れないでください!これ言うの10回目くらいですよ!そのうち、うちの店全部燃えちゃいます...!」 涙目でそう訴えると、その神様はみるみる縮こまり、しゅんとした。 「ごめんなさい…自分から炎が出ることついついわすれちゃって...。」 この見るからに肩を落としてしゅんとし

【掌編小説】カバンの中の

カバンにいっぱい詰めたはずの夢や希望が、走れば走るほど零れ出ていってしまった。 軽くなったカバンが悲しくて、私は走るのをやめ、ゆっくり歩きながらカバンの中を見た。そこには、夢や希望の転がりでた空っぽのカプセルがあるだけだった。 私はむしゃくしゃしてカバンをひっくり返した。空っぽのカプセルはとても軽くて、四方八方に飛び出していった。 その中で一つだけ、地面に落ちて大きくはねたカプセルが目に入った。私は無意識に手を伸ばし、つかみ取っていた。そのカプセルの中に小さい青色が見え

【掌編小説】雨

雨が降ると決まって、右手の親指が痛くなる。 傷はとうの昔に消えたけれど、あの感触だけは覚えている。 初めて家に連れてきた彼女に噛みついたのを叱った日。僕に爪ひとつ立てることが無かったのに、初めて僕に噛みついた日。そして、少し開いた窓から飛び出して行った日。 そして僕が君を追いかけなかった日。 雨は好きだ。 君の僕への愛情を鮮烈に感じたあの雨の日を、僕はずっとこの痛みと共に心に抱き続けている。

【掌編小説】てんとう虫が寝てる間に

まあるい朝露をちゅるっと吸い込むと、微かに花びらが揺れた。 花の奥で休むてんとう虫がピクリと動いたのが見えて、焦って息を潜めたが直ぐに寝入ってしまった。 まだ薄暗くて涼しいこの時間の朝露が1番とろんとしていて美味しい。てんとう虫が寝ている間にこっそり飲みに来るのも、ちょっとした楽しみだったりする。