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【オリジナル小説】金の麦、銀の月

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【金曜日更新】オリジナル小説「金の麦、銀の月」のまとめです。 地道に連載していく予定です。
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金の麦、銀の月(14)

金の麦、銀の月(14)

第十三話 曇天

図書館から一歩外に出ると、どんよりとした雨雲が空一面に広がっていた。今にも雨が降りそうな様子に、みんなは眉をひそめた。

「傘もってきてないのに…。」

春日部さんが小さく漏らすと、松下さんが慌ててカバンをのぞき込んで安堵の表情を浮かべた。

「さくら、大丈夫。私折り畳み持ってるから。」

私の隣に立っている堀はカバンから大判のタオルを引っ張り出すと、頭の上からかぶって見せた。

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金の麦、銀の月(7)

金の麦、銀の月(7)

第六話 幕開け

待ちに待ったステージの幕が上がった。

装飾も何も無い舞台の真ん中には、光沢のある茶色い椅子がぽつんと一つだけ置かれている。そして、こちらに背中を向けて座る女性。呼吸音と共に肩が僅かに動く。泣いているのだろうか。長い髪がするりと肩から落ち、彼女はゆっくりと空を見上げた。すると、彼女を照らすスポットライトの中を、細く長い糸が静かに降りてきた。彼女はしばらくそれを見つめると、酷く緩慢

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