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【王立サヤーム協会図書館】タイの伝統的なタトゥー・サクヤンのデザインや意味について調べてみた

※サクヤンについての記事はタトゥーを推奨するものではありません。
タイでのサクヤンはロッド使い回しなのでHIVや肝炎感染の可能性もあります。
また、タトゥーは簡単に消せるものではありませんのでよく考えてから入れてください。

2023年6月の旅行では、タイの伝統的なタトゥーサクヤン(sak yant)】を頂きに行くことも目的のひとつでした。

まずは予習として、【王立サヤーム協会(The Siam Society Under Royal Patronage)】の図書館でサクヤンについての資料を読みに行きました。


王立サヤーム協会とは

タイおよび東南アジアの近隣諸国の文化や歴史、芸術や遺産保護に関する研究と知識の共有を目的としたコミュニティスペースです。

王立サヤーム協会には
世界中からたくさんの
研究者が訪れます

併設するカムティエンハウス博物館では、ラーンナー様式家屋やその当時の文化を見ることができます。

ラーンナー式家屋の
カムティエンハウス博物館

博物館は数回訪問したことがあるため今回は立ち寄らず、図書館へ資料探しに行きました。

もちろんカムティエンハウス博物館も、素晴らしい場所です。
MRTスクンビット駅からもBTSアソーク駅からも近いので、バンコク旅行の際はぜひご覧になってみてください。

王立サヤーム協会図書館の特徴

貴重な蔵書がたくさん

タイおよびその他の東南アジア諸国の美術、人文科学、社会科学、自然科学を専門としています。

希少本やヤシの葉写本などの優れたコレクションがたくさんあります。

プミポン国王と玉座。


バンコク国立図書館
もおすすめなのですが、今回はサクヤンについて調べたかったのでタイ北部の民俗学についての資料が豊富なこちらの図書館を選びました。

王立サヤーム協会は会員制コミュニティのため、非会員は100バーツで図書館を利用することができます。
ちなみにバンコク国立図書館へ入館するにはパスポート提示の必要がありますが、この図書館は必要ありません。

受付で名前を書き、利用料を支払います。
図書館入り口横に蔵書検索用PCもあります。

織物の技法や図柄についての本
昔の装飾物に使われていた
ビーズのデザイン本

サムナックは村の何でも相談所

タイ語の本エリアと他言語の本エリアに分かれており、英語の本は近代のサクヤン写真集ばかりだったので、チェンマイ大学のサクヤン調査書を読むことにしました。

チェンマイ大学の
サクヤンに関する報告書。
Googleレンズ大活躍です!

サクヤンというと【呪術的な護符刺青】の側面だけが強調されがちです。

しかし、昔はサクヤンを入れる場所・サムナックは村人の何でも相談所のような役目をしていたようです。

僧侶になり叙階後、還俗した男性がサムナックを運営しており、仏教の様々な知識を持っているので慶事の進行や、村人のお悩み相談も受けていました。
漢方薬の知識に長けており治療を施したり、シャーマンとして悪霊を祓ったりすることもあります。

サクヤンを学び、施すことのできるサクヤンマスターのことを、今でもアジャーン(先生)と呼びます。
まさにみんなの先生だったのですね。

鳥獣のサクヤンの図柄と意味

旗のサクヤンは
「勝利」を意味するそうです


私は常々タイ人のタトゥーを見て、神様とかヤントラは自分を守ってくれそうやけど、豚やヤモリ、虎の図柄に何の意味があるんやろう?
と思っていました。

この調査書を読んでようやく理解できました。

タイ北部の人々は常に隣国からの侵攻に脅かされてきたため、士気を高めるために鳥獣や虫のサクヤンを入れることで、そのアビリティを身に付けられるという宗教的信念に頼らざるを得なかったのですね。

犬のデザインもあります。
残念ながらこのデザインに
ついての説明はありませんでした。

例えば虎のタトゥーは、虎のように勇敢で機敏で攻撃力が高いという能力を自分へ付加したいというときに入れます。

黒猫さんの図柄が
シャー!と威嚇してる時みたい


猫は聴覚や嗅覚に優れ俊敏に動くことができます。
特に黒猫は暗闇で見つけにくいことから、両肩に黒猫のタトゥーを入れると敵から見つかりにくいと信じられていたそうです。

このくだりで面白かったのが、もし敵に捕まってロープや鎖で繋がれても両肩の黒猫タトゥーに唾を付けて呪文を唱えると、猫のようにスルリとすり抜けることが出来ると信じられていたことです。

うさぎや孔雀のデザインも
あるのですね

自然の生き物の持つ能力と宗教的なものを融合させる独自のタトゥー文化。

ワット・プーミンの有名な壁画にも
サクヤンを入れた男性が描いてあります。
出典:THAILAND MUSEUM

中には女性にモテたいということで、強く勇敢で絶倫なんだぞ!という意味を持つ、ここではお見せ出来ないような過激なデザインもありました。

図柄が落書きっぽいというか、良く言えばプリミティブなのでそこまで生々しくは無かったです。

現在のサクヤンの役割

生活は平和になり、昔ほどサクヤンを入れる必要性は無くなりましたが、アビリティを身に付けたいという意味では方向性はあまり変わっていないです。

お金持ちになりたい、愛されるようになりたい、勝負事に勝ちたいなど、それぞれ色んな意味を持ったデザインのタトゥーを入れています。

特にムエタイファイターやナイトワーカーの女性にサクヤンを入れている方が多いのはそういう理由なのでしょう。

アジャーンの腕には
ムカデのサクヤンが
彫ってありました。
photo by IG:hi.tomita_

タイでも日本と同じく反社会勢力に関係している可能性が高いという理由から、公務員やCA、大企業などではタトゥーを入れてる人は採用しない所も多いそうです。

しかし、宿泊ホテルのホストによると「みんな背中とか太ももとか見えないところに入れてるよ」とのことでした。

警察官や軍人も危険から身を守るという意味で、見えない所にサクヤンを入れている人も多いとか。
と聞いたけど、警察官のサクヤン見えてる率高いと思うねんけどなー。

若い人には小さいサクヤンや、見えないようにインクでは無くオイルでサクヤンを入れるのが人気のようです。

形は変われど、いつの時代でも、何かに頼りたいという感情は変わらないのですね。

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