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『見えない愛情』

 "新しいコートをそろそろ買い替えようかな?"

今着ているコートが痛み始めたときそう考えはじめてやや数週間。

 色々お店を見てみたりネットを見てみるが、自分になかなかしっくりくるものがなかった。これはいいかも?と思っても値段が高くてガックリと肩を落とした。
 買うのは先延ばしにしよう。そう思っていた矢先、ふと母に中々見つからない旨を話してみようと思い、一連の話をした。

「それなら、おばあちゃんのコートがとってあるよ。デザインも古く感じるものじゃなかった気がする。待ってて、出してくるね。」

 母はそう言って祖母のコートを出しにクローゼットがある2階へ行った。暫くして階段の音をトタトタとたてながら母が戻ってきた。

「これだよ。見てみて。」
「わぁ!!素敵なコート!…これ本当に昔の物って言うくらい綺麗だね。」
「1〜2回は着ているところはみたけれど、殆ど着物だったからね〜。その後病気もしちゃったし」

祖母のコートは言葉通り約40年前のものとは思えない程とても綺麗な状態だった。母が大切に保管してくれたのもあるだろう。ベージュのシングルのロングコートはとてもおしゃれでボタンも飴色なところがレトロさを感じる部分がいい。

私は早速祖母のコートに腕を通してみた。コートの生地がとても暖かく着心地がとてもいい。ふと、ここで驚いたのが着丈がぴったりだったことだ。

「あら、ぴったりね〜!おばあちゃんも貴方と同じくらいの背丈だったからかしらね〜!素敵!」
「うん!とても素敵で気に入ったよー!これもらってもいいの?」
「うん!自分の孫が着てくれるんだもん!そりゃ喜ぶよ〜!」
「そうだと嬉しいな!」

 コートを見つめながら祖母の事が頭を巡った。祖母は母が23歳の頃に癌で亡くなった。まだ50代という若さだ。決して病気になっても絶対に治すんだ!という気持ちは人一倍強くリハビリにも取り組んでいたらしい。頭もよく、茶道もやっていたと聞く。まさに才色兼備とはこのことだと思った。
本当に強く逞しく美しく生きた祖母。最後は皆に『ありがとう』という感謝の言葉を遺して旅立っていった。

 祖母のことは写真と母の思い出の中の祖母しか知らない。祖母に会えない寂しさは感じる時はある。今生きてたらということも考える。
一度脱いだ祖母のコートを再び羽織ると、じんわりと温かさを感じる。
もう、姿形は見えないけれど「これを着なさい」と祖母が言ってくれてるのかもしれない。
そう考えてぽかぽかした気持ちと嬉しい暖かさを感じながらコートの端をギュッと握った。
見えるものだけが愛情じゃない。自分がこの世にいなくなったとしても伝えられる想いが伝わる事もあるのかもしれないと思った。
偶然かもわからないけど、暖かなコートを羽織ったときから確かに感じた。じんわりと優しくも温かい見えない愛情というものを。

12月は祖母の命日、大晦日前にはお墓掃除がある。
その際にお礼を言いにいこう。
ありがとうと


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