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連覇を果たしたセ・パ2球団の投手運用についての考察

こんにちは、シュバルベですᕙ( ˙-˙ )ᕗ

ヤクルトスワローズファンの皆さま、セリーグ連覇おめでとうございます。
オリックス・バファローズファンの皆さま、パリーグ連覇おめでとうございます。

今年もコロナウィルスの影響でどの球団も山あり谷ありのシーズンでしたが、19-20年と2年続けて最下位に沈んだ両球団が連覇を果たしたというのはまさに歴史的快挙でしょう。

日本シリーズにともに駒を進め、昨年のような野球の面白さが詰まった試合がこの後待っていると思うと楽しみでなりません。

さて、ともに連覇を果たすに際して、欠かせなかったと思うのが投手の運用です。前半戦、スワローズは先発投手の「ゆとり運用」に注目が集まり、私もそれについての記事を掲載しました。

勿論、投手運用に優れているのはスワローズだけでなく、早くからDELTA社の岡田友輔氏は両球団の投手運用に注目しており、昨年の10月時点で日経新聞にてこちらの記事をUPしています。

さて、今年は実際どうだったのよ、というのを以下に書いていきます。

1.リーグ別の投手成績

まずは前提として、セリーグとパリーグの先発投手/リリーフ投手のベースとなる成績から見ていきましょう。

こちらがセリーグのチーム別の表です。

tRA:与四死球、奪三振、被打球による投手評価
(参照:https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_index_detail.aspx?gid=10143)

スワローズは先発投手で7つの貯金を作っていますが、防御率・イニング数・K-BB%・tRAいずれもリーグ最下位。リリーフ投手は防御率・tRAともにリーグ3位でなんと貯金を14も作っています。

先発投手については質があまり良くなかったものの、リリーフ投手はそのマイナスをリカバリーするだけの力を発揮し、それ以上に打線の援護が大きかったであろうことが考えられます。

続いて、パリーグはこちら。

オリックスは先発投手で12球団最多の貯金11を作り、投球回・防御率・K-BB%・tRAすべてにおいて圧倒的TOPとなっています。リリーフも貯金は作れていませんが、防御率は3位、K-BB%は2位、tRAは1位。先発投手を中心としたチームの戦い方だったと考えるのが自然でしょう。

両リーグに共通しているのは、Bクラスの3チーム×2の6球団はいずれも先発投手の貯金がマイナスとなっていることぐらいですね。勝ち星と投手としての能力の間には相関関係がないことは既に広く知られていますが、やはり先発投手が勝てないとチームの順位が上がらないこと(この間には野手の影響値が非常に大きいですが)だけは間違いないですね。

さて、スワローズとバファローズ、この2球団の投手の立ち位置をざっくり見たところで、以下本題に入っていきましょう。


2.ヤクルトとオリックスの先発投手の運用を考察する

まずは両チームの先発投手に着目していきましょう。

運用面を考察するに際して、どの数字を用いるべきか。以前、ロバートさん(@robertsan_CD)が作成された表が非常に直感的に分かりやすかったので、同じ考え方を導入しましょう。一つはイニング数で、これは分かりやすいですね。もう一つはその投手の1試合当たりの質、長いイニングを少ない失点で投げ切れたかをざっくり示すQS率で取ってみます。

スワローズの先発投手のイニング数とQS率を2軸にして選手をプロットすると次のようになります。

規定投球回(143イニング)に到達したのは小川投手だけで、100イニング越えは5投手。40歳を超える石川投手が80イニングを超えており、小川・サイスニード・高橋・高梨・原・石川の6名の投手が先発のローテーションを主に担いました。昨年はシーズン中盤に田口・スアレスの2投手を先発からリリーフに転向させましたが、今年は上記6投手で最終盤までローテを回し続けました。

彼らのうち、小川・サイスニード・高橋・高梨の4投手はQS率50%を超えており、ある程度ゲームを作ってくれることが期待できたといえます。育成から今年支配下に上がった小澤投手が40イニング以上投げている点は、スワローズにおける新しい成り上がり方の一つかもしれません。

なお、前年の2021年は100イニング以上投げたのは小川投手と奥川投手の2人のみ。長いイニングを年間で投げられる投手の枚数はこの1年で増加しています。

登板間隔に着目すると、スワローズの主要な6投手は次のようになります。

中5日での登板は年間通して0。登板間隔を詰めないことを非常に意識した運用となっています。エース格の小川投手・サイスニード投手は中6日or中7日での登板が8割以上を占める一方で、ベテランの石川投手と経験の比較的浅い高橋投手については中10日以上の登板間隔を空けるケースが目立ちます。

この「ゆとりローテ」はスワローズがコロナ禍に見舞われる前は非常にクローズアップされました。しかし、先のnoteで詳述していますが、これは髙津監督が本来目指している先発投手運用ではないことはご認識ください。シーズン中のインタビューでも次のように答えています。

――投手起用については、中10日前後の間隔による、いわゆる「ゆとりローテーション」が続いています。この起用法については、手応えを感じていますか?

髙津 理想を言えば6人のエースがいて、週一回彼らが投げてくれるのがいちばんいいと思うんです。6人の先発投手で一週間を乗り切るのが、勝つ確率は高いと思います。でも、現実的にはどのチームも6人もエースがいるわけではない。だからうちの場合、現在はこの起用法が続いています。

2022東京ヤクルトスワローズ髙津流熱燕マネジメント第8回より

このように理想型とは異なるものの、リアルな現実に沿う形で中6日以上の登板間隔をベースとして、各選手の属性を見極めた登板管理を年間通して行ったのが今年のスワローズの先発投手運用だったと言えそうです。



続いて、オリックスの先発投手の同じ表がこちら。

なんといっても投手4冠を二年続けて獲得した山本投手の存在が光ります。200イニングに迫る投球回を投げ、QS率も85%。まさに「戦術・山本由伸」と言われるように今の12球団見渡しても圧倒的な支配力を持つ絶対的エースです。

100イニング以上投げているのは山本・宮城・山岡・田嶋・山﨑福の5投手。山﨑福投手以外はいずれもQS率50%を超えており、やはり個々を見ても非常に強力な先発陣だったと言えます。

一方、ローテーションの5投手以外ではワゲスパック投手の51イニングが最多でQS率は10%、いわゆる先発6番手には苦しんだ1年だったと言えそうです。

それでも中嶋監督ら首脳陣は根気強く先発6番手候補を当てがい、強力なコア5投手の登板間隔は詰めずにシーズンを送った点は留意すべきです。こちらが5投手の登板間隔をまとめた表となります。

山本・宮城・田嶋・山﨑福の4投手がシーズン最終盤の9月末に中5日で登板しましたが、他の全ての登板は中6日以上。シーズンを長い目で見て中6日の登板間隔で先発投手を決まった曜日に投げさせる徹底ぶりは、特に山本由伸投手の11週連続土曜日登板に象徴されているでしょう。

上記の5投手いずれも中6日での登板が最多となっており、一年通して彼らがローテーションをほぼ完璧に守ったと言うことが出来そうです。



先発投手について、セパ首位チームの運用を見てきました。DH制の有無で必然的にセリーグのチームの方がイニング・QS率ともに低くなりますが、少なくとも先発のローテーションという部分では次のように言えます。

  • ヤクルト:突出した投手はいないが、オーソドックスに6枚の投手を中心とした先発ローテーションを組み、投手の属性によって中10日も含めた運用を行った。

  • オリックス:山本由伸を中心に5枚の投手を中心とした先発ローテーションを組み、谷間となる投手を挟みつつ、最終盤の1週間を除き原則中6日で運用を行った。

ともにリーグ連覇を果たした2チームですが、先発投手の運用に関しては異なる考え方でシーズンを送りました。髙津監督ももしオリックスを指揮していたならば同様にコアの選手は中6日で回し続けたと思います。中嶋監督がスワローズを指揮していた場合はなかなか興味深いですね。


3.ヤクルトとオリックスのリリーフ投手の運用を考察する

前章ではヤクルト、オリックス2球団の先発投手の運用を見てきましたが、続いてはリリーフ投手の運用に目を移してみましょう。

まずはヤクルトスワローズから。

1章目で記載したように、スワローズはリリーフ投手だけで貯金を14稼ぎ、その内容も先発投手に比べて数字はリーグ内で良いものでした。リリーフで10イニング以上登板した投手を、イニング数と防御率を軸としてプロットした表が次のようになります。

※赤線はリーグ平均防御率

木澤尚文投手のイニング数が突出していますが、年間50イニングを超えたのは木澤・大西・マクガフの3投手。30~50イニングの間で6人のリリーフ投手がプロットされており、その内の5人はリーグ平均よりも良い防御率でフィニッシュしています。

ここに掲載されている12投手のうち4投手がリーグ平均よりも良い防御率で、スワローズのリリーフ投手の質は、やはり個人を見ても粒ぞろいだったと言えそうです。

運用面はどうでしょうか?日付ベースでの連投(2日連続=2連投、1日空いた2試合連続登板=非連投。の意)について、セリーグの各球団は次のようになっています。

※10イニング以上登板投手のみ

この連投回数について、スワローズは突出して少ない傾向にあります

3日続けての3連投は年間でわずか2度のみで、クローザーのマクガフ投手と久保投手の各1度。連投回数の最も多いチームであるジャイアンツは、高梨投手が一人で3連投を4度、4連投を1度経験するなど、チームによってリリーフ投手の連投に対する考え方はこの表1つとっても大きく異なることが分かります。

スワローズは2日続けての2連投も56度でリーグ最少の回数となっており、清水投手が10度経験しているのが最多です。2連投を2桁回数こなしている投手が1人だけというチームはセリーグでスワローズのみで、チーム最多の70.1イニングを投げている木澤投手でも2連投は7度だけ。非常に連投には気を遣ったシーズンでした。

但し、これは以前から意識していることではなく、今年新たに導入された運用方法だと考えられます。スワローズ単体で20年・21年とも比較してみましょう。

※10イニング以上登板選手のみ

同じリーグ優勝を果たしていますが、2021年のスワローズは9イニング制にも関わらず3連投が13度、4連投もマクガフ・清水の両投手が1度ずつ経験するなど、連投を厭わない運用でした。2020年も4連投こそありませんが3連投は8度。しかもこの年は試合数自体120試合でした。

むしろ2022年だけがここ3年間で極端に連投を少なくした運用を行ったシーズンとなっています

当然ですが、投手の連投が減りさらに勝つことが出来れば最高です。選手はよりフレッシュな状態で日々の試合に向かうことができ、長く野球人生を送れる可能性が高まるからです。

但し、今年の極端な連投の少なさはやはり7月に史上最速マジック点灯するほど序盤から首位に立って優位にシーズンを運べたことが大きく影響しています。

2021年、スワローズの4連投解禁は追いかける立場での阪神戦でした。

こちらの記事の通り、髙津監督は「投げなくて何かあったら悔い残る」と話し両投手の4連投を決断しています。

2022年がもしも昨年同様に終盤まで縺れたら。おそらく髙津監督は連投を解禁したでしょう。

それを証明するのが今年のクライマックスシリーズファイナルで、ここで清水投手に今シーズン初の3連投を任せ、見事3試合で勝負を決しました。

これから日本シリーズを迎えますが、連日の連戦となるクライマックスシリーズと異なり、2戦1休3戦1休2戦と間に休みが入ります。昨年、髙津監督はCSに向けて次のように語っています。

かつての守護神が最後の戦いでリミッターを解除する。高津監督はここまで連投や球数に厳しく制限をかけてきた中継ぎ陣に〝総動員指令〟を出した。
「出し惜しみしない? もちろん。勝つためにずっとここまでやってきた。日本シリーズに出るためにここまでやってきたので、そのために頑張ってもらいます」

2021年11月9日付サンスポより

今年は昨年以上に連投に制限をかけ運用できた救援陣。日本シリーズでどこまでリミッターを解除していくか非常に注目が集まります。



さて、続いてはオリックスのリリーフ投手です。

リリーフで10イニング以上登板した投手を、イニング数と防御率を軸としてプロットした表が次のようになります。

※赤線はリーグ平均防御率

こちらはイニング数の時点で非常に少なく、50イニングを超える選手はなんと0人。これは12球団唯一で、守護神の平野佳寿投手が最多で46イニングとなっています。

20~30イニングを投げた投手が7名と非常に多く、イニング数を特定の選手に偏らないように分散しているという印象です。阿部投手や宇田川投手など今年に入ってから本格的に戦力になった選手も活躍し、先日のクライマックスシリーズでも話題になったように、出場する投手が軒並みMAX155km/hを超えるようなMLB級のリリーフ陣を擁するようになりました。

50イニング近くを先発で投げたワゲスパック投手、20イニングを投げた山﨑颯一郎投手の2人はシーズン中盤でリリーフ転向しており抜群のパフォーマンスを発揮していますが、この点は2021年スワローズの投手運用に近いものを感じます。

次に運用面は次のようになっています。

※10イニング以上登板選手のみ

4連投はパリーグの全球団が0ですが、オリックスは中でも連投を意識的に避けた運用を行っていることが分かります。3連投はわずか2度で、2連投でさえ52回。これは12球団で最も少ない回数です。

長いイニングを投げられるリーグ屈指の先発陣を擁しているゆえに、中継ぎ投手に任せるイニングが少ないことで連投を減らし1度の登板当たりのパフォーマンスを上げるという理想的な流れが出来ているのは間違いありません。

投手のパフォーマンス向上と故障の防止について、直近のサンスポ記事では中嶋監督のデータ活用について次のように記載しています。

休みの日でも自らスコアラー陣に連絡を取り、「こういうデータは出るか?」「こんなデータはないかな?」と相談。他球団の選手に関するデータより、自チームの選手データを重要視した。
詳細に要望したのは投手別の投球割合。誰がどのくらい投げているのか、どのぐらい投げるとパフォーマンスが低下し始めるのか。故障のリスク軽減、コンディション維持のため、入手した選手データを入手し、起用にフィードバック。「データ的には見ましたよ、いろいろ」と、連投や球数の制限につなげた。

2022年10月2日付サンスポより)

データの力も借りつつ極端な連投を避ける運用を敷き、その結果として連覇を成し遂げるリリーフ陣を構築したと言えるでしょう。

もっとも、オリックス首脳陣も優勝争い大詰めの9月18日~21日に山﨑颯一郎投手の3連投を行うなど、スワローズと同様に本当の正念場では適性・コンディションを見つつ連投もいく姿勢を見せました。

オリックスのここ3年間の連投状況を見てみると、現在の連投を極端に少なくする運用方法は中嶋監督に監督が代わってから行われたことが分かります。

※10イニング以上登板選手のみ

2020年の120試合制×9イニング制の時で年間10度あった3連投は、中嶋監督政権の元では21年は無し、22年は2度。極めて意識的に3連投をチームとして減らす方針に転換したと言えます。

今年のクライマックスシリーズでもオリックスで連投した投手は0。抑えも平野選手と阿部選手を併用するなど、短期決戦においてもシーズンと同様に徹底して連投を避ける運用を見せてきました。

日本シリーズで果たしてリミッターは解除されるのか。そんなところに注目しても面白いかもしれませんね。



この章ではリリーフ投手の運用をセパ首位チームで見てきましたが、両チームとも明確に連投を避ける方向に舵を切ったと言えます。スワローズは髙津政権3年目にしての大きな方針転換、バファローズは中嶋政権初年度から2年目継続の路線となっています。

これまで多くのチームで中継ぎ投手の連投・登板過多は話題に上がり、実際故障で離脱してしまう選手も多かったですが、この2球団の運用は離脱者を避けシーズン通して戦えるパフォーマンス発揮に重点を置いています。

2年続けて最下位から2年続けて優勝を果たした2チーム、この運用面の共通点はそれぞれのチームの勝利と密接な関係を持っていることでしょう。


4.さいごに

我ながら、非常に面白いnoteになったと自負しています(笑)。

特に連投を避けるリリーフ投手の運用については他球団も追随の動きを見せる可能性は高いですが、そのためにはリリーフ投手各選手の「個の力」がとても重要になってきますし、長いイニングを消化する先発投手も不可欠でしょう。

とはいえスワローズの先発投手は他球団と比べて決して潤沢ではなく、先発が居ないから~というのは実は運用が下手なことへの言い訳なんだよ。という冷たい現実を見せつけているようにも思えますね。

これから日本シリーズを控える両チームですが、短期決戦においてこれらのチームの投手の運用がどう変わるのか。最大でも3日連続登板にしかならないと腹をくくってリミッターを解除するのか、それとも変わらぬ分散運用で選手層を見せつけるのか。

思えば昨年日本一となったスワローズは、最終戦でマクガフ投手の魂の2.1イニングリリーフがありました。あれなんかはシーズンでは絶対に考えられない、髙津監督ここぞの采配でしたね。それを目前で目の当たりにした中嶋監督が1年経ってどんな継投を見せるのか。いやー本当に日本シリーズ楽しみです。

どちらのチームが日本一になっても、絶対にこのシリーズは面白くなるはずです。投手の運用一つとってもこれだけ変化を恐れず、結果も出した2チームですから。ファンの皆さんもただただ楽しみましょう!!


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