ITエンジニアが人材不足になる理由

最近、ITエンジニアの人手不足の声が多いようですが…
正直、何をいまさらと思ってしまいました。

業界の責任

ITに限らず人材不足は、人員を使い捨てにしてきたからに他なりません。

案件が発生したときだけ、成果目当てに人を集め、用が済んだら切り捨てる。
そうやって、ベテラン社員を育ててこなかったツケです。

ITにおいては、特に悪名高いSES契約が問題となっています。
いわゆる現場に人を派遣するような形ですが、これが多くの問題をはらんでいます。

年収が低い

ITエンジニアという職種で、まず聞くのは年収の低さです。
これは単に収入が低いだけでなく、多重下請けが原因である事が多いです。

基本的に案件は下請けに出される事が多いです。
場合によっては、ひとつの案件で機能ごとに分割して、複数の業者に依頼する事もあります。
資金も、関わった全ての業者に分配される分、エンジニアに入る報酬も少なくなってきます。

底辺扱いにされているプログラマー

特にプログラマーは、底辺扱いされている場合が多いです。
要件定義、仕様書の作成、プログラミングと、工程の後の方になるためでもあるのでしょうが、とにかくプログラマーの扱いはひどいです。

この業界では、プログラマーは人数を集めればいいと思われています。
何人いれば何日で仕上がるような人月計算を用いて、何人必要なのかを見積っています。
少なすぎる人数では開発が難航するのは確かですが、実際には人数を集めれば出来るというものではありません。
しかし、それでも人数を集める事が重要視されてしまっています。

そのためにプログラマーを集める事を請け負った業者は、他の業者とも協力して、プログラマーを探します。
その業者もまた他の業者に依頼して、その業者もまた他の業者に依頼してと、こちらも多重構造となっています。
その際のプログラマーとの契約は、準委任契約です。

つまり、準委任契約で他の業者に配属させ、その業者からまた準委任契約で他の業者に配属させという事が繰り返されます。
派遣契約なら当然アウトですが、準委任契約なら”法的な”問題はありません。

言うまでもなく、報酬も関わった業者全てに分配されます。
さらに問題なのは、実際にはエンジニアやプログラマーはもちろん、技術者を誰一人雇用していないのに、人材の調達だけを行い、分配される報酬だけを受け取る業者も存在します。
こうなればもはや人身売買です。

面談の連続

そうやって来たプログラマーは、まずスキルシートを書かされます。
スキルシートには、自分がどのような案件に関わったかというのを、業者独自のフォーマットで記されます。
そして、現場となる企業に配属される事になりますが、そこでは面談が待っています。

面談ではスキルシートを渡し、自分の経歴をアピールしていきます。
いわば面接のようなものですが、色々な都合上、”面談”と呼ばれています。
採用基準はもちろん、経歴が多い程有利です。単価が安いという理由で若い人が選ばれる事もあります。

もし面談で、自分より経歴の多い人が目の前にいたら、それだけで絶望的です。
ここで新しくこの業界に入った人が活躍を始められるのは、運よく他に経歴の多い人がおらず、かつ自身が若くて安価であった場合ぐらいでしょう。

しかも恐ろしい事に、経験の浅い人は経歴を盛られたり、中間業者の名刺を持たされる事もあります。

ちなみに派遣でも準委任でも、客先に人選をする権利はありません。

ずさんな個人情報取り扱い

問題は面談だけでなく、その前にもあります。
面談の前に、打合せがあるのですが、その場所がなんと!喫茶店や路上など公共の場所です。
当然、話の内容を人に聞かれても、おかしくありませんし、スキルシート等の書類もその場で広げます。
路上でも平気で書類を持って確認しますが、強い風で飛ばされかねません。

そればかりか、面談の練習もさせます。
当然、周囲の人に聞かれる可能性もありますし、恥ずかしいうえに個人情報の漏洩です。
こんな業者でも、プライバシーマークを取得出来ている事が、不思議でならないほどです。

現場に投げ込まれるプログラマー

面談をクリアすると、客先に常駐する事になります。
それも、たった1人で常駐しなければならない場合もあります。
派遣契約ではないので、現場の人間から指揮命令を受けるとアウトですが、そもそもどの業者とも雇用契約や派遣契約がない時点で、誰も指揮命令が出来ない状況です。
それを回避するために、あらかじめタスクを用意しておき、それを各々”自主的に”消化していってもらう形でしょうか。

多くの場合は、1人で現場に投げ込まれる事になると思われます。
客先常駐するには、その人に指揮命令を出せる現場責任者が必要ですが、配属された人自身が現場責任者を兼任する事は出来ないとされているため、1人での常駐は違法になります。
その人が所属する上司の人が責任者になると思いますが、客先からしたらその上司の人は、無関係者にすぎませんので、現場には入れないはずです。
つまり、違法である事に目をつぶって、1人だけで作業していく必要があります。

プログラミングは単純作業

一時物議をかもした発言ですが、私はこの言葉にこそ、この業界の問題の多くが凝縮されていると考えています。

プログラミングは仕様書通りに文字を打っていく作業。そう思われている事が多いのでしょう。
しかし実際には、技術的知識も必要であれば、問題を解決するための知恵や想像力が伴います。
ですが、人月見積もりが、それらをブチ壊してしまっているのです。

プログラミングは仕様書通りに文字を打つ単純作業。だから人数を集めて書かせればよい。
支給するPCも、タイピングさえ出来れば、どんなジャンクPCだろうと構わない。どんな手段で人を連れてこようが構わない。
そう思われてしまっているのでしょう。

明らかに間違っているこの業界

全てが全てではないとは思いますが、ハッキリ言ってこの業界は間違っていると思います。

1人に対し、準委任契約で複数の業者が関わっている事。
それにより責任の所在が曖昧になり、どこに所属しているのか正確に把握できない事。
誰も指揮命令が出来ない人間を現場に放り込む事。
そんな、いびつな状況でアプリ開発が行われているのは、もはや狂っているとしか思えません。
大半のシステムは、違法行為で出来ていると言ってもいいでしょう。

ハッキリ言って、それを許す客先もバカです。
どこの誰かもわからない人間に、自社の重要な情報に触れさせているのですから。
もしそのプログラマーが攻撃者だったとしたら、内部から機密情報にアクセス可能なバックドアを作られる可能性だってあるうえ、実際に問題が発生して、犯人を見つけようと捜査すれば、偽装請負の事実も浮き彫りになってしまうので、偽装請負がバレる覚悟で捜査をするか、闇に葬るしかなくなってしまいます。

GIGAスクールやプログラミング教室等で、子供たちにPCに触れる機会を増やし、プログラミングまで学ばせるのは、大いに賛成です。
ただ問題なのは、業界がプログラマーを底辺扱いしている事にあります。
幼い頃からプログラムを勉強し、試行錯誤を繰り返して想像力豊かなプログラマーに育った子供たちに、人身売買されIT土方と呼ばれるような、プログラミングを単純作業として扱っている業界にブチ込み、劣悪な条件でただひたすらコードを書くだけの仕事に就かせるだけで、いいのでしょうか。

私自身は、あきらかにこの業界のあり方は、間違っていると思います。
そして、たとえ間違っていようとも、それに目をつぶり、前例が正解だと盲信し、なんの改善もしない行為も間違っていると思っています。
それが変わらない限り、現役のエンジニアやプログラマーは疲弊し、新たなプログラマーの卵も、人身売買業者の手によって握りつぶされるのがオチでしょう。
業界そのものが改善されない限りは、人手不足も解消されないでしょう。


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