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『死が三人を分かつまで』読書会レポート①

秋晴れも爽やかを通り越して汗ばむほどの好天が続いた10月初週の週末。
オンオフそれぞれで『死が三人を分かつまで』の読書会を開催しました。
まずは第一回目の10/1 @恵比寿のリアル開催回。
同じ作品でも受け取り方は十人十色。
果たしてどのような感想が登場したのでしょうか?

参加者のご紹介

  • 鈴木…U-NEXTの中の人①。本日の司会進行。

  • マイケル…U-NEXTの中の人②。『死が三人を分かつまで』の担当編集。『八日目の蝉』に衝撃を受け、こんな本を出したいと今日に至る。

  • 池田真紀子さん…『死が三人を分かつまで』の翻訳者。大変大変お世話になりました……!

  • クロエさん…ミステリーや海外文学好き。中南米の文化に興味あり。

  • アンナさん…ビジネス書と自己啓発本以外は手広く読むタイプ。最近ミステリーから離れていたなと思い立ちご参加。

  • 中山さん…翻訳家。近々密室ものの翻訳作品を刊行されるとのこと(楽しみ!)。

  • いづきさん…横溝正史が好きで、金田一シリーズなどを愛好。シナリオライター。女性視点の作品も好き。


備屋珈琲店恵比寿店 貴賓室にて 参加者様を待つ

『死が三人を分かつまで』の登場人物

・キャシー
 駆け出しの犯罪実録ライター。母親を幼いころに亡くしている。
・ローレ
 1980年代に重婚をした女性。殺人事件について沈黙を貫いている。
・ファビアン
 ローレの夫。失業間近。
・アンドレス
 ローレがメキシコで出会った男性。後にローレと結婚する。
・ガブリエル&マテオ
 ローレとファビアンのこどもたち。双子。
・ペネロペ&カルロス
 ファビアンのこどもたち。
・デューク
 キャシーの婚約者。

まずは感想を教えてください!

ク)共感しないで読む物語として楽しみました。どの登場人物もどこかしら
利己的で、読み手の道徳的でありたいという規範意識を逆なでするのが絶妙に巧い。イヤミスというのも少し違うけれど、××の美しいシーンが最後まで読むとグロテスクにもみえるのが面白かったです。(××はネタバレのため伏字)

ア)キャシーの実際にあった犯罪や暗いところに惹かれる心理や、ニュース記事にいろいろな人がコメントをする姿は日本もアメリカも同じなんだなと(笑)。確かに自分もニュースをみて犯罪をストーリーとして楽しんでしまう部分があるなと共感してしまいました。だから物語導入としてのキャシーの犯罪ネタ収集には共感して、読みたいなと思ってしまいした。

池)報道される事件って、すごくわかりやすく整理されているじゃないですか。でも実際は多分これだけ(本の厚さ)の背景があって。まるでクリックを集めるためのような表層のわかりやすさに対する批判があるようで、冒頭のシーンは気に入りました。

鈴)みなさんは犯罪ノンフィクションは読まれますか?

ク)根強い人気のあるジャンルですよね。

い)ネットの記事を読んだり、ウィキペディアのまとめを読んだりします。すごく詳細なウィキペディア文学なんて呼ばれるものとか……半日くらい読んでしまうことも……。ちょっとキャシーの気持ちがわかります。
私はキャシーの方が自分に近くて、駆け出しの気持ち、早く実績を残したいという気持ちの焦りに突き動かされていってしまうのがわかる。
最初ローレに関しては、重婚する女の気持ちなんて絶対わからない!と思っていました。

池)最初はローレって、ちょっと共感しにくいですよね。

い)自分は浮気絶対許せない派なので(笑)。比較的身の回りにも規範のしっかりした人が多くて。だけど、ローレは嘘がうまいというか、この人は自分に自分で嘘をついている、騙そうというより自分に騙されているような感じがして。自分にもそういうところがないかな、とちょっと思うことも。身につまされる気持ちもありました。

鈴)巧妙ですよね。もちろんそれはだめだよ!?という部分もあるんですが、イエローカードくらいにしておくか、と思ってしまうような100%否定はできないような部分があって。

い)一人称だからか、ローレの視点で読むので「まあありか」という気持ちになりやすいですね。時間軸も過去と現在を行き交ううちに、催眠のように入っていってしまう……。巧いなあと思いました。

鈴)ずっとあなたを見ている』(※1)という作品を気に入った友人が、配偶者にもすすめたところ相反する感想をもらったことがあったそうで。
本作も性別によってかなり感じ方が変わる作品なのでは?と思ったのですがいかがでしょうか?

※1:『ずっとあなたを見ている』(アメリー・アントワーヌ著/浦崎直樹訳 扶桑社)
銀行員のガブリエルは、最愛の妻クロエとともにパリからサン・マロに移り住み、幸せな結婚生活を送っていた。だが彼の人生はクロエが水泳中に事故死したことで一変する。悲嘆のなか失意の日々を送るガブリエル。そんな彼の前にある日、報道カメラマンを目指す若いエマが現れる。死んだ妻とは対照的な魅力をもつ彼女に、ガブリエルは徐々に惹かれていくが……。男女が織りなす心の綾を丹念に描きだしながら、巧緻な構成と意想外の展開で読者を翻弄するフレンチ・ミステリーの傑作。

中)こういう人がいました、という話なので腹が立つとか嫌いとか、そういう気持ちにはならないです。書いてあるんだからしょうがない(笑)。男性の僕としては、女性の気持ちの変化についていけるかというとより、そうなんだな、そういうこともあるんだろうな、という批判もなく受け入れもなくという感じです。

鈴)ちなみにファビアンについては?なぜその選択をしたのかがミステリーになっていて、個人的には面白かったです。

中)序盤で、重婚が発覚した後も結婚を続ける実在の人物がいることを例に出しているので、そういったこともあるんだなと。

鈴)事件があった80年代から現在パートの2017年まで、子供たちは同じ街で成長して、ローレ自身も定年まで勤めあげて。嫌なら逃げてしまえば、とならずに居続けたのは文化的な側面も強かったのでしょうか?

マ)逃げるのも疲れたからじゃない?逃げるのは諦めと疲れが貯まる……。

ロ)二重生活って、意外性とリアリティが両方あって。人間はそうそう簡単に消えられなくて。実際に犯罪を犯した人が、ずっと同じ街に住み続ける例は多々ありますよね。

池)ローレは、アンドレスが死んでしまったことは兎も角、自分がしたことを本当には悪いと思っていない、自分は間違ったことをしたんだろうか、と感じているような気もします。その街から離れたら、悪いということを認めてしまうことになる。

ロ)仕方がないことだった、と思っているような。

一同)あるある

鈴)キャシーのこともちょっと見てみましょう。酒浸りの父親と暮らす弟への不安と、いい奴だけどちょっと鈍感な彼氏がいて……。

い)ローレが仕方なかったじゃないと言う女性なら、キャシーはそう言い切れない女性に感じます。読者が物語を読むときにモラルセンターとして読み手に近しい倫理観を持つ人物として描くことで、ローレに共感を寄せつつ、100%寄せすぎずに読むことができました。


80対20の法則

鈴)マイケルさんと私で、本書の好きな一文を集める機会があったのですが、こんな一文をピックアップしました。

一人の相手に何もかもを求めるのは無理だって。期待できるのはせいぜい八十パーセント。残りの二十パーセントは、残念ながら、ほかに求めるしかない。

これを地でいったのがローレ。キャシーはこの選択をしませんでしたよね。80%で妥協せずに100%を探しに行きました。ローレとキャシーは共にほの暗い秘密を抱えて、共感しあい、どことなく似たようにみえてきたところで、決定的に違う選択をした。キャシーは立ち止まれたんだとほっとしましたが、現実、キャシーが身軽で、独身で、子供がいない状況だったからこそ選べた選択な気もして、実際どれだけの人が同じようにできるかは難しいな……と思いました。

池)現実、80%もあればOKですよね。

一同)爆笑

池)すべてにおいてパーフェクトな相手とか環境とかあるわけがないので、80%もあればオッケーでしょと思ったんですが、この人たち(ローレ・キャシー)はそれだけでは納得しないのが面白かったですね。まあ満足したら小説にならないのでしょうけど、一つ面白い選択肢を提示したなと感じました。

い)ローレは依存先を増やせるタイプに見えるけれど、キャシーは増やせなそう。潔癖そうに見えることもあって、この後が心配。完璧主義が転じて鬱になってしまうのでは……と思いました。

鈴)まさかここまでキャシーに感情移入するとは!

い)ローレも面白いし、ファム・ファタールとして最強だと思うんですよ。ドロレス(ローレの本名)を聞くと、『ロリータ』(※2)を想起して。
ハンバートというおじさんがドロレスという少女に人生を狂わされていく話ですよね。この名前をもってきたのは意味があるのかな……。
ファム・ファタール文学は、翻弄される側の視点が多いですよね。でもこの作品は翻弄する側から書かれていて。ある意味無邪気な邪悪さに、人は惹かれるのかなと思いました。

※2:『ロリータ』(ウラジーミル・ナボコフ著 /若島正訳 新潮社)
「ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。……」世界文学の最高傑作と呼ばれながら、ここまで誤解多き作品も数少ない。中年男の少女への倒錯した恋を描く恋愛小説であると同時に、ミステリでありロード・ノヴェルであり、今も論争が続く文学的謎を孕む至高の存在でもある。多様な読みを可能とする「真の古典」の、ときに爆笑を、ときに涙を誘う決定版新訳。注釈付。


ローレはファム・ファタール?

鈴)これは人によって分かれるのかなと思うのですが、ローレはファム・ファタールだ派と、普通の人なんだけれど結果的に大物犯罪者のようになってしまったのだ派がいるなとみています。
みなさんはどちらでしたか?

ク)一線を越える女であることは違いないと思います。人を弄びたい、破滅させたいというような人物ではないですよね。いうて二人。
前に出た『真紅のマエストラ』(※3)も似た感じだったなと。覚悟を決めて一線を越える女がでてきました。家庭を壊してはいけないといった女性の規範意識を越えていくのに、普通は犯罪までは走らない。仕事で生計を立てるとか、男性の分野に進出するとか、社会的に破綻しない方法で一歩を踏み出すことが多いけれど、犯罪に踏み出す...。女性の犯罪者ってそれだけで注目される存在ですよね。なので、この作品はその手のものに近しいのかなと思いました。

※3:『真紅のマエストラ』(L・S・ヒルトン 著/ 奥村 章子 訳 早川書房)
ロンドンの美術品競売会社でアシスタントとして働いていたジュディスは、競売に出される絵画が贋作ではないかと疑い、調査をするが、逆に解雇されてしまう。以前からバーでホステスのアルバイトをしていた彼女は、当座の生活費を受ける約束をして常連客と南仏へ旅行に行くが、そこで起きた不測の事態をきっかけに、次々と犯罪を犯していく……ヨーロッパ美術業界を舞台に、セクシーに、サスペンスフルに描く話題作!


ア)ローレはファム・ファタール的素質を持っていたというより、不況だったり、ファビアンが遠くにいってしまったりと状況ができてしまったところに、運命の出会いと錯覚するような事が起こって。そちらに流れてしまう弱さの方がしっくりきます。ファム・ファタールというと悪い女=強い女のイメージがあるのですが、ローレからはその”強さ”をあまり感じませんでした。どうしようどうしよう、でもどうにもできないとずるずるいってしまう弱さ、はっきりできない性質が世間から見たら悪い女像になってしまったような気がしました。

い)実際は環境要因が大きかったんでしょうね。

鈴)キャシーは、結局本の中でどうローレを書いたんでしょうね。

ロ)多面性のあるキャラクターですよね。20歳で出産して、銀行で事務員から役付きまで出世して。ファビアンが持つ”父親として家を守る”という理想の男性像を圧倒していたのは間違いなくローレの出世。自分は事業に失敗しつつある中で、当時のテキサスという決して女性の社会進出にやさしい土地ではないところで成功する妻だった。セックス・アンド・ザ・シティ(※4)のような”強さ”とは違って、この土地のなかでのしたたかな強さがあった。

※4
N.Y.を舞台に独身キャリアウーマンの生活を赤裸々に描いたラブコメディ。
セックスに関する鋭い考察で人気の女性コラムニスト・キャリー、弁護士のミランダ、アートギャラリーのディーラー・シャーロット、PR会社の重役・サマンサ。固い友情で結ばれた彼女たちはN.Y.の街で傷つきながらも、それぞれの幸せや理想を追い求めていた。

い)ローレの「私という自分を知りたかった」という欲求に対して、キャシーが、ありのままの自分を知ってもらう価値があると信じる神経の太さを尊敬してしまうシーンがあって。ここは印象的でした。

ア)確かに、自分を知ってもらって、愛される理由があると信じる神経の図太さ、悪いことはしていないと思っている節があって、愛があるから仕方ないでしょと開き直れる図太さは印象的でした。そういう人もいるんだなって。

鈴)アンドレスの職業は哲学の教授で、ローレとの会話で哲学的な会話が繰り広げられましたよね。道徳的な人間についてのくだりなど、後ろ暗い秘密を持つ身としては反省したくなるような出来事では?とも思いましたが、ローレは自分なりの解釈で、むしろ現状を認めてしまうんですよね。確かに、図太くないとできないと思いつつ、人間てそういうものじゃない?とも感じました。

当日は日差しが強く、葡萄ジュースが大人気でした。会も中盤では売り切れているほど…!

翻訳のお話

鈴)今日は翻訳をされる中山さんもいらっしゃるので、聞いてみたいことがありまして。スペイン語交じりの作品ですが、読まれていて言語的に気になったこと・面白かったことはありますか?

中)日本語で作品を読み終えてから、原書を購入して読んでみたんですが、原書ではスペイン語部分になんの注釈もなく…。実際みんなスペイン語もわかる訳でもないだろうと思ったところ案の定レビューでも”いちいち辞書を引きながら読んで大変だった”といったコメントもあって。

一同)

中)日本語で読む読者は英語もスペイン語も両方訳してもらえてよかったなと。他にも気になった箇所に線を引いておいて原文をあたってみたら……元がいいのではなく翻訳者が素晴らしい。特に第三部は、平易な単語がずらっと並んでいて、訳文と全く違う印象でした。翻訳を介したことで厚みが出て、スペイン語も訳がついて、日本語話者の方がラッキーだったのでは。

会話や描写に頻出するスペイン語のルビ

マ)原書の編集者はよく抵抗しなかったなと思います。普通は英語で読めるようにしなきゃとなるはず。でも今どきの編集者は優秀で、やはりこれは彼女(著者)の文学であるし、世の中にはスペイン語交じりの英語を使う、両方使う人がいるのだから文学として現していいとしたんですね。自分もスペイン語は読めないけれど、それでも雰囲気が、味があるなと思って、好きだなと思いました。

池)本来なら、翻訳では英語で読んでいる人が「これはどういう意味だろう」と思うところはそのままどういう意味だろうと思わせるようにしなきゃいけないのだけれど、こんなに大量にスペイン語分が出てきちゃったから、これは無理だろうと訳す形にしました。もう少し分量が少なかったら、もしかしたらそのままスペイン語にしていたかもしれないです。この点は最初悩んだ部分です。

鈴)スペイン語も池田さんが訳されたんですか?

池)はい、でもスペイン語の辞書にも載っていない単語もあって結構多くて。多分テキサスで使われるうちに変化した言葉だと思うのだけど。あと読み方が今一つ読みづらくて。辞書の発音やGoogle翻訳の音声を聞いて、こういう音かと手直しをして。

鈴)本当にありがとうございます……。

池)でも本当に、わからなさを生かすべきか、訳す訳さないは結構悩みました。

鈴)恐らく著者のこだわりポイントだったんでしょうね。インタビューを拝見しても、生まれ故郷に対して強い愛着をお持ちに見受けました。ラレド(ローレとファビアンの家族がいる街)という街自体を書きたかったのかなと。

池)謝辞をみていると、あの辺のメキシコ系の人たちがどう話しているかを文学に取り入れてしまいたいと書いてあるので、やりたかったことなんでしょうね。

鈴)だからこそ原書では訳したくない、アメリカで読まれるという前提に置いたとき、“標準化”されたくないという思いがあったのでしょうね。

池)日本の小説でいうと、舞台になった地域の方言をそのまま使って、もしかしたら東京の人にはわからないかもしれないけどそれをそのまま表現したような感じですね。

い)言葉って難しいですよね(笑)。
例えば自分の故郷の方言でも、直してしまうとどうもニュアンスが違ってしまう言葉があって。ただルビでスペイン語の音が感じられるから、意味と共になんとなく雰囲気を感じられる。ある意味お得な読み方ですね。

池)カルロスとカルリトスも随分迷いました。英語の方では、もっとカルリトスという愛称で呼ばれる部分が多いんですけど、これは混乱するよねということで、アンドレスが出てくるところでのみカルリトスを使うようにしたり。これも原文では説明なく。カルロスの愛称がカルリトスであると知らないアメリカ人もいると思うので、やはりこのわからなさをどこまで反映させるかは結構……最後まで調整しました。
翻訳書だと、ジェームスとジミーが両方でてきたら、ある程度どちらかに統一してしまうんですが、今回はこだわって使っているので…。

中)カルロスとカルリトスはネットで調べました。同一人物でいいんだよな?って。

鈴)まさかこれも伏線のミステリー?みないな読みが(笑)。

中)アルゼンチンの殺人鬼ものの映画で、実在の人物名がカルロスで役名がカルリトスという作品(※5)があったので、下敷きにしているのかと勘繰ったり。

※5:『永遠に僕のもの
17歳の美少年・カルリートスは、欲しい物は何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。やがて彼は荒々しい魅力を放つラモンと共に、さまざまな犯罪に手を染めていく。だが彼はやがて、どんなに悪事を重ねても満たされない想いに気づき始める。

鈴)知識があるが故の…(笑)

マ)犯罪実録ライターという肩書きが、特に違和感なく通じてよかったです。アメリカでは日本よりも書籍のジャンルとしてものすごく確立されているんです。そうした番組もたくさんあって。日本人読者には伝わるだろうかと懸念がありました。

ク)日本でもジャンルとして人気はありますよね。アメリカに比べれば数も少ないですが作家もいますし。あとは1990年代頃にFBIのプロファイリングの本がきっかけでブームがきたり、シリアルキラーものの読み物が出たり。

い)ワイドショーで犯罪事件をとりあげてやいのやいの言うのは昔から好きですよね。

中)Podcastも人気ですよね。

ロ)アメリカの方が、車文化だからか小説を聴くスタイルが定着してますよね。マイケルさんの前でいう話でもないですが。

一同)

中)結構聴くのも好きなんです。この本を読んで、重厚な物語を読んだなと思ったんですが、それに似た思いをしたのが『ザリガニの鳴くところ』(※6)で。その作品はAudibleで聴いたんですが、朗読の声優・池澤春菜さんが七色の声を使い分けていて。この作品もぜひ名優に。

※6:「ザリガニの鳴くところ」(ディーリア オーエンズ著/ 友廣 純訳)
ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。


鈴)できる限りすべての作品をオーディオブック化する予定なので、ぜひご期待ください。


野心について

鈴)アメリカですでに出た書評やインタビューでは、女性の野心に対する冷酷さについての記載がありました(New York Times,Los Angels Times)。
みなさんはキャシーとローレに「野心」を感じましたか?

い)テーマというほどには感じないですね。無理解はあるなと。デュークはすごくいい彼氏なんだろうけど、無理解。

マ)日本語のニュアンスで野心というと強く感じてしまうのかもしれません。キャシーもローレも、強い野心を持っている、というキャラではなくて当たり前のことをやっているだけじゃないですか。キャシーは自分の好きなことで夢を追っている。ローレは仕事のできる人だから役職に就いた。どちらも当たり前のこと。

池)デュークの仕事ってわかりやすいじゃないですか。でもキャシーの仕事は、俳優になりたい、といったような、何言ってるの?と言われてしまうような部分がある。著者が巧いのは、どちらも”野心”とよばれやすいようなジャンルで成功したローレ・成功しかけているキャシーと、生活に密着した仕事をするファビアンとデュークを対比させている。この構図で無理解をあぶりだしている。

鈴)生きてるだけよ、という感じですよね。

池)やりたいことをやっているだけ。

い)でもそれが女の人の話だと、”野心”と言われてしまう。

中)著者のインタビューを聞いたのですが、その中で、誰もが二重生活を持っていると話していました。作者自身も出産によって自分の人生が”お母さん”という役割に完全に奪われそうになって、それを”作家”という自分で守っていると。女性の方が出産という身体変化の可能性が高い分、より”母親”という家庭の役割が身近になり、それだけではない自分を求めるとどうしても社会的な役割=仕事が重要になるのかもしれない。男性は逆に、仕事の方が社会的に与えられやすい役割で、下手をすると仕事に人生を取られてしまう。残り側を取り戻したいというのは、誰しも同じなのではないでしょうか。
だからこそ、それは”野心”というのは少し違う。

池)ある意味生きていく術ですね。

中)お母さんとして認められたいではなくて、自分というものが認められたいと思うことですね。

鈴)まさに原題の『More Than Ever You'll Know』”知られている以上”が欲しかったんだということですね。

いづきさんと中山さんにご作成いただいた、本書のキャッチコピー。

いかがだったでしょうか。
翻訳の池田真紀子さんを囲んで、裏話が登場したり、様々な意見が登場するうちになにやら考察が深まったりと、楽しい議論ができました。
人と話すことで思いもしない地平が見えるのも読書会の醍醐味。
ご参加のみなさま、本当にありがとうございました!

パート2は翌10/2の読書会をレポートします。全く異なる感想も多いので、どうぞお楽しみに。

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試し読みも公開しています。

書店員さんの感想もまとめています。

ぜひ合わせてお楽しみください。

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