見出し画像

すべての20代へ。そしてすべての20代だった人たちへ。

映画部の林です。『花束みたいな恋をした』、U-NEXTで独占配信が始まりました。スクリーンで3回観た本作、今度はU-NEXTで、要所要所巻き戻しながらじっくり観ました。本当は正しい観方ではないとは思いますが、4回目だし、大好きだから、という理由なのでどうかご容赦ください。

画像2

結果、ますます完璧な映画だと思いました。

主演ふたりの演技がいかに素晴らしいか、とか、脚本の坂元裕二さんの手腕がどう、というのはもはや語る必要がないと思います。改めて思ったのは、「凄いです、土井裕泰監督!」

土井監督はTBSドラマの話題作を撮り続けてきた演出家ですが(坂元さんとのタッグだと、問答無用の傑作『カルテット』を演出されています)、近年の映画だけでも、『ビリギャル』『罪の声』そして『花束みたいな恋をした』。自己満足の作家性を押し付けることなく、脚本を正しく深く解釈されて役者やスタッフの力を最大限に活かす仕事ぶりは、異なるジャンルで次々とバランスの取れた秀作を生み出し続けた、僕が敬愛するカーティス・ハンソン監督(『L.A.コンフィデンシャル』『8 Mile』『イン・ハー・シューズ』)に近いんじゃないか、なんてことを思いました。本作の演出の狙いなど、ライムスター宇多丸さんが土井監督にインタビューしているこちらを聴いて、ますますその思いを強くしたところです。


ところで、「林は『はな恋』を観た時、30回泣いたらしい」という噂が周囲で広がっていて、その尾ヒレが一気に育って「300回泣いた」になり、「300回、どのシーンで泣いたか教えてください!」なんて言われる始末。

いやいや、2時間の映画で300回泣くってどういう状態??
あと、絶対聞きたくないでしょ、300ヶ所の説明!

妙な噂は、先月メディアの皆さんの前でお話したことがだいぶ曲がって伝わった結果のようです。正しくは「3回観に行って、そのたびに泣き始めるタイミングが早くなっている」と言ったのでした。

では、なぜ序盤から泣くようになったのか、ということの理由でもあるのですが、この映画で一番泣いたのは、1回目の鑑賞後、パンフレットを読んだ時でした。

『花束みたいな恋をした』は、もちろん恋愛を描く映画ではありますが、一方でよく言われているのは、20代の若者が現代日本で普通に生きていくことの困難さを描いているということです。就職活動の闇、やり甲斐搾取、ブラック企業……ふたりの恋愛も、「若者の生きづらさ」の犠牲になったのだという意見もありました。

こうした指摘に対し、坂元さんはパンフレットの中でこんな風に語ります。

「困難さを描きたかったわけではない」

「どんな時代であっても20代というのは美しい時期だと思う」

「その結果が彼らにとって幸せなのか不幸なのか、勝ったか負けたかはわからないけど、美しいものとして書きたいと思っていた」

僕はなぜか、この言葉に泣きました。坂元さんのその優しい目線に震えてしまって、麦と絹のいろんなシーンが思い出されて、涙が止まりませんでした。確かに本作、社会問題を内包した部分や、苦しくて仕方がない倦怠期ムービーとしての側面もあるけど、僕はこの物語を、彼らがもがき苦しむ姿も含めて美しいものとして観たいんだと改めて思いました。

画像1

自分の20代の日々も、苦しいことがたくさんあったけどきっと美しかったのだろうし、今20代の皆さんは、ピンと来ないかもしれないけど実は美しい日々を送っているし、そして自分の息子たちにも、こんな苦しくて美しい日々を送って欲しいのだと。

本作を絶賛している宇多丸さんも、「週刊映画時評ムービーウォッチメン」のラストで「彼らに幸あれ!」と劇中のふたりにエールを送りますが、まさにそんな気持ちです。どうであれ、彼らの未来が幸せでありますように。

ということで今では冒頭3分、『花束みたいな恋をした』の題字が出る前から泣けるカラダになりました。


こんな優しい映画と、これからもたくさん出会いたいですね。


©2021「花束みたいな恋をした」製作委員会