最近観た映画のことをつらつら書いていたら、「映画のある世界は優しい」という結論になりました。
ひと昔前のラノベっぽいタイトルで失礼します。このページを最後まで書いてから付けたタイトルなので、これ以上のことは言っていなかったりするわけですが、いくつか映画のおすすめ映画のご紹介もしておりますので、もしご興味あれば最後までお付き合いください。今週は映画部の宮嶋がお届けしております。
さて。先日、たまたまなのですが、「この映画を観ることがなければ、わたしはこの事実を知らずにのほのんと生きてしまっていたかもしれない…」と思ってしまうような映画を、2本続けて観ることになりました。
どれほどのたまたま感かと言えば、たまたま予定の前後に時間が空いていて、「この時間にこのあたりで観られる映画は…あ、今あそこでこれやってるのかぁ」という流れでたまたま選んだ2本、というたまたま感だったりします。つまり、気になってはいたけれど、実は必ずしも第一候補ではなかった…という映画たちです。
1本めは『ブルー・バイユー』。
韓国で生まれ、3歳で養子としてアメリカにやってきた主人公。結婚し、貧しさと戦いながらも家族と力をあわせ懸命に生きていたが…というお話。
移民政策における法律にかくも重大な隙間があり、声もなくその隙間に落ちていく人々がいること。社会的に低い立場にいる人たちが、その沼から抜け出すことの難しさ。そして、いまだに残る人種のあいだの溝、いや、溝というよりも、自分と違う人間は排除しようとしてしまう人間の弱さ、それに翻弄される人々のやるせなさ。そういうことに、嫌というくらい気づかされる映画でした。
そして、幼少期に本人の意思なく養子として渡米してきた子供たちを含む、ある一定層の移民を取り巻く法律の穴は、実は今も整備されていない、というテロップで、この映画は終わりました。
養子をふくめて家族のバリエーションがとても多いように見える現代のアメリカに、そんな落とし穴があるなんて…知らなかった事実でした。
もう1本は『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』。
アメリカジャズ界の伝説的歌手ビリー・ホリデイを描いた伝記ドラマ。ドキュメンタリーではなく、劇映画です。
すでにスターダムを駆け上がっていた彼女が唄う「奇妙な果実」という歌が、黒人差別に反対する人々を扇動するとして、FBIがあの手この手でビリー・ホリデイを潰しにかかったという事実を描いています。
タイトルにある“ユナイテッド・ステイツvs”はさすがに主語が大きすぎるきらいはあるし、実際にビリーはドラッグ常用者だったので「隙があった」と言えばそれまでなのですが、彼女のをドラッグに走らせる背景も描かれていて、心が痛みます。そして「奇妙な果実」という歌。リンチにあって虐殺され、木に吊りさげられた黒人の死体の暗喩です。劇中にもその場面があり、強い衝撃を残します。ちなみにその曲がこちら↓
私たちは仕事柄、いろいろな映画レビューサイトをざざっと観ることも多いのですが、ネガティブなレビューのコメントで多いのが、「主人公に共感できなかった」なんですね。
その観点でいうと、たぶんこの映画2本とも、主人公に共感できない映画なんです。
なぜかって、どちらの作品においても「攻撃されて酷いことされて、可哀想だけど頑張ってる主人公」ってだけじゃないんです。観ているこちらが、「あらら、だからって、それやっちゃダメだよ~」っていうようなことをしてしまう主人公たち。それをやらざるを得ない、追いつめられた気持ちもあったりはするけれど、でもやっぱり、それは受け入れられないよ、共感できないよ、という。
でも、観るべき映画だった、と思ったんです。共感できなくても。そして、観て良かった、たまたま観た作品だったけれど、観られて本当に良かった、と思いました。いい映画でした。
個人的に、最近「共感できる映画だけが“いい映画”ってわけじゃない」ってすごく思うんです。
というのも、私たちの生きる現代って、映画の情報だけじゃなく、ニュースソースのほとんどがネット経由、という時代ですよね。自分用にカスタマイズされる情報や、同じ趣味嗜好で繋がっているSNS、気心知れた友人たち。共通の何か、つまり共感に近いかたちで繋がることは便利で素敵で、しかも自分がハッピーでいるために大事なことだと思うんですけれど、一方で、情報量は膨大なのに入ってくる情報が自分の興味に偏ってしまう。エコーチェンバー現象っていうらしいのですが、無意識に“共感しかない世界”に閉じこもることも、できてしまう。
気を付けてはいても、「まったく知らない領域の情報に触れる」という機会が以前より減ったなぁ、これでいいのかなぁ、と思うことがあります。
でも、“映画”という文脈をたどることで、否応なしにそれに触れることになります。たとえば今回の2作品なら、アメリカの移民法案のこと、そしてBlack Lives Matter運動にもつながる黒人リンチ禁止法の長い議論について。
映画を観なければ知ることがなかった、考える機会がなかったようなことに、映画だからこそ出会えることは多いです。
自分の知らない世界で起こっていること。自分と違う場所で生きている人々。自分とは異なる文化。自分とは違うことで苦しんだり喜んだり、考えられないような経験をしたり、まったく違う生き方をしている人の姿に出会えるのが映画だなぁと改めて感じています。
そして、力のある映画であれば、そこには必ずしも“共感”がなくても、心は動かされます。
大人になると、守るべきものが増える分、正直めんどうな問題には関わりたくないし、よくわからない人の苦しみは「ごめん、知らん!」で切り捨てちゃったりもできるし、結局自分と自分の身内や仲間が大事、になってきてしまうじゃないですか。
もちろん時にはもっと広い視野の持ち主や純粋に優しい大人もいて、そういう人に出会うと自分が恥ずかしいんですけれど、多くの大人は、っていうか、「大人は」なんてビッグな主語を使ってごまかしてみたけれど、つまり私はそうなりがちなのです。共感で繋がっていない人に対して、どこまで優しくなれるかで言うと、正直、あんまり優しくなれない。
でも、できることなら、そういう壁を乗り越えて優しい世界にしていったほうがいいなぁ、と思うのです。特に大人たちが、若い人たちのために、できるだけ優しい世界を残してあげられたらいいなぁ、と。
そしてそれは、しきりに言われている“ダイバーシティ”の感覚をいかに自分のなかに落とし込めるかにも、繋がっているように思っていて。
だから、もともと優しくない大人(私のことです)にとっては、「世界には自分の思考じゃ思い及ばないような境遇の、生身の人間がたくさんいて、悩んだり喜んだり、戦ったりしている」という事実への“気づき”のスイッチになる何かが必要なんだろうなぁと思うのです。
そして、映画がそれになってくれている、と思うのです。
その“気づき”がいつしか“想像力”になり、日常生活(というかもっと広く「人生」といってもいいかもしれない)において、自分には思い及ばないような立場の人々へのスタンスをオープンに保てたり、欲をいえば、想像力で少し寄り添うことができるようにしてくれるのかもしれないな、と。
「自分には関係ない」と思っていた、少し違う世界に生きる人々の思いや事情を想像できるようになると、そこから心に少しの優しさが生まれる。そしてその対象を増やしてい浮くことが、今よりちょっとだけ優しい世界をつくるtipsなのかなと思ったりもしていて。
“共感できる映画”は自分の心の癒やしや浄化になるけれど、一方で“共感できないけれど強い力のある映画”は、観る者に“気づき”と“想像力”をくれる気がします。今回出会ったふたつの映画もそうで、これから先、私を中で熟成して、想像力の礎となって、優しさのタネとなって、私の意識を支えてくれるような作品でした。
ここまで書いてきて、まぁ、私ったら勢いにまかせて何やらナイーブなことを書いてるわ、って感じではあるのですが。
映画という好きな世界に触れることで優しさのタネを育めるようになるのなら、映画のある世界ってつまりはすごく優しい世界だし、そして、「いい映画」というメディアが時代を超えて残っていくのであれば、若者たちが大人になった時に彼らの目に心に触れて、また優しさのタネをまいてくれるかもしれない、そう思うとますますロマンがあるなぁと思った次第です。
映画に限らずエンターテイメントだったりアートだったりって、社会を、そして自分自身を広げて色々な観点を持たせ立体化し、優しく心豊かに生きられるようにしてくれるもの。
「共感できないからつまらない/共感できなさそうだから観ない」と切り捨てていたら、自分がどんどん内向きに、平面的になっていって、共感や幸せを感じられる範囲が狭くなっていっちゃうんじゃないかしら。それって先に書いたダイバーシティ感覚から離れていくことにもなるじゃないかしら。
折しも人生100年時代。うっかりめちゃくちゃ長生きしてしまいそうな私たち大人は、若者の未来に立ちはだからないように、結構意識してセンスをアップデートしていく必要があるだろうなと、自戒も込めてそんな危惧も少し、持っていたりします。
いつも自分を広げることをあきらめず、想像力をもって、ちょっとだけ優しい世界を作っていきたいものです。
…とまとめっぽく書いてはみたものの、もちろん、世界のため、とか、自己成長のためとか、感覚をアップデートするため、と思って映画を観ているわけではないですし、映画に限らず基本的には「フックは何でも良いから好きなのを楽しむのが一番!」と思ってはいるんですが(むしろ、あまりストイックにならずに感性で楽しめるエンタメやアートであってほしい!)、でも、好きな映画を観ることによって、少しだけ自分を広げて、これからの世界にきっと必要になる優しさを手に入れられたら、そりゃあお得よねぇ、とは確実に思っています。
そんな感じのテンションで、私は今日も、映画を観ております。
おまけ。
せっかくなので、上記の2作品にくわえて、今までの私に、共感よりも新しい視点への大きな気づきと小さな優しさのタネをくれた作品の中から、U-NEXTで観られるオススメ作品をいくつか厳選して紹介しておきますね。比較的最近の作品から、ドキュメンタリーは一旦除外して劇映画だけで揃えました。もし未見の作品がおありでしたら、ぜひ!(本当はドキュメンタリーの秀作もたくさんあるのですが、それはまたの機会に…)
※順不同です。
●『プロミスト・ランド』
●『チョコレートドーナツ』
●『デトロイト』
●『ダラス・バイヤーズクラブ』
●『すばらしき世界』
●『明日の食卓』
厳選したせいか社会派寄りの映画多めになりましたが、必ずしも社会派映画じゃなくても、ジャンルムービーでも、たとえホラーやミステリーでも(たとえば『返校』とか『プラットフォーム』とか!)、気づきや想像力のタネをたくさんくれると思います。
追記:ちなみに、そうはいっても「共感系映画」も大好物です、とお伝えしておきます。最近だと『ちょっと思い出しただけ』が最高すぎました。まさに、いろいろちょっと思い出しちゃった!
トップ画像:『ブルー・バイユー』/(C)2021 Focus Features, LLC.