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1枚の布から考えていたことが、エンタ―テイメントとつながった話。

和手ぬぐいが好きで集めています。集めるだけではなく色々なところで手ぬぐいを活用しております。「誕生日なにがほしい?」と訊かれても「手ぬぐい!」と答えるので、友人に“手ぬぐいスト”と呼ばれるようになりました、映画部・宮嶋です。和柄だけではなくて色んなキャラクターとのコラボ商品があって、中にはミニオン柄なんかもあるので油断ならないんですよね~!

いつ、そして何故手ぬぐいにハマったかと言えば、何年前でしょうか。ある日、洗濯機が壊れまして。(安心してください、そのうち映画の話になりますよ)

洗濯機といえばテレビ・冷蔵庫とならぶ家電三種の神器のひとつ!速攻で修理するか買い替えるかしようとしたのですが、壊れた洗濯機がムダにおしゃれな外国製のものでして、修理するにもなかなか高い。こりゃいかん、と日本製に買い替えようとしたら、排水まわりの工事が必要ということになり…つまり高い。

どうしようかな~、と思ったのですが、思えば私、「女の子なんだから自分の身につけるものくらい自分で手洗いしなさい!」と教育されておりまして、その名残で大人になってもデイリーで発生する小さな洗濯物は手洗いしていたもので、「じゃあ、修理か買い替えか、方針を決めるまでは全部手洗いでしのいでみるか…」と。

そうなった時、服なんかはシミ取りもやりながらちゃちゃっと洗えるし、すごくシンプルな脱水器を買ってみたら力仕事も不要になり、手荒れしないように肌に優しい洗剤を使うようになったら環境にも良くて気分がいいし、むしろ「機械に任せるよりも納得するまで洗えて、しっかりすすぎが出来て、むしろ手洗いが好き!」となるくらい大満足だったのですが、それでも洗いにくて泡切れが悪くて乾きにくいラスボスが、バスタオルだったのです。結構こだわって、ホテルライクな厚みのあるのを使っていたことが裏目に出ました…。

で、一方で。全然異なるコンテクストなのですが、当時美容界隈の一部で“手ぬぐい美容”とか“手ぬぐい洗顔”というものが流行しはじめまして。

「これはなんだか良さそうだぞ?」と、美容には疎い私も早速手ぬぐいを1枚購入。(安心してください、もうすぐ映画の話になりますよ)

というのも私、歌舞伎が大好きなんです。歌舞伎の超有名演目に「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」というものがあり、この主人公が“あばた顔”という設定なのです。(シネマ歌舞伎にもなっています。この時の公演を歌舞伎座で観ましたが最高でした。あばた顔の主人公を演じたのは今は亡き中村勘三郎さんでした)

肌が荒れていること自体がキャラクターの特徴として描かれているくらいだから、江戸の人たちってきっとお肌が綺麗なのが当たり前だっただろうなぁ、と常々思っていて。私もあやかろう、と!

嬉々として手ぬぐいで顔を洗っているうちに、気づいたのです。「これ、他の用途にも使えるのでは…というか、歌舞伎ではみんなお風呂屋さんにいく時のタオルとしても、家事をする時のヘアバンド(というか塵除け?)がわりとしても、ちょっとした帽子がわりとしても、もちろんふきんや雑巾としても、手ぬぐいを使ってるじゃないか!」と。ただの四角い、綿の布。だからむしろ汎用性が高いんですよね。そして雑にザブザブ洗えて、かさばらなくて、乾きも早い。

洗うのに苦労していたバスタオルのかわりに、手ぬぐいを3-4枚贅沢に使ったほうが圧倒的に洗濯が楽だと気づき、そこからわが家の手ぬぐいの使用領域が驚異的に広がりました。いまはバスタオルやフェイスタオルがわりにはもちろん、キッチンリネン、鍋つかみ、ハンカチ、クローゼットの中のオフシーズンの服やストールの埃よけカバー、かごバッグの中身の目隠し、愛犬の夏のお散歩時のネッククーラーにも置き換わっています。最初はキッチンで使われ、使用感が増すと役割を変えていき、最後にはトイレ掃除用の雑巾となって一生を終えております。まさに「使い切った!」って感じで気持ちがよいです。

で、思ったのが。「江戸時代って、じつは案外効率的だったのかもな…」ってこと。ただの四角い1枚の布である手ぬぐいがさまざまな用途で使われたように、風呂敷がいろいろな形のバッグとして機能したように、また、あえてサイズ感が曖昧に作られている着物が曖昧だからこそ親から子へと受け継がれ、最後には丹前としてリユースされたように。さらにそのハギレが「襤褸(らんる)」として活用されて、しかもそれが現代では民芸の枠を超えて「BOROアート」として評価されるようになったことには、もはやロマンにさえ感じてしまいます!

もちろん鎖国をしていて資源が限られていたこともあると思いますし、江戸や大阪など都会に集約された経済圏のなかでは廃棄物を捨てる場所を確保したり遠方に運搬することのほうが高コストだったのかもしれないし、武家には武家の、商人には商人たちの、農民には農民たちのコミュニティがあり流通経路が確保されているなどの構造的な社会形態や仕組みの要素もあるのかもしれませんが。(そしてその良し悪しは別の議論として)。

でも、何につけ最適化されたものがリーズナブルに、そして容易に入手できること、時短であること、使い捨てできることが、より効率的でより合理的なことだと思って育ってきたので、ちょっとした衝撃的な気づきではありました。私が合理的だと信じて疑わなかったことは、大きな視点、マクロでみた時に、本当に合理的なのかしら、と。私が価値観として刷り込まれていたものは、もうちょっと長い目で見たら一体どういうものなのだろうか。今の子どもたちが大きくなった時に、どういう意味を持つのだろうか、と。ちゃんといいものを、残してあげられるんだろうか。

そもそも今の世界で起きていること、たとえば技術の進化で世界はどんどん小さくなっているし、今まで声をあげられなかった様々な人々が「私たち、ここにいます!」と声をあげはじめているし、それからやはりコロナで社会は変容したわけだし…見渡してみたら、私が育ってきたなかで得た価値観っていったん見直してみたほうがいいタイミングなのかもしれない。私が身に着けるものを日々手洗いするのは「女の子だから」じゃなくて、今は別の理由になっていて、それでいい、というか、それがいい、というのも、何かを象徴しているのかもしれない…。

そう思ったことや、その後すこし病気をしたことも後押しして、すこーしずつですが、“自分のためだけのミクロな効率の追求”から、もう少し大きな視点で、人間・動物・地球にとっての効率の良さ、ロングスパンでの合理性、みたいなことを意識して、日々の生活のしかたを選択するようになりました。

でも一方で、これ以上何かできるんだろうか…そもそも、これがいつか何に繋がるのだろう、というか何かに繋がるのかしら。何かSNSで発信とかしてみる?でもそれほどたいしたことが出来てるわけでも正解を知ってるわけでもないしなぁ…私はただの「配信業界の映画部のひと」だし、そうありたいし、当たり前に楽しいことやエンタメが大好きだからその辺のバランスも大切だしなぁ…。

ただ、知らないことを知りたいという気持ちはあるし、何ができるかの気づきをもらえる機会はあるといいなぁ…などとぐるぐると考えていたら。

(おまたせしました、そろそろ映画のお話です)

そんな時に、YOIHI PROJECTと一緒に何かできないか、というお話があったのですヾ(*´∀`*)ノ(やっと映画の話になったし思わず顔文字)

このプロジェクトのことは最初に部長の林から聞いたのですが、こちらのプレスリリースにもあるように「環境問題という一見難しそうに感じる題材を、説教臭くないエンターテイメントとして、堅苦しくなく楽しく」という趣旨を伺って、

そうかー、そういうエンターテイメントの“使いかた”があるのかー!
そうかー、そういう伝えかた、そういう“知りかた”があるのかー!
それめっちゃいいぃーーーー!!

と、ひとり静かに爆上がりしておりました。

しかも第1弾の作品が、江戸時代を舞台にした青春ドラマだというではないですか。しかも阪本順治監督作!それが『せかいのおきく』です。

一足お先に拝見したところ、ほんとうに小難しい話はなし!人びとの暮らしの体温、社会への鬱屈もふくめた若者たちの等身大の青春と恋、のお話でした。

こうの史代さんのこのイラストが、ほんとうに雰囲気ぴったりな映画なのです。本編はモノクロなのに、不思議とこの綺麗な色彩がみえるように感じるのが不思議!

(C)2023 FANTASIA

とはいえ、江戸の暮らしを描くことで当時の循環型の経済をしっかり背景としてもっているから、環境やサーキュラーエコノミーに興味を持っているかたから見ても感じるものがあると思います。下肥買い(都会の人のうんちを買い取って、肥料として農家に売る職業)としてしか生活していけない若者たちの話でもあるから、社会構造に思いを馳せるきっかけにもなるかもしれません。

こういったサーキュラーエコノミー、バイオエコノミーの文脈では、先日、東京大学大学院農学生命科学研究科のプログラム「ONE EARTH GUARDIANS」さん主催での上映+サーキュラーエコノミー、バイオエコノミーの観点での講演会が行われました。学生の皆さんをはじめ若い人たちが関心を持ってくださること、彼らに届くメッセージになっていることが嬉しいです。

上映会が行われた東大農学部の弥生講堂・一条ホール。木質構造による省エネルギー・環境調和型の建物として設計されているそうです!

たくさんの方に、いろいろな観点で、楽しんで頂けると嬉しいなぁ、と願うばかりです。

『せかいのおきく』は、本日4月28日劇場公開です!
劇場はこちら↓


なお、U-NEXTでは、舞台裏ドキュメンタリー『せかいのおきく エピソード0』を配信しています。こちらは会員登録なしでもご覧いただけます!

メイキングはもちろん、ロッテルダム国際映画祭での上映や、現地で訪れたサーキュラーエコノミースタートアップのための施設のようすなど、見どころいっぱいです!

それから、個人的にファンな「ほぼ日」奥野さんによる現場取材日記、やっぱりとっても面白いです。



たくさんの見方が出来る映画ですし、若いひとたち、子どもたち…これからの世代に、まさにYOIHIプロジェクトのコンセプトである「100年後に伝えられる映画」です。そして、阪本監督はもちろん、長い時間をかけて企画を実現された原田満生プロデューサー、長い期間をかけて少しずつ撮影をされた黒木華さん、寛一郎さん、池松壮亮さんなどのキャストの皆さん、多くのスタッフさんの思いも詰まった作品です。
多くのかたに届きますように!

そして、YOIHIプロジェクトの作品も今後どんどん増えていく予定です。現在は『せかいのおきく エピソード0』をふくめ3作品を配信中!こちらもどうぞご期待ください。

特集:100年後の“よい日”のために。「YOIHI PROJECT」