ウネリテンパ

ウネリテンパ

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.(period)

「最期の、夏だね。」と。 ちいさく笑うA子の声は舌に乗せたキャラメルに溶け混じり、ほろ甘く、柔らかく、空気を濡らして伝播する。 「なんだい、オオゲサダナァー。」と。 笑い返すB子の声はソーダポップと共に弾けて、明瞭に、爽快に、梅雨空を蹴飛ばして直進する。「ウチらまだ、二年生じゃん。」 「そうだけど、」とA子は笑う。そうだよ、そうだけれども、違うんだよ。と。ちいさく笑う。ちいさく話す。 C公園の東屋、石造りの椅子に腰かけて、少女たちが季節を浪費する。 甘酸いクリームを挟んだウエ

    • ひとつ鳴らす。

      サーチライトが、つまりサーチするライトが、深夜を照らす、私を捜す。 私は捜される。サーチされる私、つまりサーチド私は無数のライトにサーチされる、でも見つからない。 勿論、理由がある。何事にも理由があり責任があり、吟味立て追及されて、召喚された担当者が重い口を開く。 「当社の設置したライトは無数である、と云う広告について、一部の記述が誇大であったことが判明致しました。誠に申し訳御座いませんでした。」 記者会見は紛糾する。怒号が飛ぶ。フラッシュが焚かれる。何かが落ちて踏まれて割れ

      • パレィド、或いはただの。

        パレィドなら、真夜中が好いね。 歩調を揃えて、いちに、いちに。 光を避けて、サイレントなパレィド。 でもご覧、見なよ、気を付けなよ? 向こうからもほら。誰かが、来るよ。 □□□ 23時の帰路ドライブはあや・ふや・で。 残業と休息とのあわい。狭間の時間に。 今日はもう終わり、明日はまだ来ない。 1/365の1/24の瞬間/無限の、消化試合。 敗けも勝ちもまあ、価値は無いけどさ。 □□□ 白緑の青白のコンビニで業務用の激安値のスーパーで閑散荒廃した寂寞無音なボーリング場

        • ヨカナーンの函

          「北へ向かって。」と女が云う。 何故、とは問わずに前を見る。夜を見る。それは更ける。 つまり深夜の環状線。ハンドルは冷たくアクセルは重い。 対向車。ヘッドライト。好戦的な光線が俺の水晶体に火を点ける。硝子体を蒸発させる。じゅう、じゅう、上手に焼けました。よせよ、発光ダイオード。羞恥を知れ。己を知れ。お前なんて所詮、発光するダイオードに過ぎない。ところで、ダイオードってなんだっけ? とは問わずに前を見る。 更ける深まる夜を見る。 五分、十分、十七分。 女は口を開かない。

          今もこの水底で。

          そんな訳で世界は沈み、わたしはぷかりぷこりと浮いている。 世界、沈んで在る。 沈んで在る、しずかにゆれる世界の、つややかに濡れた膚、膜、その凛と青い張力に、わたしはわたしをゆだねて、浮かんで、眺めて在る。 広い、ひんやりとあたたかい、そんな視界を、ながめ、ながれ、漂流。している、わたしは紺碧に塗られた、一枚の木板の上に在って、見下ろせば、街はもう霞む。でも見える。わたしの街。ふかく沈んで。 青い板、真鍮の取っ手の付いたわたしの舟は、沈んだ街の、沈んだ建物の、玄関扉で在った

          今もこの水底で。

          (S)AKASIMA

          見知らぬ男が戸を叩き、郷土玩具を購えと乞う。 馬面の小芥子。青白い仔馬の耳飾り。馬の鬣で結わいた数珠玉。 「馬の物ばかりだね。」 「馬の物ばかりなのです。馬はお嫌いですか。」 さて、格別に愛憎の念は無い積もりだが、馬と聞くと如何しても、或る友人の、途方も無く長い顔が脳裏に浮かぶ。 特に歓待するでも無いのに、昨今、妙に頻繁に其の馬面を見せに来る、そんな友を迎える玄関に馬の人形を並べておくのは、矢張り少しく体裁が悪い。 「まあ止しておこう。玩具を喜ぶ様な、年頃の子も持たぬの

          その手を離すな。

          チケットを探して鞄を掻き回している、そんな彼女の前髪がふわりと踊っているのは、この街が落ちているからだ。 この街は落ちている、最近ずっと。でもそんなの、もう慣れっこなんだよね。 だからぼくは平穏に暮らす。 落ちる街の上で眠り、目覚めて大学に行き、深夜のバーでグラスを磨き、日曜日には恋人とデートをする。ありふれてるだろ? 良く晴れた午後、手を繋いで二人で出かける。駅裏の文化ホール、内田百閒展を観に行く。 春、うらうら。人出は、まばら。 半券を受け取ってゲートをくぐると四畳

          その手を離すな。

          どこだろうね。

          「逃げちゃ駄目だ」と「俺は駄目だ」が手を取り合って三段論法、つまり。 俺は逃げる。 何処へ?明日へ?でも明日はどっちだ? 「え、ご乗車有難う御座います。この列車は23時55分E駅発、明日行きで御座います。お乗り間違えにご注意下さい。勿論今更ご注意戴いた所でどうなるものでも御座いませんし降車口など御座いません。これも運命。この列車は当駅を発車致しませずに各駅に停車致しませずに然る可き後に然る可くして明日に到着致します。または到着致しません。それも一興。お座席は全席不自

          どこだろうね。

          涵養スル鵺

          夜の底で、大きな鳥が啼いている。 と。想って瞬時に。 否。と。思い直す。 たとえば身体の小さな鳥が、風体に似合わぬ大声を出す。其れも又、如何にも在りそうな事だと思う。 だから、私は、形容を、削除する。 夜の底で、鳥が啼いている。 否。と再び、私。 果たして、鳥だろうか? この声。割れた鈴を呑んで、緑青に身悶えるような、声。 自信を無くし、私は、主体を、削除する。 夜の底で、啼いている。 何かが。(或いは夜そのものが?) 啼いている。 啼いて声は。 私を浸し。 私に染む。

          デザート・ヒーラー

          信号を待つ、その僅かな時間の隙間で迷子になって、私は足を踏み出せない。 何処へ、行こうと云うのだろう?私は? 意識が、意思が、蒸発する。夏の陽に灼かれる氷柱のように、静かに、脆く、それは陽炎う。 何処へ、行こうと云うのだろう?私は、私を確認する。 グレーのスーツ、スカートは膝丈。肩掛けのフラップバッグ。右手にハンカチ、左手に林檎のマークの携帯電話。 ちいさな画面で、地図を開いてみる。それは優しい。地図アプリケーションはいつだって、操作者を画面の真中に表示してくれる。まるで主人

          デザート・ヒーラー

          お静かに。

          誤解を恐れずに云えば、と。 切り出した僕はそれでも矢張り誤解を恐れていてつまり言葉を。 続ける事が出来ない。 黙る。 黙るのは楽だ。目を閉じて、息を殺して。 そう、小さな隠れ家が在れば、更に好い。 暖炉には薪を、窓辺には花を。 小さな、静かな隠れ家。ロッキン・チェアとソーダ水。 黙って、隠れて、瞳を伏せて。 え?隠れて、何をするのかって? ふむん。さて何をしたものかな? ジグソゥパズルは好きかい?僕は好きじゃないな。だって、なんだか試されている様な、そんな気持ちが

          忘れちゃったよ。

          就職した事が無い。 出来る気がしない。 だが職に就きたい。 のり弁当(税込み三百円)を昼夜に分割摂取して、か細い息を永らえている場合じゃないんだ。就職だ。就職すれば、特のりタル弁当(税込み三百九十円)とかチキン南蛮弁当(税込み五百円)とか、きっともっと。 明ける気配すら感じられない俺の夜空に指令を放つ。 「希望、それはガソリン。邁進せよ、燃えよ、俺!」 アイアイ・着火・サー!アイ着火サー! お返事は良いが、腰が重い。油圧ジャッキで惹起する。ガシャガコ。 邁進する。オイチ

          忘れちゃったよ。

          賛歌

          地球。日本。円生町。 駅裏の路地に梅雨色のビルがあって、その最上階に俺の事務所が在る。 と。云えば少しは羽振りが良さそうだが、実は店子も疎らな三階建ての更にその屋上、違法で物騒で安普請な小屋を建てて居座っているだけの話。 あばよ法令、よろしく買収。 ルームナンバー404。Not Found。 幾ら宣伝してみても、客が増える訳がないぜ。 一応、看板は出して在る。 「妹鬼塑秋探偵事務所」 五年前のカレンダー。その裏に、マッキーで手描きさ。達筆なんだよ、俺のボス。 まあ当然

          幕を下ろすな。

          □□□ 海の広さと深さ。 それが時々、彼の気持ちを滅入らせる。 「今、俺が、ビールを海に流し込む。それは海に落ちる。海に混ざる。こんな風に。」 彼は実際に手首を傾けて見せる。とぱとぱと筋を引く金色の炭酸水が、水面を叩く。それは混ざる。 遠く紅い夕陽。青く深い水面。弾ける金色。 ビールと海水のカクテル。生命のネクタル。 悪くない。なかなか風情があるんじゃない? 「それは混ざる。一体になる。でも結局。そこに遺るのは海だけだ。ビールを流しても、血を注いでも。すべては海に

          幕を下ろすな。

          知っている。

          3時になっても、眠れない。 羊を数え、山羊を数え、砂漠の砂を夜空の星を数え続けて眠れない。 3年経っても、眠れない。 だから、眠りを断念する。 いっそ、夜の底を生きる。 夜を嗜好する。思考する。 くだらない、こと。ことだけを、考えて、醒め続ける。 イメージ。深い森、薄暗く。女が独り、寝息を立てる。 眠れる森の美女。 それはイメージ。 手を伸ばし、掴まえる、眠れぬ夜のビジョン。 見る。 眠る彼女を僕は見る。それは完璧に、完全無欠に眠っている。 僕は。 均衡について考える口

          知っている。

          没ネタ祭「日記」

          特定少数の皆様こんばんは、ウネリ本体です。時は2006年(鎌倉時代よりちょっと後です。)私は毎日毎日、ネット上に日記を書いておりました。2年弱書き続けた当時の文章はサービス終了によって電子の海に消えました。(日記が「ブログ」へと移り変わって行く時期でした。)全てをコピー&ペーストすることは流石に面倒で、記念碑的に、割と無作為にサルベージしたものをメモリカードに保管、それから早、幾時代。 昨年noteを使い始めた際に思い出し、下書きに放り込みました。 折角なので手は入れず、裸体

          没ネタ祭「日記」