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  • 本好きのための読書案内

    最近出版された本、入手しやすい本を中心に、主要論点を紹介します。 ジャンルは、歴史書、思想史、社会科学がメインです。

  • 18世紀:

  • 20世紀:破局の世紀

  • 19世紀:葛藤の世紀

最近の記事

旅は、自分との出会い

中島俊郎,2020『英国流旅の作法 グランドツアーから庭園文化まで』(東京:株式会社講談社) 旅とロマンと愛郷心18世紀イギリスの旅行ブームが、英国人の精神史にもたらしたものは何だったのかを、簡潔にまとめた小著。 17世紀から、貴族の子弟が教育の仕上げとしてヨーロッパを旅行し、外国で知見を得るプログラムが組まれていた。これをグランドツアーという。この旅では、イタリア旅行が目玉となる。なんとなれば、イタリアではギリシア、ローマ以来の古典の伝統を体感する事ができるからである。

    • 闘争か、合意か

      宮田昌明,2019『満州事変 「侵略」論を超えて世界的視野から考える』(東京:株式会社PHP研究所) 近代史を理解するための傑作満州事変を解説する本というよりも、そこに至る主要国の近代史を俯瞰させてくれる。それぞれの国を動かしている大きなトレンドを見事に要約してくれており、受験日本史からの解毒剤として、大学1・2回生には必読の好著だ。 冒頭の第1章と第2章では、清国と日本の近代化が描かれるが、この対比も興味深い。すなわち、清国の末期においては、満州、東トルキスタン、モンゴ

      • 19世紀に学問は専門分科した

        エドワード・S・リード,2020(原著:1997)『魂から心へ 心理学の誕生』,村上純一・染谷昌義・鈴木貴之訳,東京:講談社 学問の専門分科は、いつ、どのようにして、起こったか?本著では、神学を中心とする学問から、心理学や哲学が分科していく過程を、19世紀の中に見ている。実際に、19世紀の始まりと終わりとで、学問はすっかり様変わりしていた。19世紀の前半、人の心理を探求したのは作家や医者や牧師たちであり、表現としては詩や文学であった。それが世紀末になると、実験心理学が成立し

        • 科学が発達し、今や最高の高みに立ったと自惚れる私たちが、いかに没落した存在か

          佐伯啓思,2020『近代の虚妄 現代文明論序説』(東京:東洋経済新報社) コロナ禍と現代文明批判新型コロナウィルスがこれほどまでに急速に世界に広がった背景にグローバリズムがあるということは間違いありません。しかし、コロナ禍の時代に生きるためにどのような処方箋を求めるかは、二つの立場が対立します。一つは、アンチグローバリズム。国境を閉鎖して今後もグローバルな活動に対しては抑制的であろうとします。もう一つは、グローバリズムを徹底する立場。ワクチン開発やその普及は国際的な協力によ

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        記事

          フランス革命は文化である

          リン・ハント,2020(原著2004)『フランス革命の政治文化』松浦義弘訳,東京:筑摩書房 人間関係のアップデートとしての大革命フランス革命の歴史的意義をどのように捉えるか。著者は、先行研究として、3つの流派を取り上げている。一つ目は、マルクス主義の歴史家たちの流派。この流派によれば大革命はブルジョア階級による貴族階級の打倒であり資本主義へ至る道を切り開いたものである。二つ目はフュレに代表される修正主義派。この流派は、貴族とブルジョアの対立は無かったと考え、革命の主体を自由

          フランス革命は文化である

          升味準之輔,1967『日本政党史論3』東京:東京大学出版会,第7章 大正政変

          桂太郎の歴史的な意義は何か? 安倍晋三元総理が歴代首相在任期間で歴代1位を更新するまで、1位に座り続けていたのが、桂太郎である。明治から大正にかけて、3回に渡り首相を務め、在任中には日英同盟の締結、日露戦争の勝利、関税自主権の回復など多大な功績を残した。ただ単に長く働いたと言うことだけではなく、業績面でも近代日本を代表する宰相と言っていい。 では、何故桂は長期にわたって政権を担うことができたのか、そして、日本の歴史の中で彼が果たした役割をどのように評価しうるか。 この点

          升味準之輔,1967『日本政党史論3』東京:東京大学出版会,第7章 大正政変

          エマニュエル・トッド, 2020『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』大野舞訳, 東京:株式会社PHP研究所

          コロナは民主主義を終わらせるか? アナール学派の中でも高名な学者であるトッド氏に対して、2017年から2020年にかけてインタビューした際の発言をまとめた小著。時事的な問題に対しての発言であるが、アナール学派の伝統的な方法論を背景にしている部分があり、示唆に富む。 ここでは、一つだけ、大きなテーマをあげる。 「コロナ発生前からいわゆるポピュリズムの台頭により、民主主義が危機に瀕していると言うことがよく言われていました。コロナにより、民主主義は破綻するところまでいくのでしょ

          エマニュエル・トッド, 2020『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』大野舞訳, 東京:株式会社PHP研究所

          青い馬も馬である

          L.ビンスワンガー『現象学的人間学(新装版)』(みすず書房,2019) ※原著は1947年本投稿では、余り難しいことは取り上げません。私は専門家ではないので、専門家ではないなりに読んでみて、「そうか!」と思ったことを簡単に伝えるしか出来ないからです。 上のコンセプトと照らすと、この本は、難しそうに見えるかもしれません。でも、私が大切だと思ったことはシンプルなので、少しお付き合いください。 まずは本著の簡単な紹介から。著者のビンスワンガーは1881年スイス生まれの精神科医で

          青い馬も馬である

          人類を変えた衝撃的な体験!?

          ジョン・ヒッグス,2019 『人類の意識を変えた20世紀』(インターシフト) 人間の本質は変わらない、などと言われますが、本当でしょうか? 社交的な人は生まれつき社交的で、死ぬまで社交的なのかというと、そうでもないと思います。衝撃的な体験をした場合、すぐにはそれと気付かなくともだんだんと影響を受けて気づいたら、人が変わっていたなんてことはあります。実際に、社交的だった人が、何かのきっかけで引きこもりになったりなんてことも、ありそうなことです。 ここで取り上げる本では、人類

          人類を変えた衝撃的な体験!?

          デモクラシーを支えるものは、理性だろうか?

          佐藤優,2020 『16歳のデモクラシー』 東京 :晶文社前回、本の取り上げ方を紹介した。ざっくり読んで、本の主題を代表するQAを作るという手法だ。 今回は、導入として、タイトルに掲げた著作を使って、これからの読書案内のスタイルに、お互いに慣れていくようにしたい。 まず、著者と本書の概要をまとめておく。著者の佐藤優氏は、元外務省主任分析官にして、今は押しも押されぬ売れっ子作家。驚異的な教養を武器に、子供からビジネスパーソンまで読み易くて、ためになる啓蒙書、解説書を多数著し

          デモクラシーを支えるものは、理性だろうか?

          どんな本? どんな風に取り上げる?

          このシリーズで、どんな本を取り上げていくのかを簡単にまとめます。 まず、歴史系の本。今がどうしてこのようになっているのかを知るためにも、歴史の本は欠かせまん。 次が、社会科学系の本。社会現象のある側面をある方法論で切り取ることで、なるほど!と唸らせてくれるのはこの系統の本で、こちらも欠かせません。 最後が、文学・思想系の本。学術論文とは異なる語り口を持ったこの手の本は、思考と感情に強く訴えかけて、読後に物を見る目や考え方まで変える力を持ちます。 歴史・社会科学・文学思

          どんな本? どんな風に取り上げる?

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          初めまして、うねごんです。 最初に簡単な自己紹介を。 私は大学卒業後企業で人事の仕事を担当し、気付けば20年ほどになります。 キャリア開発や評価制度、労務など一通り担当いたしましたが、残念ながらいまだ不完全燃焼で、どうしても企業や組織の方向と自分の考え方が合わず、モヤモヤとし続けたまま、気がつけばもう人生は折り返し点を過ぎておりました。 なぜ私はこれほどモヤモヤしているのか? ビジネスの世界で新しいと言われるものに新しさを感じなかったり、経営者が言っていることに文化

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