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闘争か、合意か

宮田昌明,2019『満州事変 「侵略」論を超えて世界的視野から考える』(東京:株式会社PHP研究所)

満州事変

近代史を理解するための傑作

満州事変を解説する本というよりも、そこに至る主要国の近代史を俯瞰させてくれる。それぞれの国を動かしている大きなトレンドを見事に要約してくれており、受験日本史からの解毒剤として、大学1・2回生には必読の好著だ。

冒頭の第1章と第2章では、清国と日本の近代化が描かれるが、この対比も興味深い。すなわち、清国の末期においては、満州、東トルキスタン、モンゴルへの漢族の支配が強まるとともに、列強の侵略に晒されながらも漢族が列強と妥協して利権を確保する体制を強化していく。一方の日本は、上意下達の近代化は早々に失敗し、国会を開設するとともに、江戸時代から納税主体であった地方名望家を巻き込んだ地方行政という合意形成システムを発展させていく。外交においても日本は欧米との個別の合意形成には強みを持つ反面、欧米主導の原理原則を押し出した外交には弱く、次第に不利な立場に追い込まれていく。こうした大きな各国のトレンドがぶつかり合う一つのクライマックスが満州事変だ。

新書にしては分厚く、取り扱うテーマも幅広いので、この本の各論部分については、これからも細かく取り上げて行きたい。近代史の専門家には当たり前の知識なのかもしれないが、受験生あるいは一昔前に学部で日本史を勉強しただけという社会人にとっては目から鱗が剥がれまくる一冊である。

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