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第5章 もう、夏はすぐそこ 〜植付け編〜

 今年はラニーニャ現象で猛暑でしょうと、ニュースキャスターが言った。
また暑くなるのかよ、、、、私は心の中で舌打ちをした。
 家庭菜園では冬に蒔いたカバークロップの大麦とホウレンソウが穂を出し、日陰を作り出していた。そのおかげで土も適度に湿って柔らかい状態になっている。

 植え付けの準備は整った。地球沸騰化時代の夏に耐える栽培実証のはじまりだ。


冬から春先にかけての超高畝
春野菜と花 どちらも楽しんだ

たった一つの植え付けのルール

 私は夏野菜の植え付けや播種をしていき、あっという間に春の連休は過ぎていった。地表を裸地にしないように、冬の間に有機物で覆った圃場で気を付けるべきことがだんだんと分かってきた。これは多少の痛みを伴う失敗を通して得た教訓だ。

 地表に有機物を多く供給した=薄暗くて腐植の分解者が生息しやすい環境になっている為、ダンゴムシによる幼苗の茎への食害が多発したのだ。
 今までヨトウムシ対策で株元にダイアジノンを振りかけていた時には起きなかった問題で、薬剤の効力を改めて知ることになった。

 特に若苗定植や発芽後の柔らかい茎は、腐植同様に虫にとって食べやすいご馳走なのだろう。手間暇かけて育てた苗が無惨に食われ、ばたりと倒れている姿を見るのはつらかった。

ダンゴムシとの戦いに生き残ったトマト。本葉4枚くらいまで育てば大丈夫。

 播種や植え付ける際は虫のエサになる有機物をどけ、少なくとも直径30cm程度に開けた明るい空間に植え、活着して一定の大きさに育つまで、株元に日陰を作らないようにすると食害されにくい事がわかった。

 ほんのわずかな光と水の環境差が幼い植物の命運を分ける。当たり前のような事だが、自然的な栽培で人類が干渉すべき要素はここに集約されるのかもしれない。

 種を蒔く時も耕して種子を埋める(毛細管現象を壊す)のではなく、地表に種子を押しつけるようにめり込ませ(水のコントロール)、その上から適切な厚さに土を被せる(光のコントロール)やり方に変えてみた。

 数センチ、いや数ミリでもいい。少しでも地表から高いところで発芽すれば幼い植物が生き残る確率が上がるかもしれない。とにかくダンゴムシに負けないで欲しかった。

バトンタッチ

 冬のカバークロップの大麦の穂が色づき、麦刈りをしている私に、散歩中のおばちゃんが「ようやく刈り取ったね。それ大麦でしょ、炒ったりしないの?」と聞いてきた。
 どうも近所で「なんか変わったことをしている家庭菜園」として噂になっているらしく、作業中に話しかけられる(詮索される)事が多くなってきたような気がする。

大麦が揺れる風景
道行くご近所さんは雑草ぼうぼうの畑だと思ってたらしい

 大麦は来年用に種子を残し、大部分は麦わらマルチとして利用する。株元はそのまま放置して枯れるに任せる。これでそこそこ雑草を抑える事ができる。
 このやり方でアレロパシー活性の強いエン麦を上手に組み込めば、除草剤をまかないでこぼれ種や雑草を制御する手法への応用も可能だろう。

 大麦を収穫したら、畑の色彩がグリーンから茶色に一気に変わった。冬の花たちは寿命を迎え、上から藁を被せたら畝の上もなんだかスッキリしすぎて寂し口なったが、しばらくすればトマトやキュウリなどの夏野菜が畝の上を埋め尽くしてくれるだろう。

無造作に麦わらマルチを乗せた畝

 虫達の隠れ場所として、大麦は11月播種以外にも通路マルチ用として春蒔きしておけばよかったかもしれない。緑が少ないとなんだか落ち着かない気持ちになっている。

 大麦の後にはトウモロコシとソルガム、枝豆を菜園の東西両端に蒔いた。冬の作物にいたAM菌と根粒菌のリレーをさせるためだ。
 やがて背が高くなれば、日陰を作り出し猛暑を和らげてくれるだろう。

命のサイクルと捕食者の増加

 前年と明らかに違う点がある。昆虫やカナヘビの姿が多く目に留まるようになった。特にテントウムシの数が増えており、成虫も幼虫も活発に活動している。
 ナガメなど草の汁を吸う昆虫もときどき見かけるが、どちらかというと生育最終盤の採種中のアブラナ科の植物を好むようで目立たない。アブラムシはテントウムシが食い尽くしたのではないかと思うほど見かけなくなった。

 ビオトープに捕まえたオタマジャクシを放ってから少し経った頃、水の中に4cmくらいの小さなヒキガエルが1匹いることに気がついた。
 どれだけ成長が早いんだと一瞬驚いたが、冷静に見てみると私が捕まえたオタマジャクシはまだ水底にいて、まだ足も生えていない状態だ。

 住宅街の中の家庭菜園に作られた小さなビオトープに、交通量のある道路を渡り、どこからか旅をしてやってきたカエルが住み着いた。自然の力は偉大だ。

 適切な初期環境を整えれば、途中で人が手をかけずとも、結局なるべくして理想の姿に近づいていくんじゃないか。

虫達の避難所

 麦を刈り取った後、虫やカナヘビはどこにいたかというと根菜コーナーに逃げ込んだようだ。緑の多さ=餌の多さ=生き物の多様性なのだろう。

春の根菜エリア
生育中と採種中の根菜たちが作り出すカオス

 野菜の収穫が終わって片付けたり、畑に漉き込んだりするのではなく、少しで良いからそのまま残しておいて、自然界のように種を作るまでの生命のサイクルを全うさせてあげる事が、畑にいる小動物や昆虫たちの生命のサイクルを途切れなく回すことにも繋がるように思える。

 菜園の生き物すべてが天寿を全うできる環境を整え、全ての歯車が噛み合った時、何が起き、どんなカオスが出現するのかとても楽しみになってきた。

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