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ショートショート「銃のアプリ」(約1300字)

 バーティ・ハットンは大学生だ。つい先日20歳になったばかりである。この国では20歳という年齢は、節目なのだ。お酒が飲めるし、たばこも買える。公営のギャンブルだって楽しめるのだ。
 でも、バーティにはもっと嬉しいことがある。銃の所持が認められることだ。
 「20歳になったら欲しいものを1つ買ってやる。せっかくだから、多少高価なものでもいいぞ。」
 去年、バーティの父がそう言っていた。そして、今日がその約束を果たす日だ。
 バーティが欲しいものは決まっている。最新式の銃「loyal dog 1」である。この銃は、一風変わっている。スマートフォンのアプリと連携しているのだ。扱い方なんて銃それぞれで違うが、そんなこと考える必要はない。ボタン1つで安全装置やリロード、そして発射などを行える。それに精度も良い、という売り文句だ。
 購入後、家に帰ったバーティは嬉々とした目で銃を見ていた。操作するアプリのダウンロード中は待ちきれないといった感じだった。その前では、テレビがニュースを流している。ホートリー大統領が演説している映像だ。
 「この国から銃をなくすことは難しいが、より安全な社会を目指します。安全を作ることは可能なのです。」
 テレビから力強い声と拍手が聞こえる。うるさいからバーティはテレビを消した。
 翌日、バーティは大学で友達に自慢をした。
 「俺の銃は、お前のとは違うんだぜ。いいだろう。」
 すると、友達から一緒に狩猟に行こうと提案された。バーティはもちろん乗った。
 狩猟をする日になった。今日は鹿を狩るのだ。意外とすんなり鹿を見つけた。友達は慣れない手つきで銃を扱っている。
 「俺の銃は、お前のとは違うんだぜ。見とけよ。」
 バーティは、自信満々に照準をアプリで合わせ、スマートフォンの画面をいじった。「発射」ボタンを押した、もちろん画面を触っただけだ。
 「バン!!!」
 鹿の頭より上を銃弾は飛んだ。バーティは、すかさずもう一度「発射」ボタンに触れた。
 「バン!!!」
 また外れた。鹿が逃げないうちにもう一度ボタンに触れた。
 「あれ」
 銃弾は発射されなかった。バーティは、あと3回ボタンを押した。でも、バーティの銃は黙っている。
 期待外れにまみれてバーティは家に帰った。家では、両親はテレビに釘付けになっていた。おかえりすら言わなかった。テレビではニュースが緊急速報を流している。
 「速報です。リカテイ州で開催されていた銃の見本市で銃が暴発しました。見本市にはホートリー大統領がおり、被害にあったという情報が流れています。」
 「どうやら話題の銃であるloyal dog 1のプレゼン中に起こったようで、開発者メル・シリトー氏も被害にあったようです。」
 「暴発は急であり、その後、3発も続けざまに起こったようです。」
 バーティは嫌な予感しかしなかった。時間も弾数も一緒だ。いや、わからないぞ。まさか、アプリが自分のものと違う銃を操作したのか?バーティは、ありえないほど混乱した。バーティは人生で初めて眠れない夜を過ごした。
 翌日、大統領と開発者の死亡がニュースに流れ、銃のアプリの急な問題により誤接続が起こったことが原因であると報じられた。
 バーティは、鹿を仕留めたいだけだった。

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