見出し画像

ショートショート「汚れる絵画」(約760字)

 K美術館は世界的にも有名な絵画を所有し、展示する美術館である。セキュリティーも厳重で、絵は頑丈なガラスケースで保護されており、誰も絵に触ることなんかできない。
 ある日、鑑賞者の一人がある絵の変化に気づいた。その絵はとてもきれいな桜の絵であった。しかし、その桜の花の一つが真っ黒になっていた。もちろん、鑑賞者は学芸員にそのことを伝えた。絵は、一度、鑑賞中止となった。そして、そのことは新聞の小さい記事になった。
 美術館の人たちは、話し合い、その絵をもとに戻すことにした。修復は少し大変であったが、美術館の目玉だったから全力で取り掛かった。そして、また展示することができた。
 3日後、またその絵が汚れていることが分かった。今度は、全く違うところが汚れている。困ったものだ。美術館の人たちはまた修復し、再展示した。
 それからというもの、その絵は不定期に汚れるようになった。さすがにこれは大きなニュースとなり、世界中の人がその絵を鑑賞しに美術館に訪れた。そしてなんと、汚れが付くたびに、絵をかなりの金額で買い取りたいというお金持ちもたくさん現れた。そして、ついた汚れの形や色、場所によってその絵の金額が変わる面白いことになった。
 美術館は、世界で一番絵の修復が上手な人を雇い。その人に高い給料を払った。その人は、絵に汚れが付くたびに、丁寧に修復作業を行った。それをするだけなのに有名人なってしまった。
 ある時、いつものように絵が汚れた。係の人はいつものように修復作業を行った。しかし、これまで修復作業をし過ぎたせいか、絵が破けてしまった。美術館の人たちは、一晩中話し合った。結局、絵が自然に汚れたように、自然と破けてしまったと説明することにした。すると、世界中のお金持ちが競うように金額をつけていった。そして、その絵は、世界で最も高額なものとなった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?