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思い(感情)に境がない人間の休養


思いがあふれるこの世界で
よくもわるくも思いと繋がるわたしとあなたのための手紙


思い(感情)に境がない人間の休養:体を痛ませる思いからできるかぎり離れる

慈悲があさくなる心配も 時事にうとくなる心配も要らなかった


思い(感情)は

目に見えなくともたしかにそこにある

におい、香り
音、振動

それらと同じように心身に影響をもたらすものだった


においがそこに流れているように、思いもそこに流れている

思いに境がないことは、「思いを知覚する器官の感覚がするどい」と言えるかもしれない

嗅覚のするどいいきものが嗅覚で世界を「見て」いるのと同じように

思いが「見える」と感じるのもあたりまえなのだった


世界は思いであふれている

よろこびがあふれる 悲しみが怒りとなってあふれる

いっしょによろこび いっしょに悲しむ

それが生きるよろこびとなる


それでも、はげしいよろこびに体をふるわせ
深い悲しみで胸や腹を痛ませることが毎日つづけば
かくじつに体は弱っていくのだった


弱ったいきものに世はつめたい

あたたかな共同体は生まれては消えていく

けれど そこに生まれた思いは、愛は、いつまでもつづいていく

しずけさと はげしさとともに

つづいていく思いこそ、愛こそ、いのちなのだった

うしなっては、あたらしく生まれる


人と人のあいだで生きなければ人間としての責任を果たせないと考えていた

だから隠居してはいけないとじぶんを説きふせてきた

けれど 世を愛した人は
山にこもり 野にこもり 園にこもった
しずかなばしょで祈った
嵐のなかでも眠った
そうしてまた人のあいだで働いた

怒る時に怒り、
ゆるす時にゆるした


休む時が長く感じても 人とくらべなくていい
それぞれの時がある


ここに自由な療養所はない
じぶんで工夫して 弱った体をいたわって
人にも手をあててもらいながら じぶんでじぶんに手をあてて
声を聴いて ちいさなちいさな声を聴けるようになって
時は過ぎていくけれど わたしはわたししかいない
あなたはあなたしかいない
ほかのなににも代えられない 




朗読:



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