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私の音楽遍歴「恩師からのカセットテープ」(邦楽編)

先日約4年ぶりに帰省した先で、家族や親戚、地元の友人といった近しい人々と久々な再会を果たしたのだが、折悪しく会いそびれた人々もいる。

とある恩師がそのひとりだ。

学校や家庭や地域だけの、狭い世界に閉じこめられざるを得ない中学生に、読書や音楽といった勉強以外の世界を広げてくれた、学習塾の先生。

学生時代にはバイト講師として舞い戻った際にも上司としてお世話になったし、お互いの結婚式に招待したりしてもらったりと、大人になっても緩やかながら交流がある恩師である。

塾に通っている頃、友人同志で集って恩師に誕生日プレゼントを贈ったりもした。
そのお返しに、恩師自ら編集した音楽テープをいただいた。

そのテープは音楽好きで山ほどのCDを持っていた恩師の、いわゆる「棚からひとつかみ」プレイリストでもある。
このテープとの出会いが「今の国内ヒットチャートにこだわらない(全く聴かないわけではないけど)」という、私の音楽の趣味趣向が作られるきっかけになったのである。

なお、このテープは残念ながらすでに実在しない。
プレイヤーが壊れてしまい聴けなくなったのも理由だが、引越しもあって家にあったテープの山の一切を処分してしまった。
せめてインデックスだけでも残しておけばよかったと今更ながら思うのだが、あとの祭りである。

この記事では、アイドル歌謡曲に代わってビーイング系や小室サウンドなどが流行り出した1990年代前半に、日本の端の島に住む女子中学生だった私に大きな影響を与えた恩師からのプレイリストを、思い出せる限り再現したい。記憶をたどりたどりのプレイリストである。

便宜上、邦楽と洋楽で2回に分けて紹介していく。


邦楽編

佐野元春 「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」


佐野元春公式YouTubeチャンネルにて、リリース当時のライブ映像がアップされていた。ありがたや。

1989年リリースのアルバム表題曲。
名曲として筆頭に上がる「サムデイ」や、1992年にドラマ主題歌起用で改めてシングルカットされヒットした「約束の橋」(ちなみに約束の橋はこのアルバムに収録されている)でもなく、この曲をチョイスした恩師のセンスがなんかカッケー!と思った当時の中2女子であった。

大瀧詠一 「雨のウェンズデイ」


ジャパニーズシティポップの名盤からの一曲。
雨にまつわる名曲といえば?と訊かれたら真っ先にこの曲を挙げちゃうくらい、大好きな曲になった。
物悲しい雰囲気が漂うのにジメジメ感はなくサラッとしている不思議な軽さに、なんだこれはと思った記憶。
柔らかなバリトンボイスからファルセットも軽やかという、稀有な「大人の男性」の歌声に、初めて心を絡めとられたような感覚を覚えた。

浜田省吾 「君に会うまでは」

浜省は往年の自分の楽曲を録り直してベスト盤にするということをちょいちょいやっているが、テープに収録されていたのはそのver.だった(初出はセカンドアルバムの『LOVE TRAIN』)。

初出よりもなんとなーくクリスマス感が漂うアレンジになっている。
これから深く付き合いそうな、もしくは付き合いたてかの若い大人の初々しいカップルが、もしかしたら夜を超え同じ朝を迎えるかもしれないというような予感と共に、温かくも高揚感を帯びた恋心を描いている歌詞なので、そういうのも少し狙ったアレンジにしたのかもしれない(あくまで推測)。
中学生にとってはちょっと大人の世界を垣間見たような一曲である。

尾崎豊 「誰かのクラクション」

3枚目のオリジナルアルバム『壊れた扉から』の9曲目。
尾崎が亡くなったのが私が中学2年になった春の頃で、その当時は「I LOVE YOU」や「15の夜」といった代表曲ぐらいしか知らなかったが、この曲は私の中のヒリヒリとした尾崎のイメージを良い意味で覆した。
内観的な歌詞にマッチした、穏やかだけど揺らぎもあるメロディラインがとても好きだ。


南佳孝 「天文台」、「SKETCH」

1982年リリースのオリジナルアルバム『SEVENTH AVENUE SOUTH』の5曲目と10曲目。
「SKETCH」は約1分半ほどの短い曲で、テープ世代の方々はお分かりだと思うが、テープに曲を次々録音していくと、最後あたりにもう1曲入れるには足りないが余白には大きいくらいに時間が中途半端に余ることがある。
その余白を埋めるためについでに入れてくれた模様。
でもこれがまあアーバンな雰囲気でかっちょいい曲なのだ。
記憶違いでなければ、車かなにかのCMに使われていたのではないだろうか。
「天文台」は、とてもロマンチックな曲。普段の恩師の雰囲気とはあまり似つかわしくない気がして、軽く面食らった覚えがある。

SION 「チェッ」

これ…ちょっと記憶が曖昧なのだが、たぶん入ってたと思うんだよなあ…。
福山雅治が「Sorry Baby」をカヴァーしたのをきっかけにSIONを知った方も少なくないかもしれない。
この曲も歌詞がロマンチックといえばそうなのだが、ちょっと退廃的な語り口が合わさっていてそれがかえって微笑ましい。良い具合の野郎っぽさがカッコ良くて、しびれる。


というわけで、ひとまず邦楽編は以上。

ドンピシャ世代の方々には、そう珍しくないメンツなのかもしれないが、当時の中学生にとってはだいぶ背伸びしたラインナップだと思う。

当然、クラスメイトとは音楽の話がことごとく合わないことが多くはなったが、それは差し置いてしまっても構わないくらいに、恩師からのテープが基点となり、そこから音楽の沼にハマっていったのであった。

(次回、洋楽編へ続く)

#私のプレイリスト

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