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小説『アルター・ノヴァ』(1/1)


「さあ、解読者よ、行くがよい。アルター・ノヴァが君を待っているぞ」

ア・ヴーンの意識の声が宇宙空間に響き渡り、僕は、起源の光源に向けて飛んで行った。そして僕はアルター・ノヴァの光に吸い込まれ、まぶしい光の中でふと、意識が薄れ、そして気がつくと、純粋な白銀色に光り輝きながら中空に浮かぶ、僕の身長より少し大きいくらいの大きな光球のそばにいた。その清らかな輝きは、真心と、無垢と、そして何よりもまさに愛を象徴していた。光球の放つ光はとても暖かく、その光のなかで、僕の心は癒やされ、やすらぎに満たされた。そして光球から意識が流れ出てきた。

「起源宇宙に帰還せし者よ、私はあなたを歓迎しよう…」

「あなたは誰ですか?」
僕は光球に向けて意識を送った。

「私は宇宙の原初の意識。あなた方が創造神と呼ぶ存在…」

「あなたが、宇宙の創造神…」
僕は驚きをもって、光の主を見た。

「そう。そして、宇宙は、果てしなく多彩にして多様な意識の響きを体験したいという、創造神の欲望から生まれた」
創造神は意識の言語でそう語った。

僕は感極まって、喜びに体を震わせ、この、アルター・ノヴァにおける創造神との邂逅を成さしめた運命の巡り合わせに心の底から感謝した。

「ああ、思い出したわ」
そのとき不意に、僕の傍らにいたファウが言った。
「そうよ、ここが、私の故郷だったのよ!」

「そうか、ファウ、君は、創造神の意識の一番直接的な投影の一つだったんだね」
僕も驚いて彼女を見つめた。

「ええ。あたしは、この光の中で生まれたのよ…」

そのとき、創造神の意識が僕たちに呼びかけた。

「私の愛しき御子たちよ、この漂える世界を造り固めなしましょう」

すると、アルター・ノヴァの光輝が一段と輝きを増し、虹色の輪が一層まばゆく光った。

「私は森になりたい。若やいだ枝を空に張り、瑞々しい葉を蓄えた木々の寄り集う森に」

創造神がそのように意識すると、その意識の流れは、遠い星の草一本無い地表に森を生じさせ、豊かに緑溢れさせるまでに育んでいった。

「私はまた、星になりたい。常に熱く燃え輝き、闇の宇宙を光のきらめきで彩る星に」

創造神が意識すると、それは、どこかの宇宙空間の、全き暗闇の広がりの中に、無数の星の輝きに満ちた巨大な銀河の渦巻きを形成した。

「私はまた、風になりたい。澄みわたる空を軽やかに流れ、鳥たちの声を伝える風に」

創造神が意識すると、それは、どこかの世界の大気の一隅に風を吹かせて、鳥たちとともに、広々とした空のなかを奔放に駆けていった。

「さあ、ヴィクトル、あなたも念じてみなさい。私たちの宇宙を一緒に育てましょう」
ファウがいたずらっぽい口ぶりで呼びかけた。

そこで僕は、メリーゴーランドの模型を念じてみた。するとそれは、すぐに僕の前で記憶のヴィジョンの形を成して、三次元世界に投射され、地球のどこかに現れ出た。それを見て僕は面白くなり、次いで、鉢植えのアジサイや、色とりどりの風船、しゃれた音色のクラリネットなど、思いつくままに様々なものを生み出し、創造神やファウたちと一緒に、気持ち豊かに、世界的な創造の体験に参加した。

そして僕はそれに加わりながら、宇宙はまさに神の語りであり、それゆえに神の意識であり、そしてまた、共同創造の宇宙であることをあらためて、この上ないほど深く実感した。

さらに僕は、創造行為によって記憶をより良く改変してゆくことができ、その実践の継続によって、より一層、この世は楽園に近づいてゆくのだということをも悟った。

「愛こそが宇宙の本質。起源宇宙への扉…  すべての流れくる源なんだ」
僕は、我知らぬままに、つぶやいていた。

「愛は創造の源。宇宙の起源。愛はすべての本質。すべては愛より生じ、愛に帰すわ」
ファウは静かに言うと、それから僕に向かってささやいた。

「あたし、もうそろそろ、帰らなくてはならないわ」
僕の長い旅の同行者だった光の精霊は、穏やかな優しい口調で言った。

「また会いましょう、ヴィクトル」


               (おわり)


               1997年制作


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