あくまの真似事

「俺たちはこれからどうなっていくんだ。
今度は悪魔の真似事でも始めるのか?」

モハメドはアメスピを吹かしながら、夜空を見てそう言った。
俺は、そんなのわかんねぇよ、とボソボソと言葉を煙と一緒に空に吐き出す。

でも彼の言っていることは、ある意味では正しいのかもしれない。
もし、神様がいて全ての生物を作り上げたとして、それぞれの種の繁栄を望んでいたとすれば、俺たち人類の向かっている先は彼の思っている方向ではないと思う。
神様は、そっちは地獄の門だよ〜、何してんのよ人類は、知性をあげたばっかりに、なんて言うかもしれない。

先日、親友から久しぶりに電話がかかってきたと思ったら恋人ができたらしく、偉くご機嫌だった。彼は、俺の気持ちなんて知る由もない。だが、それでいいのだ。
そうあるべきなのだ、と自分に言い聞かせる。

モハメドは中東訛りの英語でこうつづける。彼の話し声は、部屋でイヤホンをしていても特定できるほどユニークだ。

「例えば、飛行機。あれはきっと鳥からインスピレーションを受けて作っている。人は鳥のように空を飛びたかった。その結果、実現し今俺とお前がこんな国で一緒に暮らすことになっている。
例えば、潜水艦。あれは魚だな、いや鯨かもしれないな。海中の生物を知らなければ海の中を進もうなんて思考は生まれないはずだろう?」

自分を大切にして楽しまなきゃな、なんて軽口を叩く俺の心はどんな顔だったか。今度猫カフェ行くんだ、と嬉しそうに声を弾ませる彼に反して俺は声が震えないように喉に力を込めた。

「他の生物のあり方から自分達の生き方を発達させる。これが俺たち人類が人類たる所以だ。」

まぁ、言わんとすることはわかる。そういった意味では、人類は多くの事象を模倣してきたと言える。その最終段階は、ロボットや人工知能としての人の模倣なんじゃないかとも思ったりした。けど、モハメドが嘆いているのはそんなことじゃない。

「サンフランシスコのあるストリートに泊まったんだよ。あれは、酷い場所だった。完全に俺たちのミスだったわけだけど。歩いているやつ全員がゲイだったんだぜ?そんでな、美人がいると思って声をかけたらそいつはトランスジェンダーの元男だったんだ。あれは酷かった。恐ろしさすら感じたよ」

流石に、反応が遅れてしまった。中高時代は、そういう話に合わせることに慣れていたがその日々はもうかなり昔だったことと、中東訛りの英語に耳が集中していたことが原因だったと思う。今横にいる男が当事者であるという可能性は微塵も考えていないのだろうか。「その通りだよ」と、相槌を打ったところで彼の携帯がなった。

「それじゃあな、おやすみ」

俺は悪魔か、おあつらえむきだ。
悪魔の俺に言わせれば、この世の中の方がよっぽどか地獄じゃないか?
せっかくなら苦しみながら生きていくよ。


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