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ゲストハウスで待ち構えていたもの

2日前に急遽決めた「自分と向き合う旅」、着いたのは山梨県韮崎市の山奥に佇む古民家だった。

「ここだね、空穂宿って書いてある」
「あ、これだね。道狭いな」

私が助手席から話しかけた今回の旅の相手は、4〜5年前に別れた元彼。今は友達として時折、遊ぶ仲になっていた。

その名の通り、広い空に稲穂がサワサワと揺れるのどかな町。ゲストハウス『空穂宿』が今回見つけた宿泊先だった。


「はじめまして〜」

ニコニコと迎えてくれたおかみさんと、

「はいはい、こんにちは」

仙人のような雰囲気を醸し出すオジイに迎えられて、3泊お世話になることになった。

囲炉裏のある居間、たくさんの本やレコード、楽器、ボードゲーム。なんだか全てが懐かしい気がした。


ウッドデッキで、昼は寝転びながら絵を描いていた。夜は星と月を見ながらタバコを吸った。


囲炉裏で、夜はみんなでお酒を飲みながら、頂いたホタルイカを炙った。ケラケラと笑うおかみと、面白いオジイ。
大好きなレゲエの話で盛り上がったり、人生の深い話をしたり。


お布団に入ると、おかみが湯たんぽを用意してくれていて、嬉しくて思わず写真を撮った。


初日にちゃぶ台のような丸テーブルの上に置かれていた絵本。ふと気がつくと、置かれている絵本が変わっていた。
あれもおかみが変えているのかな。そんなひと手間がとても温かく感じた。


昼夜の寒暖差で鼻炎を発症した私はティッシュを持参していたけど、チラシで作ったゴミ箱を出してくれた。
おばあちゃんがよく作ってくれたなあって思い出したら会いたくなった。


居間の天井隅に、手づくりのまっくろくろすけがいた。
まるで今出てきたみたいにくっ付けられていたまっくろくろすけは本物のようで、(あ、本物は見たことないけれど、本物みたいって思うくらい素敵だった)、小さい子が見つけると、見ちゃった…という顔をして目を逸らすそう。
可愛らしいエピソードに癒された。

ぜんぶオジイとおかみの人柄があってこそだろう。

そうだ、
川でコーヒーを飲もうと向かっている車内で元彼と

「かみさま は はたらきもの」って絵本ありそうだよね。

そんな話をした。

川でホットコーヒーを飲んだ後、さっそく描き出してみた。まだその絵本は描いている途中だけど。

なんでそんな話になったのかは覚えていない。でもきっと、影響を受けたのは、囲炉裏を囲んでいる時にオジイから聞いた話で。

『俺はハローワークに行くと言って、川でジャンベ※を叩いていたこともあるよ』

※ジャンベ=太鼓のような、レゲエで良く使われる楽器

すごい話だ。そんなオジイにおかみはさぞ苦労しただろう。うわあ〜って言いながら、思わず大笑いした。

だけどあの時、なんだか胸のつっかえがスゥっと消えた気がした。

あ、働くって意味は、ひとつじゃないのかもしれない。そう思った。

いいこと、悪いこととかじゃなくて。

まだうまく言えないけれど、きっと生きるって本質のお話。たぶんそう。



今回の目的は観光じゃなくて、「自分と向き合う」ことだった。

いろいろなことがあって、自分から逃げていた私が、今を変えなきゃって。
そう思って誘ったのが元彼だった訳なんだけど。

その元彼は今、若干鬱病の気質があるような、あんまり言うと怒られそう、でもとてもセンシティブな人。

だから今回、
あいつにもいい作用がありますように。
そう願い「なるべく別行動にして自分と向き合おうプラン」にした。

そんな元彼も帰り道でこう言っていた。

「来てよかった」

私もそう思う。


たくさんの小さな温かい光みたいなものを、もらえた気がする。


いま、世情もあってゲストハウスも大変みたいだった。

#ゲストハウスを応援しよう
そんなハッシュタグをつくって、景品を用意して思い出を募っているみたい。

だけど今回楽しむ目的じゃなく、ちょっと落ち込んだ気持ちで利用してしまったので、応募期間外に投稿します。


「おかえりなさい」


そう言って迎えてくれるのがとても嬉しかった。また必ず、帰りたいです。どうかお元気で。また会えますように。


ちょっと疲れたな、息抜きしたいな。
私ってこういうところがダメだな。
ご飯をだれかと食べたいな。


そんな時は、ゲストハウスに行ってみるといい。


そこには無条件で愛が待ち構えている。かもしれない。

サポートしていただけると、おいしいホットコーヒーが飲めるかと思います。