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それでも わたしは 珈琲を飲む


嗅覚を 失っている。
それに伴っているのか 味覚も異常だ。

珈琲の香りがしない。
珈琲が美味しいと思えない。


ずっと このままだったら
喫茶店の仕事は 続けられないのではないか。

そうではないことを 祈る。


✴︎

嗅覚を失うのは 今年2度目だ。

前回は 5月だった。

朝 いつものように 喫茶店で 珈琲を淹れた瞬間に
珈琲の匂いが 全くしないことに気づいたのだ。
この御時世なので すぐさま早退し PCR検査を受けた。
結果は 陰性で 安心したものの
しばらくは 匂いのない生活だった。

精神的なことが 身体に影響して
病院的には 原因不明と言われてしまう不調に
悩まされることがある。
急に腕が上がらなくなったり
謎の鼻声が治らなかったり。
病院での検査では わからず
気休めの薬を飲み続けるのも嫌で
自分の心身を整える方法を 探っている。
自律神経からのアプローチをする整体で
精神的なことからの神経伝達の異常ではと指摘され
施術により1週間ほどで嗅覚を取り戻した。

✴︎

今回は 残念ながら PCR検査 陽性。
コロナの後遺症での 嗅覚味覚障害である。
自宅療養期間は とっくに終えたものの
PCR検査では 陽性が出続けてしまい
(感染させてしまう危険性はないと言われているけれど)
職場復帰を許されず
長い夏休みが続いてしまっている。

経済的な問題は深刻で
職場復帰できないことに憤りはあるものの
嗅覚がない状態での仕事には 不安があり
心は 後退り状態でもある。

5月のことが 思い出される。
珈琲は 香りがあってこその飲み物だと再認識した。
自分の淹れた珈琲の味を確認できない。
自分の淹れた珈琲を美味しいと思えない。
その状態での仕事は 辛い。

わたしの働く喫茶店は
ネルドリップの濃厚な珈琲が特徴で
決して万人に受けるタイプの飲みやすい珈琲ではない。
だからこそ 自分の基準がブレてしまうと不安になる。

自分が美味しいと思える いつもの珈琲が
お客様の好みに合わないのは仕方がない。

でも。
自分でも 美味しいかどうか 確かではない珈琲は
お客様に喜んでもらえるか 不安で仕方がなくなる。
豆の不備などにも気づけない。

そんな状態でも 働いた。
淹れ方は 身体に染みついている。
他のスタッフに味見を頼んで
あとは 自分の経験を信じる。

幸い 整体施術後3日ほどで
少しづつ嗅覚が回復してきた。

珈琲の匂いがする!
パンの匂いがする!
あぁ 美味しい…
なんて 素晴らしいんだ。

失ってみて 改めて感じる感動だった。

✴︎

今回は まだ職場復帰できないので
近所の珈琲屋さんに行くことにした。
大きな焙煎機があり 豆の販売もしていて
手頃な値段で 珈琲やトーストが楽しめる
お気に入りの店だ。

本日のストレートコーヒーは ブラジル・サントス。
香りが豊かで 好きな銘柄だ。

久しぶりの珈琲。
カップに口を近づける。
ふわりと温かさを感じるが 匂いはしない。
味も あまりわからなかった。


悲しい。


感覚が遠くにいってしまっているからか
感情さえも 自分から遠のいているようで
泣いている自分の心を 遠くから眺めているようだ。

きっと美味しいであろう珈琲を 
ゆっくりと 時間をかけて 飲み干した。

✴︎

珈琲を美味しいと思えなくても
喫茶店で過ごす時間を手放したくない。

味が しっかりわからないと
美味しいものを食べても もったいない
と 思ってしまいがちになるけれど
ぞんざいにしてしまいたくない。
きちんとしたものを食べさせたいと
自分を 外から眺めて 思った。


✴︎

明日も また 珈琲を飲みに来よう。


仕事に復帰できるまで。
珈琲が 美味しいと思えるまで。

きっと また
あの感動と共に
珈琲の香りが 戻ってくると信じて。



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