マガジンのカバー画像

短編小説のようなものたち

16
運営しているクリエイター

記事一覧

鏡よ 鏡、わたしの味方

「ちょっと お化粧直し。寄っていい?」 駅のトイレに 朋子が入ってゆく。 入り口付近で待ち…

添い寝の君

差し出された腕を合図に 彼の左肩に頭をのせる。 首筋の匂いを嗅ぎ 足を絡める。 わたしたち…

鏡よ 鏡、 わたしが問いたいのは

「鏡よ 鏡、この世で1番美しいのは だあれ?」 朝の支度を終えると 鏡の前で つぶやく。 鏡…

鏡よ 鏡、

今度の街は 落ち着いた人通りで 奇抜ではないけれど 意思のある佇まいの店が 粛々と生きてい…

月夜の晩に

ドライアイのはずなのに。 今日は 涙腺が壊れてしまったみたいに 絶え間なく 涙が じわじわと…

ほころび

背を向けて寝ている彼の背中に ぺらと かすかな綻びを見つけた。 ゾクゾクと湧き上がる欲望。…

サンタのいない クリスマス

今年は サンタがやってこない。 そう気づいて 俺は 途方にくれる。 いい歳をした おっさんが 何を言うんだと思われるだろうが 去年までは 毎年欠かさず サンタクロースからのプレゼントが届いていたのだ。 サンタのいない クリスマスがやってくる。 俺は どうしたらいいのか わからない。 ✴︎ サンタクロースからのプレゼントが 嬉しくてしかたがなかったのは保育園の頃だった。 枕元に置いた 赤と緑のフェルトの大きな靴下が クリスマスの朝には いろいろな お菓子で いっぱい

雨の日は おやすみ。

夢の中に かすかに 雨音が 混じりだした。 ぱら ぱら ぱら ぱらぱら ぱら ぱらぱらぱらぱ…

月と野ねずみ

静香のこと  〈消極的な死への願望〉

庭の手入れは あえて していない。 初めてこの家を見たとき 長年放ったらかしだった庭に 自由…

静香のこと 〈しあわせな暮らし〉

結婚するまで 料理なんて ろくにすることもなかった。 正確に言えば 自分で食べるためだけに …

猫と小鳥

小麦の香りに包まれて。

繭子は パンが好きだ。 大学に入学して すぐに 大学のそばの小さなパン屋さんで アルバイト…

静香のこと 〈結婚を決めたとき〉

夫は焼き魚を食べるのがうまい。 うまいというよりも もう芸術といえるような箸さばきで 静かに確実に身をほぐし 黙々と口に運び咀嚼する。 そのさまは とても美しく わたしは この人と生活を共にすると決めたのは 間違いではなかったと思う。 * 夫とは 見合い結婚である。 20代から30代にかけて 必死にしがみついてきた 人生一度きりの大恋愛に 無残にも 燃え尽きたわたしは お決まりのように引き篭もり それを心配した親戚に斡旋されて あれよあれよと ある由緒ある和食の店の