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雨の日は おやすみ。



夢の中に
かすかに 雨音が 混じりだした。


ぱら

ぱら ぱら


ぱらぱら ぱら ぱらぱらぱらぱら


窓を打つ 雨の粒。

今日は おやすみ だ。

そう思った瞬間、
ものすごく安堵した。
あぁ、また苦しかったのかもしれない。
そう気づく。
いや、認めてあげられる。

今日は おやすみ。

雨のおかげだ。

💧

どうしてなのかは わからない。
明確な理由なんて説明できないけれど、
自分のいる場所に
しっくりきていない
息苦しい
と感じてしまうことがあるのは、
小学生の頃からだった。

いじめられた、とか
そんな はっきりしたことではないのだけれど。
出席をとるときに返事の声が擦れてしまって
みんなに笑われた、とか。
体育の時間に
隣の人と組みになってーと言われたとき
両隣りが自分と反対を向いた、とか。
自分の眉毛が左右違って変、とか。
そんなことが
どうしてもどうしても気になり出して、
気になり出すと
どんどんどんどん
動悸が激しくなっていって
どんどんどんどん
息苦しくなる。

泣きたくても泣けない。
声が封印されていく。
でも まわりには気づかれない。
だから
ただただ じっと耐えながら
いつもと同じ繰り返しを続けるだけなのだけど。
このままじゃ ダメだ。
だけど、どうしたらいいんだろう?

そんな日が続いた ある朝。
布団から出たくなくて、
いつまでもグズグズしていたわたしを
起こしに来たはずの母が
「今日は雨だから、おやすみにしよっか。」
と言ったのだ。
びっくりして布団から顔を出すと
「ね。そうしよっ。」と
悪戯っ子のように笑って 部屋を出て行った。

階下から
学校と職場に電話している声が聞こえた。
「体調が悪くて…はい、申し訳ありません。
はい。ありがとうございます。…はい。」
なんだか、悪いことをしてるみたい。
どきどきしながら 聞いていた。

しばらくすると、
軽快に階段を駆け上がる足音と共に、
母が勢いよく布団に潜り込んできた。
「もういっかい寝よう!」と。
母は、またパジャマに戻っていた。
全然 元気じゃん!ズル休みじゃん!と思ったけど
わたしは 何にも言わなかった。

久しぶりに母と寝るのは
窮屈だし、なんだかソワソワしたけれど
雨音を聞いているうちに
気づくと また眠りに落ちていた。

目覚めると隣に母がいて、
あったかくて、懐かしい匂いがした。
ごろごろ、ごろごろ、しながら
雨の音を聞いた。

ふたりのお腹が、交互にぐーっと鳴ったので
わたしたちは起き出して
買い置きのインスタントラーメンに
野菜とコーンとバターを好きなだけ入れて食べた。

それから
あったかい牛乳とビスケットを食べながら
お互いに そっぽ向きながら
本や漫画を読んで過ごした。

雨音が強くなってきたな、と振り向いたら
おかあさんは、また寝ていた。
おかあさんは、わたしより早く起きるし、
わたしより遅くに眠るし、寝顔なんて、
最近 見たことなかったなぁと思う。

その日のおかあさんは、
なんだかおかあさんじゃないみたいだった。
ぼんやり過ごすおかあさんを
わたしは、好きだなぁと思った。

次の日 目覚めると
空は すっきりと晴れていて
母はテキパキと朝ごはんを作っていた。
「早く!顔洗ってらっしゃい!」
いつもどおりの しっかりものの母は
元気にわたしを送り出した。

学校では、
「風邪、大丈夫?」と友達が心配してくれて
後ろめたく思いながらも嬉しかった。
息も、ちゃんとできるようになっていた。


💧


雨の日に 必ず休むというわけではない。

でも。
中学生になっても、高校生になっても、
こうして社会人になっても、
息苦しさが襲ってくることがあって
そんなとき、わたしは雨の日を待っている。
朝、雨音を聞くと
あぁ助かった、と思う。
そして
1日雨音を聞きながら眠り、
ごろごろ気ままに過ごすと
次の日には元気になれるからだ。


💧

雨。雨。雨。

雨の音。


今日は おやすみ。


💧


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