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匙投げ小説執筆法 12.題名の基本形

題名の基本形54

 自作の題名をどうつけたらいいか、お悩みのあなたのため、私なりに題名を54の型に分類してみました。考えるヒントになれば幸いです。
 ただ『社畜OLが異世界転生して騎士と神官に求愛されています(架空)』みたいなスレタイ風の長ったらしいやつは大嫌いなので、独断と偏見で採用しておりません。
 なお「あの題名も載せてほしい!」とか「こういう分類もあるのでは?」という方は、気軽にコメントくださいませ。

1.シンプル式

「〈名詞〉」
例:『テンペスト』『レ・ミゼラブル』『みだれ髪』『鼻』『カサブランカ』『エクソシスト』『タッチ』『SLAM DUNK』『バガボンド』『CATS』『マトリックス』『バッテリー』『キングダム』『ヘアスプレー』『首』
※かつては表現者自体が少なかったため、ごくシンプルな題名でも通用した。が、現代においてはかなりマイナーな単語を選ばなくては、その他大勢に埋もれてしまう(検索しにくい!)。「初恋」「告白」「約束」「手紙」などのありふれた題名は、作家としてのネームバリューだけで売る自信がないなら避けたほうが無難。思いついた単語がありきたりだったら、他の手法を試すべき。2.硬派式、5.リフレイン式も参照。

2.硬派式

「〈(特に漢語の)二字熟語〉」
例:『魔笛』『浮雲』『明暗』『斜陽』『破戒』『蒲団』『雪国』『細雪』『檸檬』『潮騒』『白痴』『満願』『変身』『白鯨』『黒猫』『禽獣』『陰獣』『憂国』『凶手』『半神』『神様』『真鶴』『青卵』『空庭』『火車』『趣向』『相棒』『娼年』『骨音』『裏島』『正欲』『白日』『氷菓』
※硬派な文体、正統派な内容を読者に予感させる。あまりに著名な作品の題名は使えない。意外性ある熟語を選ばなくては、他人とかぶる可能性大。思いきって造語を用いるのも手。3.三字熟語式も参照。

3.三字熟語式

「〈漢字三文字〉」
例:『道成寺』『徒然草』『羅生門』『地獄変』『山椒魚』『婆沙羅』『黒蜥蜴』『金閣寺』『蘭陵王』『不死蝶』『未青年』『新学期』『終業式』『黒耀宮』『逃亡者』『模倣犯』『禁猟区』『白夜行』『聖家族』『氷平線』『煌夜祭』『大好物』『可燃物』
※「三字熟語」と「二字熟語+α」のパターンがある。2.硬派式ほどではないものの、正統派な内容を読者は予感する。硬派式同様、造語を用いるのも手。4.四字熟語式も参照。

4.四字熟語式

「〈漢字四文字〉」
例:『封神演義』『暗夜行路』『人間失格』『人間椅子』『透明人間』『夜間飛行』『鋼鉄都市』『白昼堂々』『乳房喪失』『爆音列島』『銀河巡礼』『青空百景』『月面讃歌』『天体観測』『一騎千当』『風味絶佳』『群青日和』『閃光少女』『虐殺器官』『暗殺教室』『呪術廻戦』
※「春夏秋冬」「花鳥風月」などは相当数の先行例があるので勧めない。必ずしも既存の言葉でなくともよく、四字熟語風の造語を用いてもよい。16.ミスマッチ式も参照。

5.リフレイン式

「〈名詞A〉、〈名詞A〉」
「〈名詞B〉、〈名詞B〉、〈名詞B〉」

例:『さくらさくら』『虎よ、虎よ!』『子グマ! 子グマ!』『HUNTER×HUNTER』『ドライ ドライ アイス』『ダンス・ダンス・ダンス』『ハル、ハル、ハル』『ブルー、ブルー、ブルー』『子供たち怒る怒る怒る』
※1.シンプル式で駄目なら、二連発、三連発にしよう! というのは誰でも思いつくアイディアなので、めずらしい言葉を重ねたほうがいいかもしれない。14.ダブル並列式、15.トリプル並列式も参照。

6.修飾式

「〈修飾語〉+〈名詞〉」
例:『眺めのいい部屋』『悲しき玩具』『飛ぶ教室』『わるいやつら』『イージー★ライダー』『世界の中心で愛を叫んだけもの』『限りなく透明に近いブルー』『なぞの転校生』『時をかける少女』『エレキな春』『華々しき鼻血』『優雅に叱責する自転車』『鈴を産むひばり』『恋する凡人』
※名詞に修飾語を添えて趣を出す手法。13.直列式も参照。

7.冠式

「〈接頭語〉+〈名詞〉」
例:『大脱走』『大追跡』『新リア王』『新耳袋』『ネオ・東京ラプソディー』『贋作吾輩は猫である』
※名詞に接頭語をプラスすることにより、新鮮味を演出する手法。パロディやオマージュ作品の題名にも多い。「大~」「新~」「ネオ~」「続~」などは、よくあるパターン。

8.ブーツ式

「〈名詞〉+〈接尾語〉」
例:『夜明け前』『積木くずし』『警官嫌い』『ABC殺人事件』『占星術殺人事件』『アクロイド殺し』『騎士団長殺し』
※接尾語をプラスし複合名詞化する手法。1.シンプル式よりも他人とかぶりにくくなる。9.書名式、10.音楽用語式も参照。

9.書名式

「〈名詞〉+〈書名的接尾語〉」
例:『万葉集』『枕草子』『十六夜日記』『蜻蛉日記』『西遊記』『春琴抄』『火星年代記』『約翰傳僞書』『キテレツ大百科』『釣りバカ日誌』『幽☆遊☆白書』『夏目友人帳』『海街diary』『残月記』
※書籍に書籍らしい題名、あるいは書籍でない作品に書籍風の題名をつける手法。8.ブーツ式も参照。

10.音楽用語式

「〈名詞〉+〈音楽用語〉」
例:『東京ラプソディ』『蒲田行進曲』『コーヒールンバ』『赤色エレジー』『日本人霊歌』『玉蟲遁走曲』『菊帝悲歌』『ハイティーン・ブギ』『シャコタン★ブギ』『ろくでなしBLUES』『少年Aえれじぃ』『冬のソナタ』『のだめカンタービレ』『中国行きのスロウ・ボートRMX』
※手垢のついた手法。冠する名詞によっては面白くなるかもしれないが、あまり勧めない。16.ミスマッチ式、17.和洋折衷式も参照。

11.屋号式

「〈店名〉」
「〈業種〉+〈店名〉」
「〈店名〉+〈措辞〉」

例:『セレンディピティ』『バグダッドカフェ』『純喫茶トルンカ』『珈琲店タラーレンの事件簿』『カフェかもめ亭』『コンビニたそがれ堂』『地獄堂霊界通信』『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』『またたびトラベル』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『東京バンドワゴン』『つむじ風食堂の夜』『食堂かたつむり』『かもめ食堂』『路地裏のほたる食堂』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
※店名を掲げ、そこが物語のキープレイスであると知らせる手法。個人経営の飲食店・宿泊施設・古書店・古物商・雑貨店などが多い。

12.団体式

「〈名詞〉+〈団体の種類〉」
「〈団体の種類〉+〈名詞〉」

例:『赤毛連盟』『飢餓同盟』『いちご同盟』『すくらんぶる同盟』『夕凪UNION』『火曜クラブ』『室町少年倶楽部』『有閑俱楽部』『鉱石倶楽部』『反自殺クラブ』『包帯クラブ』『オーダーメイド殺人クラブ』『有言実行くらぶ』『柘榴姫社交倶楽部』『人間観察同好会』『少年探偵団』『こちらマガーク探偵団』『悪の秘密結社ネコ』
※殺害を実行したり自殺を企図したり自殺を阻止したりするクラブは、よくある発想である。意外性のあるクラブ、同盟、結社を発想しなければ、凡百の題名のなかに埋もれてしまう。

13.直列式

「〈名詞A〉の〈名詞B〉」
例:『蠅の王』『一握の砂』『山羊の歌』『侏儒の言葉』『犬神家の一族』『砂の器』『二十億光年の孤独』『異星の客』『ガラスの仮面』『となりのトトロ』『北斗の拳』『魔女の宅急便』『回転木馬のデッド・ヒート』『海辺のカフカ』『蝶々の纏足』『姑獲鳥の夏』『脱衣所のアリス』『パン屋のパンセ』『迷子のカピバラ』『八日目の蝉』『学校の青空』『人質の朗読会』『鳥の会議』
※名詞Bを名詞Aによって限定し、固有性を持たせる手法。俳句で「二物衝撃」という用語がある。1つひとつはなんでもないが、2つが並ぶことで相乗効果を生む取り合わせをいう。新鮮さ、意外性、可笑しみの生まれる二語を探すべし。16.ミスマッチ式も参照。

14.ダブル並列式

「〈名詞A〉と〈名詞B〉」
例:『老人と海』『罪と罰』『高慢と偏見』『月と六ペンス』『赤い蝋燭と人魚』『春と修羅』『夜と霧』『菊と刀』『血と麦』『海と毒薬』『花と蛇』『セーラー服と機関銃』『ハチミツとクローバー』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
※象徴的な2つの語彙を取り合わせる手法。比較的シリアスな作品が多い印象。同質の語彙を並べるか、異質な語彙を並べるかで印象は変わる。15.トリプル並列式も参照。

15.トリプル並列式

「〈名詞A〉と〈名詞B〉と〈名詞C〉」
例:『私と小鳥と鈴と』『狼森と笊森、盗森』『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』『部屋とYシャツと私』『ジョゼと虎と魚たち』『夏と花火と私の死体』『バカとテストと召喚獣』『赤と青とエスキース』『赤と白とロイヤルブルー』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
※14.ダブル並列式に比べ先行例が少なく、また3つの物を取り合わせるため、他人とかぶる確率が低い。三段オチ式に、3つめの名詞をアクセントにする場合が多い。

16.ミスマッチ式

「〈名詞A〉+〈名詞B〉」
例:『無声慟哭』『神聖喜劇』『苦海浄土』『花粉航海』『死亡遊戯』『いちご白書』『漂流教室』『シティーハンター』『成層圏紳士』『流星課長』『パン屋襲撃』『てのりくじら』『空耳飛行』『少女外道』『無銭優雅』『無罪世界』『世界音痴』『絶叫委員会』
※これも「二物衝撃」型。異質な単語同士を合体させ、その違和感と意外性で読者の気を惹く手法。助詞を用いないことで、13.直列式よりも異質感が強まる。

17.和洋折衷式

「〈カタカナ〉+〈漢字〉」
「〈漢字〉+〈カタカナ〉」

例:『サラダ記念日』『チョコレート革命』『インディゴ地平線』『ナンプラー日和』『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』『丸の内サディスティック』『三日月ロック』『流星ワゴン』『星空マウス』『有頂天ホテル』『弱虫ペダル』
※外来語カタカナと、漢字の熟語のタッグは、それだけで意外性が生まれやすい。「カタカナ+漢字」の組み合わせは俵万智式、「漢字+カタカナ」は椎名林檎式。

18.かばん語式

「〈名詞A〉×〈名詞B〉」
「〈名詞A〉×〈名詞B〉×〈名詞C〉」
例:『Maladolesenza』『魔物語』『泣きなが原』『ナニワトモアレ』『うる星やつら』『クビキリサイクル』『ジャム・ザ・ハウスネイル』『ラリルレ論』『ズートピア』
※2語、あるいは3語をかけあわせて、造語をつくる手法。かばん語(portmanteau)という用語は《鏡の国のアリス》の作中でルイス・キャロルが一連の造語を旅行かばんにたとえたことに由来。混成語、合成語ともいう。

19.地域限定式

「〈地名〉の〈名詞〉」
「〈地名〉+〈名詞〉」
「〈修飾語〉+〈地名〉」

例:『東海道中膝栗毛』『パリのアメリカ人』『伊豆の踊子』『ナルニア国物語』『D坂の殺人事件』『ローマの休日』『ウエストサイド物語』『伊勢佐木町ブルース』『東京砂漠』『風街ろまん』『湘南爆走族』『岸和田少年愚連隊』『イーハトーブ喪失』『大宮サンセット』『上海少年』『東亰異聞』『新宿鮫』『池袋ウエストゲートパーク』『アキハバラ@DEEP』『新宿スワン』『阪急電車』『鴨川食堂』『翔んで埼玉』『東京リベンジャーズ』
※実在の(もしくは架空の)地名を提示する手法。その土地の魅力をまとった作品だと読者に知らせることができる。誰もが知る地名を用いるほうが効果があがる。しかし「東京○○」は使い古された感がある。架空の地名の場合は、魅力的な響きのものを創造すること。

20.繋ぎ式

「〈接続詞〉」
「〈接続詞〉+〈措辞〉」
「〈措辞〉+〈接続詞〉+〈措辞〉」

例:『それから』『だがしかし』『だが、情熱はある』『されど遊星』『そして誰もいなくなった』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『海へ、そして土曜日』
※接続詞をそのまま用いるもの、または名詞や措辞に接続詞を添えて調子を整えるものがある。先行例が少ないので狙い目だ。

21.オーソドックス式

「〈終止形の肯定文〉」
例:『悪魔が来りて笛を吹く』『風と共に去りぬ』『日はまた昇る』『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』『鷹は舞い降りた』『煙が目にしみる』『神の子どもたちはみな踊る』『僕は悪党になりたい』『君の膵臓をたべたい』『桐島、部活やめるってよ』『この夏のこともどうせ忘れる』『大事なことほど小声でささやく』
※最もポピュラーな手法。個性的な題名を捻りだそうとするのはいいが、凝りすぎて滑ってしまうのは格好悪い。

22.当て字式

名詞(ふりがな)
例:『秋桜コスモス』『聖闘士星矢セイントセイヤ』『匂艶にじいろ THE NIGHT CLUB』『青年霊歌アドレッセンス・スピリッツ』『黄金の虎ゴールデン・タイガー
※漢字とかなが混在する日本語特有の手法。カタカナ語だけでは意味のわかりにくいものに漢字を当てる、または漢字だけではイメージが固くなってしまう場合にルビを添えるもの。トリッキーな当て字でインパクトを出す手もあるが、センスがない人はダサくなるのでやめておこう。

23.断定式

「〈AはBである〉」
例:『若死にするのは善人だけ』『月は無慈悲な夜の女王』『十月はたそがれの国』『天の光はすべて星』『奥さまは魔女』『肩胛骨は翼のなごり』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
※意外な内容を断定的にいうことで、読者の気を惹く手法。いわれてみるとなるほど、と納得させるほどの意外性が要求される。

24.仮定式

「もし~」
「~だったなら」
「~だとしたら」
「~だとしても」
「~ならば」

例:『もしもピアノが弾けたなら』『この空を飛べたなら』『やさしさに包まれたなら』『もし世界が100人の村だったら』『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
※If……の措辞を用いる手法。新書の題名にも多い。26.問題提起式も参照。

25.ひねくれ式

「〈否定文〉」
例:『海へ出るつもりじゃなかった』『大人は判ってくれない』『俺たちに明日はない』『俺たちには土曜しかない』『ぼくは勉強ができない』『天使なんかじゃない』『ブギーポップは笑わない』『岸辺露伴は動かない』『少女は卒業しない』『僕たちは歩かない』『月に吠えらんねえ』『薔薇色じゃない』『ミステリと言う勿れ』
※「見渡せば花も紅葉もなかりけり」の和歌のように、いったん何かを提示しておいてから、それを否定する手法である。「眠らない」「終わらない」等は月並みなので、それ以外の動詞を探すと意外性が出るかもしれない。

26.問題提起式

「〈疑問文〉」
例:『君たちはどう生きるか』『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『ベルカ、吠えないのか?』
※実用書の題名によく使われる手法。読者が惹きつけられるような謎を提示すること。

27.指令式

「〈命令文〉」
例:『光あるうちに光の中を歩め』『勝手にしやがれ』『明日に向かって撃て!』『ライ麦畑でつかまえて』『書を捨てよ、町へ出よう』『エースをねらえ!』『リングにかけろ』『風の歌を聴け』『フラッグを立てろ』『人のセックスを笑うな』
※魅力的な、また勢いのある命令形を考えよう。28.激励式、29.一喝式も参照。

28.激励式

「〈呼びかけ〉+〈命令文〉」
例:『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』『このページを読む者に永遠の呪いあれ』『新しい人よ眼ざめよ』『光車よ、まわれ!』
※クラーク博士の「少年よ、大志を抱け」と同じ形式である。27.指令式、29.一喝式も参照。

29.一喝式

「〈命令形〉+〈名詞)」
例:『走れメロス』『燃えよ剣』『燃えよドラゴン』『行け!稲中卓球部』『くたばれ!ハリウッド』『歩き出せ、クローバー』
※こちらは単純な命令形を用いる。27.指令式、28.激励式も参照。

30.挨拶式

「〈名詞〉+〈挨拶語〉」
「〈挨拶語〉+〈名詞〉」

例:『悲しみよこんにちは』『武器よさらば』『ようこそ地球さん』『さらばユニヴァース』『さらば、愛の言葉よ』『さよならドビュッシー』『さよならバグ・チルドレン』『バイバイ、ブラックバード』『ブラックジャックによろしく』
※出会いよりも別れのほうがドラマになりやすい。ゆえに題名も別れの挨拶が圧倒的に多い。「さよなら○○」という題名は手垢がついているので、避けることを勧める。それから、漫画やライトノベル関連の題名を検索すると、「○○へようこそ」式のものが腐るほどヒットするので、これも避けたほうが無難。

31.自己紹介式

「〈一人称〉+〈名乗り〉」
「〈固有名詞〉+〈助動詞〉」

例:『吾輩は猫である』『われ、ロボット』『わが名はコンラッド』『ひと呼んでミツコ』『白鳥麗子でございます!』『その女アレックス』
※おもに主人公の名前や属性を提示する手法。キャラ立ちする主人公の場合は名前、そうでない主人公の場合は属性を紹介することが多い。

32.メイン式

「〈主人公の名前〉」
例:『ハムレット』『白雪姫』『ピノッキオ』『モンテクリスト伯』『フランケンシュタイン』『オリバー・ツイスト』『アンナ・カレーニナ』『ジェーン・エア』『ターザン』『三四郎』『ロビンソン・クルーソー』『ブラック・ジャック』『モモ』『ダレン・シャン』『ロッキー』『インディー・ジョーンズ』『バキ』『NARUTO -ナルト-』
※シェークスピアの時代からの古典的手法。登場人物の誰に肩入れすればいいか読者がわかりやすい。主人公に雰囲気のある名前をつける必要がある。36.特徴式、37.肩書式、38.看板役者式も参照。

33.サブ式

「〈主人公の補佐役の名前〉」
例:『デミアン』『菜穂子』『あしながおじさん』『メリー・ポピンズ』『マグマ大使』『ハクション大魔王』『ドラえもん』『AKIRA』『E.T.』『TUGUMI』『犬夜叉』『もののけ姫』
※主人公に影響を与えつづける登場人物を、映画脚本用語で「インパクトキャラクター」という。その名前を題名に使う作品は、概して主人公の影が薄く、引立て役のようでさえある。主人公同様、雰囲気のある名前をつけるべし。35.デュオ式も参照。

34.ニックネーム式

「〈主人公の異名〉」
例:『ドン・キホーテ』『巌窟王』『蝶々夫人』『坊ちゃん』『スーパーマン』『ゴッドファーザー』『ドカベン』『Dr.スランプ』『暴れん坊将軍』『紅の豚』『ラストエンペラー』『ライオン・キング』
※必ずしも作中で呼ばれる名前でなくともよい。36.特徴式、37.肩書式も参照。

35.デュオ式

「〈主人公Aの名前〉と〈主人公Bの名前〉」
「〈主人公Aの属性〉と〈主人公Bの属性〉」

例:『ロミオとジュリエット』『サムソンとデリラ』『シグナルとシグナレス』『愛と誠』『美女と野獣』『北風と太陽』『王子と乞食』『うしおととら』『ルドルフとイッパイアッテナ』『テルマ&ルイーズ』『アナと雪の女王』『北斎と応為』『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』
※主人公格二人の名前や属性を並列する手法。恋愛物やバディ物に多い。33.サブ式も参照。

36.特徴式

「〈修飾語〉+〈主人公の名前〉」
「〈修飾語〉+〈主人公の属性〉」

例:『みにくいアヒルの子』『赤毛のアン』『鉄腕アトム』『リボンの騎士』『仮面ライダー』『はだしのゲン』『長くつ下のピッピ』『ダーティ・ハリー』
※主人公の特徴を一つだけ明かすことによって、読者の興味をそそる手法。34.ニックネーム式、37.肩書式も参照。

37.肩書式

「〈属性〉+〈固有名詞〉」
例:『セロ弾きのゴーシュ』『怪人二十面相』『鉄人28号』『サイボーグ009』『名犬ラッシー』『じゃりン子チエ』『オバケのQ太郎』『エスパー魔美』『天才バカボン』『魔法使いサリー』『刑事コロンボ』『3年B組金八先生』『課長島耕作』『サラリーマン金太郎』『天空の城ラピュタ』『少年アリス』『キャプテン翼』『美少女戦士セーラームーン』『カードキャプターさくら』『忍たま乱太郎』『るろうに剣心』『未来少年コナン』『名探偵コナン』
※その固有名詞に「肩書」を付すことで、あらかじめ物語の方向性を読者に提示する手法。漫画やアニメに多い印象。

38.看板役者式

「〈主人公の名前〉の〈名詞〉」
「〈主人公の名前〉と〈名詞〉」
「〈主人公の名前〉+〈述語〉」

例:『ハックルベリー・フィンの冒険』『シャーロック・ホームズの帰還』『ブラウン神父の不信』『亜愛一郎の狼狽』『涼宮ハルヒの憂鬱』『ジョジョの奇妙な冒険』『ハリー・ポッターと賢者の石』『ノンちゃん雲に乗る』『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』
※看板役者として主人公の名前を題名に入れる手法。その主人公を読者が気に入れば、続編も手に取ってもらえるだろう。

39.サイン式

「〈作者の名前〉の〈名詞〉」
例:『ムンクの叫び』『アンネの日記』『ゴダールのリア王』『ゴダール・ソシアリスム』『三島由紀夫レター教室』『手塚治虫のマンガの描き方』『荒木飛呂彦の漫画術』『美輪明宏のおしゃれ大図鑑』『草笛光子のクローゼット』
※作者の名前を掲げることで、固定ファンに訴える手法。巨匠と呼ばれる人でなければやってはいけない。

40.敬愛称式

「〈名詞〉+〈敬称・愛称〉」
例:『怪物くん』『世紀末くん!』『ミス・ブランニュー・デイ』『セプテンバーさん』『潮騒ちゃん』『生理ちゃん』『ヤンキー君とメガネちゃん』
※固有名詞ではないものに敬称や愛称をつけ、人名風にする手法。有名な先行例は少ない。

41.頭数式

「〈数〉人の〈名詞〉」
「〈名詞〉の〈数〉人」

例:『三銃士』『二十六人の男と一人の女』『十五少年漂流記』『隠し砦の三悪人』『七人の侍』『荒野の七人』『三匹が斬る!』『それいけズッコケ三人組』『4TEEN』『11人いる!』
※主要人物が何人なのか予告する手法。キリのいい三人組のパターンが多いようだ。

42.暦式

「〈年月日〉」
「〈年月日〉の〈名詞〉」
「〈年月日〉+〈措辞〉」
「〈修飾語〉+〈年月日〉」

例:『一九二八年三月十五日』『1984年』『2001年宇宙の旅』『万延元年のフットボール』『69sixty nine』『1973年のピンボール』『嘔吐1979』『トンガリ`95』『1987→』『十二月八日』『八月六日上々天気』
※とくに未来や過去を描いた作品に有効な題名。ただ、近未来をあつかったSF作品の場合は、いずれは題名が古くなる宿命にある。過去の出来事をあつかった歴史作品の場合は、原爆の日や終戦記念日など大きな転換点となった日付を用いることが多い。もちろん、ごく個人的な転換点でも構わない。

43.期間式

「〈期間〉の〈名詞〉」
「〈名詞〉の〈期間〉」

例:『百年の孤独』『ソドムの百二十日』『ぼくらの七日間戦争』『23分間の奇跡』『24 TWENTY FOUR』
※期間を提示することで、物語のボリュームを予告する手法。

44.期限式

「〈措辞〉まで」
例:『世界が海におおわれるまで』『日曜日のアイスが溶けるまで』『私が大好きな小説家を殺すまで』
※ある状況が変化したり、ある物事が遂行されるまでの漠然とした期限を提示し、物語のスケール感を伝える手法。

45.みなまで言うな式

「〈文末が助詞(を)〉」
例:『ティファニーで朝食を』『イエメンで鮭釣りを』『木曜日にはココアを』『われに五月を』『時には昔の話を』『アルジャーノンに花束を』『天使にラブソングを…』
※文末の省かれた動詞の予測がつく形式。46.以下略式、47.直喩式も参照。

46.以下略式

「〈文末が助詞(で、は、に)〉」
「〈文末が連用形〉」

例:『雨に唄えば』『春にして君を離れ』『今日から俺は‼』『その男、凶暴につき』『ラブ・ストーリーは突然に』『耳をすませば』『あらしのよるに』『光ってみえるもの、あれは』『猛スピードで母は』『彼女たちの場合は』『この海を越えれば、わたしは』
※文末の省かれた言葉に揺れのある形式。揺れ幅の大きいほうがより意味深く感じられる。かといって、続く言葉が全く予想できなくては無意味。45.みなまで言うな式、47.直喩式も参照。

47.直喩式

「〜のように」
「〜のごとく」

例:『時には母のない子のように』『川の流れのように』『白い雲のように』『わが生涯は火の如く』『阿修羅のごとく』『龍が如く』『ハヤテのごとく!!』『汝、星のごとく』
※物語を象徴する比喩を用いる手法。「〜ように」は穏やかな、「〜ごとく」は勢いあるイメージが多い。比喩がかかる語が略されるのは45.みなまで言うな式、46.以下略式に通じる。

48.地点指示式

「〈場所〉+〈助詞(で、に、には、にて)〉」
例:『桜の樹の下には』『城の崎にて』『トムは真夜中の庭で』『カッコーの巣の上で』『どこであれそれが見つかりそうな場所で』『この世界の片隅で』
※物語の舞台になる場所、あるいは物語の象徴の場所を提示する手法。

49.方向指示式

「〈場所〉+〈助詞〈より、から、へ、まで〉〉」
例:『新世界より』『北の国から』『仄暗い水の底から』『コクリコ坂から』『明るいほうへ』『網走まで』
※場所に方向性のある助詞をプラスすることによって、人物の動作・移動を感じさせる手法。続く動詞を省いてあるところは、46.以下略式に通じる。

50.ハウツー式

「~し方」
「~の方法」
「~法」

例:『たったひとつの冴えたやりかた』『空の飛び方』『やさしい竜の殺し方』『おいしいコーヒーのいれ方』『冴えない彼女の育てかた』『最高の人生の見つけ方』『金閣寺の燃やし方』『風の谷のあの人と結婚する方法』『逃亡作法』
※実用書の題名に多いのを逆手にとって、物語などに用いる例が増えてきた。月並みな措辞もこの形式にすると面白くなりやすいが、近ごろは乱用されがち。

51.略語式

「〈省略語〉」
例:『ラブ★コン』『バクマン。』『銀魂』『けいおん!』『らき☆すた』『アイカツ!』
※漫画やアニメ、ゲームに多い手法。縮めるときは語幹を残すのがコツ。語呂のいいものを考えよう。

52.暗号式

「〈英数字〉」
例:『8823』『YM71D』『05410-(ん)』『37458』『1-800-273-8255』『5A73』
※暗号風の英数の題名。意味がわからないと読者は覚えづらいので、表題にするのは勧めない。

53.オノマトペ式

「〈擬音擬態語〉」
例:『トカトントン』『どですかでん』『クロパン、クロパン』『フルー・フルー』『青春デンデケデケデケ』『ゲロッパ!』『クチュクチュバーン』『キラキラ』『ガガガガ』『デュラララ‼』『てんとろり』
※擬音語、擬態語を総括してオノマトペという。オノマトペ式の題名はそれだけで謎を呼ぶので、読者への惹きになりやすい。考えるな、感じろ。

54.本歌取り式

「〈有名語句のもじり〉」
例:『注文の多い恋人よ』『一千一秒物語』『昨晩お会いしましょう』『サーキットの娘』『海のYeah!!』『気楽に殺ろうよ』『文学処女』
※短歌の技法に「本歌取り」がある。ある歌の語句・発想・趣向を真似ることで、その歌を新しい歌にダブらせる高度な技だ。一歩まちがうと盗作と謗られかねない。ことわざや、有名作品の題名を一部変えたものは、読者からすると新鮮味がなく、センスのない作家と思われるリスクが高い。「コロンブスの卵」的に、誰も思いつかないもじり方をしなくてはならない。しかし、パロディの題名で大ヒットした例は決して多くない。

次、13.題名ヒント集

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