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【SS】外野の僕も残念です

 天井高くに掲げられているマリングッズを見上げる。サーフボード、サーフボード、サーフボード、ゴムボート……。
 どこもかしこも天井近くに商品が積み上げられているが、これだけ大きいと、やはりどの商品よりも目を引く。
「これさあ、買う人いんのかなあ?」
 姉がサーフボードを見上げて言う。
「さあ……。いるんじゃないの? 今年も置いてあるんだし」
「でもさあ、今年もどうせ遊べないでしょ」
「ああ、確かに……」
 姉との何気ない会話で、ふと昨日SNSで見かけたニュースを思い出した。

―隅田川花火大会、2年連続中止―

 仕方がないこととはいえ、ネット上には残念がる声で溢れていた。自分もその一人だ。
 ガチガチのインドアで、花火は家族で出掛けたテーマパークでしか見たことがないというのにだ。
 もし開催が決定したとしても、僕は花火大会に出掛けないだろう。
 開催しようがしまいが、どちらでも僕には何も関係がないはずなのに、どうしてこうも残念な気持ちになってしまうのだろう。

 もしかしたら僕は、自分が思っている以上に四季のイベントを楽しんでいるのだろうか。参加することはなくても、テレビなりネットなりで風流を感じていたのかもしれない。

 そう思うと、自分の頭上にあるマリングッズが急に寂しく思えてきた。今年も出番があるか分からず、ほとんどインテリアと化しているコイツらは、本来のホームである海を見ることなく、倉庫に押し込まれてしまうのだろうか。

「何ボーッとしてんの? 水買うから持ってきて!」
 姉の声で現実に引き戻される。
「はーい」
 もう一度頭上を見上げる。蛍光灯の光が、むなしくサーフボードに反射していた。

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