【SS】雨に打たれる勇者と罪人

少年が長靴で水溜まりに飛び込む。無邪気なものだとその光景を見て和む。それも束の間、少年は母親にこっぴどく怒られた。どうやら泥水がスカートに跳ねたらしい。

自分はといえば、水を含んでどんどん重くなっていくスニーカーに気分が沈んでいくばかりだった。靴にこだわりがないのが仇となった。自分が持つ靴は出勤用の革靴と、今履いているこのスニーカーしかない。

自分にもあんな時期があったなあ。雨を純粋に楽しんでたのはどれ程前だったっけ?

怒られてもなお、少年は果敢に水溜まりに入っていく。母親は呆れているが、もう怒ろうとはしていなかった。

あの少年には水溜まりがどんな風に見えているのだろう? 水溜まりの中に何かスイッチがあるのだろうか。それとも道にある水溜まりを全て踏まないと、もしかしたら少年はサンショウウオになってしまうのかもしれない。

そうか、俺は水溜まりを全て踏まなかったから足枷を付けられたんだな。罪に対してなんて重い刑なんだ。

馬鹿なことを考えていたら小さな笑いが込み上げてきた。
傘を打つ雨の音が心地良い。

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