もういない君と話したかった7つのこと #45
文庫版のためのあとがき
この本が書かれたのは二〇一四年、いまから五年前のことです。
当時に比べて統計的に自殺者は減ったにせよ、ぼくの周りの人々の生きづらさは相変わらずです。
読み返すと「なんか気楽な話をしているなあ」と思う部分もありますが、それは時代というよりも、ぼくが当時より年齢を重ねたことが大きいと思います。
結婚出産引っ越し、はたから見るとぼくの人生は前進していることでしょうが、そのぶん日本という国の嫌な部分を見ることも多くて、相変わらず未来にまったく希望を持てません。最近は「人生一〇〇年時代」なんて言われていますが、はっきり言って地獄です。何の罰ゲームなのかと思います。むしろ、一〇〇年生きるよりも「楽に死なせろ!」ということばかりを考えています。
むしろ今のぼくのほうが、当時のKと近い立場で話せるかも知れないとすら思います。
今も、いろいろな問題について、「Kだったらなんて言うかなあ」とふと考えることも多いですが、返ってくるのは最終的に「どうでもいいよ」という投げやりな言葉です。
確かにもう死んでいるKにとっては、すべてがどうでもいいことでしょう。
でも、この言葉に案外ほっとしている自分がいます。
死んでしまえばすべてはどうでもいいことなんだから、まあちょっとは生きてみるか──明日世界が滅びるかも知れないし。
などという、消極的な方向で日々を過ごしています。
今年はKが死んでちょうど十年目でした。
彼の命日に、友人と電車に乗ってお墓参りに行ってきました。
長崎の小さな駅で降りると、あたりは再開発でがらりと姿を変えており、以前の旧駅舎の趣が失われ、無個性な駅になっていました。
ぼくらは雨を避けながらタクシーに乗り、霊園に向かいました。途中、墓参りの道具を持ってきていないことに気づいて、運転手さんに呆れられながら自宅のお線香をいただくという失敗もありましたが、無事お参りを終えました。
その日は夜まで一日中どんより曇っていて、彼の墓参りにふさわしいといえばふさわしい日でした。
そういえばこの本を読んだ人、何人かから直筆の手紙をいただきました。
ほとんどは生きることに悩んでいる人でした。初めてのことで驚きつつ、ぼくも手紙を返しました。あれからあなたたちはどうしているのでしょう。
すこしでも楽に生きられてるといいなと願っています。
でも、楽にならなかったとしても大丈夫です。
安心してください。ぼくも相変わらず同じような気分で生きています。
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参考文献
『自殺危機にある人への初期介入の実際』(福島喜代子、明石書店)
「WHO 自殺予防 メディア関係者のための手引き」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/who_tebiki.html)
『悪霊』(ドストエフスキー著、江川卓訳、新潮文庫)
『カント全集 第9巻「宗教論」』(カント著、飯島宗享・宇都宮芳明訳、理想社)
『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(前野隆司、講談社)
『幸せのメカニズム』(前野隆司、講談社現代新書)
『自死という生き方』(須原一秀、双葉新書)
『ロストハウス』(大島弓子、白泉社文庫)
『草枕』(夏目漱石、新潮文庫)
『サルの檻、ヒトの檻』(西江雅之・吉行淳之介、朝日出版社)
『オーディエンス・マネジメント』(ゲイ・ユンバーグ著、米津健一訳、滝沢敦監修、スクリプト・マヌーヴァ)
『「遊ぶ」が勝ち』(為末大、中公新書ラクレ)
『これからの「正義」の話をしよう』(マイケル・サンデル著、鬼澤忍訳、早川書房)
『自由論』(J・S・ミル著、塩尻公明・木村健康訳、岩波文庫)
『自殺について』(ショウペンハウエル著、斎藤信治訳、岩波文庫)
『自殺論』(デュルケーム著、宮島喬訳、中公文庫)
『それでも人生にイエスと言う』(V・E・フランクル著、山田邦男・松田美佳訳、春秋社)
『選択の科学』(シーナ・アイエンガー著、櫻井祐子訳、文藝春秋)
『もう一つの審判』(エリアス・カネッティ著、小松太郎・竹内豊治訳、法政大学出版局)
『絶望名人 カフカの人生論』(フランツ・カフカ著、頭木弘樹編訳、飛鳥新社)
『ホモ・ルーデンス』(ホイジンガ著、高橋英夫訳、中公文庫)
『虚数の情緒』(吉田武、東海大学出版会)
『代替医療のトリック』(サイモン・シン、エツァート・エルンスト著、青木薫訳、新潮社)
『新興宗教オモイデ教』(大槻ケンヂ、角川文庫)
『長いお別れ』(レイモンド・チャンドラー著、清水俊二訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
『スティル・ライフ』(池澤夏樹、中公文庫)
本書は、二〇一四年二月に大和書房より刊行された単行本『頑張って生きるのが嫌な人のための本 ゆるく自由に生きるレッスン』を、改題・加筆修正のうえ、文庫化したものです。
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