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もういない君と話したかった7つのこと #33

あり得ないことを真面目に語るおかしさ

 その宗教の修行っていうのは、そこで暮らして朝昼晩にお経を読むんですが、夜は近所の檀家が集まって、みんなでお経を読む。そうすると、檀家の1人が、トランス状態になるんです。揺れ始めたりして、飛び跳ねたりするんですよ。
 お祈りが終わってから、「今日は何が見えましたか?」と聞くと「今日、こういうものが見えました」とか答えるわけです。
 たとえば、「近所に神社があって、そこの神社の人が来ました」とか言うんですよ。
「そういえば、あの人、最近見ないね」と言っていたら、そのとき、電話がかかってきて、「その人、今、死んだって」ということもありました。
 侮れないんですよ、本当に。今考えると怖いんですけど、当時の僕は「まぁあるよな」みたいな世界観なわけです。

 ある日、その教祖の人と意見が分かれたんですよ。
「アトランティスって、どう思いますか?」って聞いたら、「まぁ、アトランティスとムー大陸は同じものなんだよ」って言ったんです。
 僕の知っている知識では、全然違う。
「ちょっと待ってください。僕が知る限り、アトランティスっていうのは、プラトンの『ティマイオス』と『クリティアス』っていう本に出てくるものであって、ムーは、全く違うものなんです。場所も違うはずなんです」とまくし立てた。
 それで向こうが、「まずい」みたいな顔をした。
 そこで、僕は、「こいつは偽者だ」と悟ったんです。

 でも、冷静に考えて、これってものすごくおかしな話ですよね。「そもそも、そんな大陸、存在しないから」という話なのに、妙に真面目に語っている。
 結局、僕が信じている「理屈」のほうが強かったということです。だって、僕が向こうを本当に信じていたら、向こうが言っていることが矛盾していようがなんだろうが、納得するはずだから。
 だけど、僕はそのときに全く納得できなかったので、その宗教から離脱しました。
 結局、「信じる」って、そういうことなんです。
 僕自身では、どうしようもないし、わからないんですよ。「なんで信じているのか?」なんて、だれも自分で説明できないんです。おかしいじゃないですか。アトランティスとかムーとか。
 でも僕は自分の知識のほうを信じていて、そういうときに、それを突き崩すことは難しいんです。信じるというのは、そういうどうしようもないところがある。
 ある意味で、完全にその人の世界観や自由を規定している恐ろしいものなんです。









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