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ケモノの医者の体験談 Vol.14 就活秘話 子供を預ける【ファミサポ編】

Y病院をやめたあと、隣駅の女性獣医師が院長であるA動物病院の募集を見つけて面接に行きました。

A動物病院には代診のM先生とH先生、看護師兼トリマーさんが4~5名くらいいて、すべて女性の職場でした。

A院長は50代でご主人はお亡くなりになっていて、20代の娘さん1人と息子さん2人がいました。娘さんはアメリカでお仕事をしていて、長男さんはアメリカの高校・大学を出て日本の獣医大に編入、次男さんは日本の文系の私立大を卒業してから獣医大を目指して受験しているところで、なんとも優秀なご家族でした。

3人のお子さんを育て上げたA院長が、面接のときに言いました。

子育ては子供を産んだ親なら当たり前のこと、働きながら子育てや家事をすることは偉いことでもなんでもない、保育園に子供を預けたりして仕事に行かなければならないことを「子供を犠牲にした」と思わないこと。

さらに、

子供は親の背中をみて育つのだから、この仕事をして自慢のお母さんになりなさい。お金持ちになりたいとかどんな理由でもいいから、働くことの意味を自分で認識して誇りを持ちなさい。それが自然に子供にも伝わるから。

私はこの時、目からウロコというか雷に打たれたようなというか、とにかく衝撃を受けました。

私は今まで獣医師として胸を張って働くための努力をしていただろうか?
子供に我慢をさせている後ろめたさがあるなら、それを打ち消すぐらい仕事にまい進すればよいのに、むしろ子供を理由に仕事も中途半端ではなかったか。

自分は仕事も子育ても家事もやっているぞ!といつか言ってやりたい。

そしてA院長に、使える制度はできるだけ使いなさいということも言われました。実はこれがとても大きなことでした。

何のために働いているのか

国家資格がもったいない、学費を出してくれた親に申し訳ない、最初はそんな理由でしたが、やはりこの仕事が好きでやりがいを感じ、子供に自分の姿を見せたい、カッコイイと思ってもらいたいと思いながら働く方が、ものすごく気が楽だしやる気がでます。

そしてそれは本当に自分が望んでいたもののような気がしました。

働くことを誰かに強いられたわけでもなく、夫の給料だけでやろうと思えば生活できないことはないのに、それでもあえて働きたかったのは子供のころから獣医になりたくて、獣医の仕事がカッコイイと思っていたからです。

そしてカッコイイ獣医師になって働いて、お金をちゃんと稼ぐことができたら、子供に好きなものも買ってあげられるし、子供を喜ばせることもできる。

自信をもって働いていたら、ご褒美に自分が欲しいものを買ったり食べたいものを食べることも、後ろめたくなくなるだろうと思いました。

お金が欲しいと思うことは恥ずかしいことではないんだ!

後ろめたかったのは、保育園に預けているくせに自分が中途半端で、たいして技術も経験も身につかず、カッコイイ獣医師にもなれず、お金も稼げなかったことだと気づきました。

A院長は「子供は親が忙しいほうがたくましく育つのよ、犠牲にしてるとか可哀想とかそんな感情はいらない、親と離れているほうが立派に育つものよ」とも言いました。

そして育児ばかりよりも実は子供と丁度良い距離感を保ち、かえって健全な子育てにもつながるとも。

私はもうA院長の信者になりました(笑)

使える制度は使う

さてA院長の「使える制度は使いなさい」という提案で、私にとって大きな力となったのがファミリーサポートセンターの利用でした。

それまでは自分で調べたりすることもなかったので全く知りませんでしたが、地域で子供の一時預かりをしてくれるファミリーサポートという制度があることをA院長に教えてもらいました。

他人に子供を預けることは、最初はハードルが高く勇気が必要ですが、ファミリーサポートセンターでは事前に先方と顔合わせをしてどうするか決めることができます。

働いているかどうかにかかわらず、例えば美容院や自分の病院に行きたいというような、ちょっとした一時預かりにも対応してくれます。

私の場合は保育園の迎えをしてもらい、私の仕事が終わって帰ってくるまで預かってもらうために利用しようと思いました。

料金は1時間単位で計算され、500円とか決められた費用を支払えば子供に食事をさせてくれることもあります。

自分の母親の年代くらいの子育ての先輩方が見てくれることが多く、中には無料で親(私)にもごちそうしてくれたり、夏は夕方でも暑いので、外にビニルプールを作って遊ばせてくれていたりなど、ついつい色々やってしまう…というような有難い方もいらっしゃいました。

20年くらい前の時代のことですので、トラブルのもとにならないよう今はご好意で何かしてくれることは少なくなっている(もしくは禁止されている)かもしれません。

分刻みの生活

A動物病院は日祝祭日が休診日で、診療時間は午前9時から19時(12時~16時はオペ時間&昼休み)でした。

保育園の保育時間が最大19時30分までだったので、まず平日は次女の保育園のお迎えをファミサポさんに頼むことにして、仕事が終わると自分で長女を迎えに行き、その足で次女をファミサポさんの家に迎えに行くことにしました。

A動物病院から長女の保育園に迎えに行くためには19時30分を過ぎるわけにはいかなかったので、タイムイズマネーと思い人生で初めて原チャリを中古で購入しました。

Yahoo!オークションで購入しましたがオークション利用も初めてなのでなんだかドキドキしました。

朝は私が車で少し離れた保育園に通う長女を、次女は夫が自宅近くの保育園に連れて行きました。

私は長女を預けたあと自宅に戻り原チャリに乗り換えてA動物病院へ。

夜は原チャリで自宅へ戻り、車で長女をピックアップしてからファミサポさんのご自宅へ次女をお迎えに走っていました。

そして金曜日の夜か土曜日の朝には娘2人を実家へ。仕事が終わると自分も一緒に泊って、日曜日には両親に美味しいものを食べさせてもらったり、公園に遊びに行ったりして家に帰る、そんな生活が2年くらい続きました。

とにかくもう朝から晩まで1分1秒を計算してスケジュールを立てていました。

A動物病院で学んだこと

2年ほどA動物病院で働いている間に、自分がメインで診察や手術をしたり、スタッフや飼い主さんから頼ってもらえるようになりました。責任感も沸いて仕事が楽しくなりました。

責任感を得られるともうちょっとできるようにならなきゃと、ちょこちょこ空き時間を使って勉強したりもするようになりました。

また、お昼休みにオペや検査がない日はいったん自宅に帰ることができ、夕飯の用意や洗濯などができるのもありがたかったです。時々悠々自適にお昼寝もしてました(笑)

仕事が楽しくなると忙しくても心地よい疲労感で、休みの日にぐったりというより、せっかくの休みだから何かしようという気持ちにもなりました。

Y動物病院で働いていた時にはしょっちゅう発熱で保育園から呼ばれていましたが、A先生に早め早めの対処についてアドバイスをもらったので、自然に「予防」という考え方が身に付きました。

子供を親の都合で連れ出して疲れさせ過ぎないことや、夜更かしをさせないこと。特に夫は夜中までゲームをしていて灯りを煌々とつけているので、子供は眼が冴えてしまいなかなか寝られない。

なのでできるだけ自分が寝る時間でなくても寝室で子供が寝付くまで一緒にいるようにしました。そりゃ親が起きて何かしていたら興味津々で子供も寝られないものです。

そして自分の体調管理においても、早めの対処をするようになりました。異変を感じたらすぐに寝る、生姜や野菜たっぷりの体が温まるスープを作ったり、普段から不摂生をしないようにしたり。背中がゾクゾクした時には肩甲骨の間にカイロを貼るといいよとA先生に言われて、未だにずっと実践しています。

風邪の引き始めに自ら先に体温を上げてしまうことで先手を打つことができるんだそうです。確かにこれでほとんど次の日には元通りで、きっと何度も風邪を回避してきたような気がします。

健康面も精神面も、親に余裕ができると子供も安定するようで、徐々に成長して強くなったこともあるとは思いますが、保育園からの呼び出しはほとんどなくなりました。

門出

A動物病院は私のように訳ありの獣医師をかき集めていた感じで、先輩のM先生もH先生もそれぞれフルタイムで働くことが難しかったり事情を抱えていました。

なので我々のお給料は高くありませんでしたが、働ける喜び、学べる喜び、家庭と仕事の日々のメリハリも感じることができたので、とても良い経験をさせてもらったと思います。

そういった雇用背景から、暗黙の了解というか新人が入ると誰か一人が卒業するようなシステムで、私が入った時にH先生が退職しました。

その後はM先生が退職し、2年ほどたったころ新たに訳ありの先生が入ってくることになったことで私も退職することになりました。

H先生もM先生も開業のための退職でしたが、私はまだまだ技術も資金もなかったため、その頃たまたまY動物病院の仲間の集まりに呼んでいただいたときにY院長の友人のT動物病院の院長からお声がけをいただき、日曜休みを条件とさせていただいて雇用してもらうことになりました。

卒後すぐ出産で普通には働けず、1年半後になんとかパートの代診となり、4年目にしてようやく正社員として働き始めることになるのです。

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