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鳥になって

 寒空を鳥が飛んで行く。
 私はそれを病室の窓から見送る。ふと街並みを見下ろすと、ランドセルを背負った少年が道を駆けて行った。
 「私もあんな風に、空を大地を翔けていきたい」
 振り返る。何もない、誰もいない狭い病室。きっと春にはここを抜け出せる。そしたら、
 「あと少ししたらなれるかな。」
 声を出しても返事はない。彼に会えていないのに。

 私に家族はいない。もうとうの昔に死別した。それからはずっと一人だった。そんな私に会いに来てくれる彼がいた。お付き合いはしていない、ただの友達として。ずっと一緒にいれたらと思う。

 けど、私の余命はあと少し、春は迎えられないと告げられた。だからこの思いを言うことも、残すつもりもない。むやみに彼を苦しめることはしたくない。最近は彼の仕事が忙しいようで、めっきり会えなくなった。私の病気を彼は知らない。治らないことも、余命も。

 ノートを手に取った。入院してからずっと付け続けている日記。今日も思ったことを記していく。最近は絵も描くようになって鮮やかになってきた。
 満開の桜が咲く街並み。この先、私が見ることが出来ない景色。きっと彼は見れるんだろうな。今日、駆けて行ったあの少年も。
 そこに鳥を描き足していく。高く、遠く、どこまでも征けるように。

 数週間後、今日も日記を記す。


 最近は立つこともできなくなった。窓の外に鳥が舞っていた。
まるで私を連れ去ろうとしているかのよう。着々とその日が近づいている。
叶うなら、最期に彼に会いたい。





 春、彼は彼女が残した日記を開く。そこに彼女が秘めた思いは一つだけ。ページをめくる度、次第に咲き始める桜。青空を鳥が飛び立っていった。