見出し画像

故郷に関する150個のイメージ【エッセイ】

『スローなブギにしてくれ』などのヒット曲で知られている南佳孝は、シティ・ポップというミュージックのジャンルで一時代を築いたシンガーであり、ソングライターである。

(私は南佳孝のファンで、最初に買ったCDも彼の作品だった。そのことはいずれエッセイとして別の記事にしようと思っている)

 その南佳孝が1989年に発表したアルバム『東京物語』のCDケースに付属しているブックレットには、本作のコンセプトから発想したと思われる、ユニークな「おまけ」が記載されている。南佳孝本人による「Tokyo」から得たイメージの連想が、150個ほど列挙されているのだ。

銀座の柳/23区/首都高速/品川ナンバー/都電(ちんちん電車)/トロリーバス/03/歩行者天国/東京タワー/東京ベイエリア/埋立地/夢の島/京浜工業地帯/羽田空港/モノレール/後楽園球場/武道館/皇居/第三京浜/代々木公園/渋谷のジャズ喫茶/花屋敷/浅草観音/路地裏/富士見坂/地下鉄銀座線/アスファルトの校庭/お昼ののど自慢/両国の花火大会/上野の桜見物/核家族/白い1LDK/カプセルホテル……

という具合に。

 私はそれを読んで、150個のイメージから、一人のアーティストの身体を通して起ち上がる「東京」という都市の姿と、その表現の仕方に、ある種の感銘を受けたのである。

 私はこの南佳孝の「150imaged」を真似してみたくなった。自分が現在住んでいる生まれ故郷を題材に、150個ほどの連想を記述しようと考えたのである。そして、私はそれを初めて自分で作成したホームページに、ひとつのコンテンツとしてアップしたのだった。1999年のことである。

 今回はその当時作成した幻のコンテンツ、「私の故郷に関する150個のイメージ」を投稿しようと思う。

(実を言えば、今書いている「婚活小説」がなかなか捗らないので、何か記事をあげようと思って古いUSBメモリの中から発掘してきたのだ)

 私はこのnoteで、プロフィール記事やエッセイなどに、自らの出身地を仄めかしてはいるが、はっきりと実名で書いたことはない。東北の日本海に面したY県T市……。その気になって調べればすぐに判明することなのに、それでも明記することを避けていたのは、なんとなくだが、地名の検索で安易にヒットされたくない、というせこい気持ちがあるからだ。(どういう心理なのか自分でもわからない)

 もちろん、故郷は好きである。風光明媚で地産の食べ物が美味しい。興味深い伝統文化、歴史ある観光地を有している。芥川賞作家、直木賞作家も輩出している。私はそんな故郷を持つことができて幸せに思う。

 ずいぶん昔の「中央公論」で、司馬遼太郎が、山形の庄内地方や東北の日本海側の一部地域の方言には、上方言葉の影響が残っている、と話していたのを覚えている。私はその部分を読んでひどく驚いたのだが、たしかに自分が使っている方言や、祖父母が使っていた昔ながらの言葉には、関西で使われている言葉が存在しているように思う。例えばお金のことを「銭(ぜに)」と呼んだり、年齢を尋ねるときに「歳は、なんぼ?」などと言ったりする。これは、江戸時代に北前船でやって来た堺の商人と、日本海に港がある地域とで交流があったからだ、という説を裏付けるものではないだろうか。

 話がそれてしまった。私が捻り出した「故郷に関する150個のイメージ」には、地元民でなければ理解できないような、ローカルな施設や店名などが出てくる。また、作ったのが1999年なので、二十年前の世相が反映している部分もある。興味のないことを読ませてしまうようで申し訳ないが、もし、このあとの150個のイメージの列挙に付き合って頂けるなら、そこから浮かび上がる一地方都市の姿が、読んで下さった方にとって何かしら有意義な発見に繋がってくれることを、私は願うばかりだ。(150個も連想するのは、結構きつかった思い出……)


Syounai-150imaged/by Umigamewan

焚き火をしている川原
田んぼを渡る犬
国道112号線
牛の背中のような月山がっさん
金峰山きんぼうざんの中の宮
民田みんでん茄子
菜の花畑
鶴岡公園外堀
明治大正の建築様式
閑散としている銀座通り
工事中の川端通り
二次会のカラオケボックス
スナック〈ドン・コルレオーネ〉
とら吉の支那そば
喫茶もくもく
とのじまドライブイン
青空の下の母狩山
米の粉の滝は砂糖みたいだ
ソフトクリームが食べたくなる
大日坊だいにちぼうの祈祷

月山ダムの噴水
湯殿山ゆどのさんスキー場
ロッジのもつ煮
雪道を照らすフォグランプ
紅葉の月山新道
真夜中の道路を横切るイタチ
タヌキを目撃する幸運
松山の眺海の森
最上川
山居さんきょ倉庫
おしん
酒田港
かすんで見える飛島とびしま
潮の香りの7号線
十二滝じゅうにたき
あぽん西浜にしはま
平日の晴れた午前中の湯野浜
テトラポッドにぶつかる波の音
土門拳記念館
善法寺の石段の杉の木
貝喰かいばみの池に棲む亀
松尾芭蕉
雨の日の羽黒の五重塔
山伏の白装束
いでは文化記念館
庄内ナンバー
巨大な鳥居
庄内空港
浜中のラブホテル通り
高舘山たかだてやまの展望台
加茂坂トンネル
主婦の店
黒川橋の芋煮会
赤川の花火大会
昭和通りの花笠祭り
ハローワーク鶴岡
パチンコの話題
最初に歌う人を待っているスナックのカラオケ
白山しらやまだだちゃ豆
階段のきつい白山はくさん神社
庄内弁
姐さんかぶり
絣のもんぺ
仙台で買い物をしてきた少女たち
高速バス
特急「いなほ」
市立図書館の園児の嬌声
鳥おどしの空砲
庄内柿
はえぬき・どまんなか
素手で捕まえる虹鱒
堆肥に棲むカブトムシ
家の中に入ってくる蛇
吟醸酒\大山《おおやま》
0235
黒鯛釣り
波の花
夜の海に停泊するロシア船
文化会館のビニールシートカバー
出席者多数の結婚披露宴
地吹雪
俵雪
電線から落下する細長い積雪
かんじき
雪にはまった車を助ける協力性
寒さで赤くなる女子高生の生足
林檎のようなほっぺは今じゃ貴重だ
平日の午前中から温泉につかる
炭焼き小屋跡
蝋のように凍りつく窓
外套の雪の匂い
屋根の雪下ろし体験ツアー
多層民家
納豆汁
どんがら汁
除雪車
消雪道路
ストーブで温める牛乳
姿の見えない雲雀のさえずり
草原を跳ねるバッタたち
アスファルトに這い出してくる雨蛙
ヤモリの赤い腹を見ると雨が降る迷信
方言と標準語を使い分けるコギャル
リヤカーを引く行商人
ピヨ卵ワイド
さくらんぼテレビ
武田商店
スワンパーク
致道館
海坂藩うなさかはんの面影
おおばこ
群生するつくし
ばんけ
小川のせせらぎ
不景気の話題
地元志向と上京願望
村社会的閉鎖性
変貌する若者ファッション
縮小する都会とのギャップ
野暮な誠実
木村屋の古鏡
清川屋
MARICA
雪の降る町を…
997
軽トラック
高級車を持つステイタス
音楽と書籍のソフト不足
連休前に散る桜
化け物祭り
振舞酒
劇団いでは
共稼ぎ夫婦
深刻な嫁不足
歓迎される婿養子
冬の雷
金太郎寿司
視聴覚センターのプラネタリウム
出羽庄内国際村
昭和通りの酔客
代行サービス
最上川船下り
給食発祥の地
十六羅漢
人面魚
浮遊する蛍
おいしい空気
月山夏スキー
こばえちゃ庄内


[脚注及び解説]

はえぬき・どまんなか:お米の銘柄
0235:市外局番
どんがら汁:鱈を使った郷土料理
木村屋の古鏡:固めた粒餡に餅を入れた銘菓
997:郵便番号の最初の三桁
ばんけ:庄内弁で「蕗の薹」のこと
こばえちゃ庄内:庄内弁で「おいでよ庄内」という意味のキャッチコピー

この記事が参加している募集

はじめてのインターネット

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?