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日本版ビートルズ? - マンガ版「「たま」という船に乗っていた-さよなら人類編」

「『たま』という船に乗っていた」
というのは、たま(バンド)のメンバー(というかリーダー)の石川浩司が書いた、たまの伝記である。結成してから解散までを書く。

文体はふざけた感じで書いている(倉田英之系?)のだが、バンドの裏側を見れてなかなか面白い。
中でも柳原幼一郎が抜けて3人になったあと、最後に知久寿焼が「辞めます」といって解散した部分はかなりグッとくるものがあった。
ただ一般受けしなかったのか、速攻で絶版になってしまったようだ(私も中古で買って読んだ)。

今回、たまたま「たま」を聴き直していて、
やはりたまたま年末恒例の「このマンガがすごい!」を読んでたら、
オトコ編第23位にランクインしていて、
あ、マンガ化されてたんだと思って、即購入した次第である。

「あとがき」で書かれている通り、原作が書かれたのは2004年、
それから17年経った2021年にマンガ化された(単行本は今年2022年)という、
今さら一体こりゃどういうことなんだ!?と心の中で叫んだ。
2巻に収録されるであろう、本コミカライズの経緯をぜひ知りたいところである。

「たま」というバンドが結成されたのは1984年、
解散はなんと2003年。
パッと出てすぐに消えたバンドかと思ってたら、意外と長くやってたのである(失礼)。

しかし中心ボーカルであった(というか「さよなら人類」の印象が強すぎる。実際には4人ともボーカルなのだ)柳原幼一郎が脱退したことによって、私の中でのたまの魅力がガクンと下がってしまったため、それ以来はほとんど聴くことがなかった。

私が最初にたまの音楽に触れたのは、やはりデビュー曲「さよなら人類」だろうか。
確かテレビの音楽番組か何かで見たと思うのだが、当時聴いてた多くの人たちと同じように、サビでやられてしまった。

今日人類が初めて 木星についたよ

このフレーズは天才的であると思う。

パーカッションでリーダーの石川浩司(最初はイガグリボーズにランニングのこの人がリーダーだなんて思いもよらなかった!)が「芸能山城組」(アニメAKIRAの音響担当)に一年だけ所属していてタイコを習ってたというのはシビれる。
この辺りも原作に載ってたはずだが忘れていた(演劇の脚本演出家「ナイロン100℃)のケラリーノ・サンドロヴィッチ(紫綬褒章まで獲ってる!)が重要な役割として登場するのも忘れていた)

「たま」は日本版ビートルズ(和製ビートルズ)である、
と誰かが言っていた(音楽雑誌か何かに載っていた)
それはまあ誉め過ぎだとは思うが、
特徴のありすぎるバンドなのは間違いない。

「ビートルズ」は、イギリスのリヴァプールにあるキャバーン・クラブでライブをしながらメジャーになっていった、
「たま」は、両国にあるライブハウス、フォークロアセンターで徐々にメンバーが集まっていった。
また、「ビートルズ」のジョンとポールではないが、
「たま」の柳原と知久のコーラスのハモリもすごく心地良い。
その辺りが似てると思った。
追加すると本作によると、ギター2、ベース1、ドラム1という編成で4人とも曲が書けるところもそう呼ばれた一因らしい。

「たま」の音楽を一言で言うと「日本ロック」だと思う。
「日本語ロック」と言えば、大瀧詠一と細野晴臣率いる「はっぴいえんど」が思い浮かぶし、「たま」があの系譜にあるのは間違いないと思う。
「はっぴいえんど」は、それまで邦楽と言うと洋楽のコピーバンドだらけだった時代に、「俺達も歌詞を書けるんだ」という事で「日本語ロック」としてブレイクした。

「たま」は、歌詞もそうだが、楽曲自体もどことなく日本的な感じがするのだ。「日本語」を超えちゃって「日本」なのである。
別に尺八や琴など雅楽の楽器を使っている訳ではないのだが、
ギター、パーカッション、ベースの構成に、
オルガンやリコーダーの音が入ってくるのでそう感じる気がするのだろうか。
パーカッションも、一般的なハードロックのドラムとはちょっと違い、
空き缶とか桶とか、ちょっと間抜けに聴こえる楽器(というか叩かれるもの)が含まれていて、
あるいは戦後焼け野原で日本人は路上でこんなドラムを叩いてたのではなかろうか、なんてことも感じさせられるのだ。
ボーカルの歌い方もすごく日本人的だ(特に知久寿焼の歌い方は「よぉ~」といった歌舞伎とか入っている)。

本作、細かく描き込みがされており、
字も小さく、文庫サイズのKindleで読むのは骨が折れたが、
途中からめちゃくちゃハマって一気に読めた。
特にイカ天に出場する「らんちう」の回は白眉である。
そりゃー、あの時代、ふとテレビつけていきなりこんな曲が流れてきたら視聴者はビックリするよね笑
で、2週目の曲がいきなり今度はアップテンポな「オゾンのダンス」なんですよね確か(ネタバレ)。

しかし月一ペースで30話くらい溜まらなければ単行本化されない。
次の巻(「らんちう編」)が出るのは2024年、下手すると2025年か。
気長に待とう。

(追記)
「たま」の窓口になっていた知久寿焼の家が、
「知久宅」という形で何回か出てくるが、
狙ったのかなんなのか「チクタク」と韻を踏んでるのが面白い。

(追記)
ちなみにTwitterでも書いたが、
「たま」の曲で一番好きなのは、
「学校にまにあわない」
なのであるが、
今改めて聴くと、完全にプログレだなこれ(YouTubeにある同曲の動画のコメントでやはりそう書かれていて、同じような印象を持った人が他にもいると知って嬉しかった!)

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