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ホストが短歌を詠めるワケ『ホスト万葉集』


『ホスト万葉集』

これ以上の短歌集があるだろうか?
現役の歌舞伎町ホストたちが綴った歌が300首集められている。

●眠らない街と言われる歌舞伎町 なのに寝ている 道路に人が 
 ーーゆきや(p.10)

●飲みましょか 今日も今日とて飲みましょか 
 あなたと一緒に日が昇るまで ーー怜耶(p.34)

●「ごめんね」と泣かせて俺は何様だ 誰の一位に俺はなるんだ 
 ーー手塚マキ(p.113)

いやぁ…気に入ったものあげているとキリがない。キラキラな夜の世界の、じとっとした空気を味わえるのがとくに好き。

●姫帰りシャンパングラスを片付ける 祭り終わった朝霧の感じ 
 ーー天翔(p.25)

●五匹いる猫のためにとホスト賞取ってみたけど賞金少ない 
 ーーYUZU(p.101)

●人を剥き殻を探して閉じこもる そういう街なの孵化などしない
 ーー詠み人知らず(p.114)

光源氏は元祖チャラ男

この本、まず気になるわけだ。どうしてホストが、短歌を?
月イチで「出勤前歌会」があったり、「夜の街」が糾弾されてからはZoomでの歌会で作られたそうで。

●ホストには似つかわしくない雰囲気で短歌を綴る男の群れよ 
 ーー亜樹(p.20)

ことの発端は、歌舞伎町ブックセンターでのイベントにあったそうな。
…歌舞伎町のど真ん中の本屋さんってのもすごい。

ここは、ホストクラブを経営している手塚マキさんが、ホストたちに教養を身につけてもらおうと開いた本屋。かといって、若いホストたちは漢字が読めなかったり、長い文章に慣れていなかったりで、なかなか本を読まない。じゃあ、詩集や歌集ならどうか、と短歌イベントをはじめたのが始まりだそう。

その場で、歌人の野口あや子さんが言ったそうな。「光源氏は元祖チャラ男だ。ホストは光源氏に通じる」と。多くの女性に言い寄るけど、一人ひとりを口説くときはいたって真剣。そして、その口説くために、短歌を使うと。つまり、短歌は「愛の実用品」である。

短歌もLINEも愛のツール

ひるがえって、現代のホストたちはどうだろう?
忙しい彼らは、お客さんへの連絡はもっぱらLINEだそうな。で、そのLINEが、「その短い文章のなかにパワーワードがガッと詰まってて、すごいうまい(p.135)」ならば、短歌もできるはずという見立てだったらしい。

さらにいえば、一流のホストになればなるほど、お客さんのちょっとした一言やさりげない仕草、LINEの短い文章の裏にある気持ちを汲み取る能力が高いという

つまり、ホストたちは、わずかな言葉で思いを伝え、わずかな情報から思いを読み取るのに長けている。

……聞けば聞くほど、ホストが平安貴族に見えてくる。

「夜の街」の今の歌

コロナ以降の歌もある。いま読むの、決して悪くないと思う。

●歌舞伎町 東洋一の繁華街 不要不急に殺される街
 ーー江川冬依(p.122)
●「コロナだし」行かない理由探してた 嘘でもなくて本当でもない 
 ーー霖太郎(p.120)
●「伝えたい 会えない日々が 続くから」振込先の口座番号 
 ーー宮野真守(p.123)

うめざわ
*いやーーーすごくないっすか? いいの挙げてたらキリないわ。これとか完全に侘び寂びじゃない?

キッチンでグラスひたすら洗いつつ 余ったシャンパン片手に晩酌 
ーー芝(p.78)


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