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「探偵はサウナで謎をととのえる」のミステリ的なバックボーンについて書いてみました

富士見L文庫様より、「探偵はサウナで謎をととのえる」という書籍を出版していただける事になりました。

本作は、サウナ好きの探偵が、サウナの力を借りながら事件を解決するという、サウナ&ミステリの2本柱の書籍です。

実は私、サウナ大好きのサウナおじさんであると同時に、ミステリ大好きのミステリおじさんでもあるのです。そんなおじさんが「好きな物と好きな物を足したら最強なのでは?」というバカっぽい考えで書いたのが本作です。

作品の概要やサウナ周りに関することは、別の記事にてご紹介させていただいたので、本記事ではミステリ周りの事に関してご紹介させていただきます。

探偵コンビの原型は、都筑道夫さんの「退職刑事」

拙作は6編からなる連作短編であり、主役は「警察を定年退職した刑事とその義理の息子の刑事」の2人です。この「短編」「元刑事と現役刑事のコンビ」というスタイルは、都筑道夫さんの「退職刑事」を意識しています。

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都筑さんと言えば、ミステリ界のレジェンドのお一人です。退職刑事シリーズが始まったのは1973年!おじさんの産まれる前です。古典と言っていい作品なのですが今でも楽しめます。なにより、とても雰囲気が良いのです。

退職した刑事とその末っ子である現職刑事が主役のお話で、退職刑事が現職刑事から事件の話を聞き、解決するという安楽椅子探偵ものです。

特徴は「謎解き」にフォーカスされている点でしょうか。謎解き以外のサスペンス要素や登場人物の掘り下げといったものはほとんどありません。

日本の古典ミステリといえば、江戸川乱歩や横溝正史などの作品に代表される、けれんの効いた大作怪奇ミステリ、といった趣の作品が著名ですが、そちらと比べるとスッキリとしており、「謎解き」をどーんとお話の中心として提示しているスマートな印象です。

短編集ということもあり、1編1編を気軽に読め、様々なミステリ的思考を存分に楽しめる作品となっています。個人的に大好きなシリーズなのです。

拙作も、気軽に謎解きを楽しめるものになるといいな、と思って書いてみました。謎のレベルは遠く及びませんが、6つの謎をお楽しみください。

テイストの原型は、我孫子武丸さんの「速水三兄妹」シリーズなど

さて、私は重厚なミステリも好きですが、どちらかというと気軽に読めるミステリの方が好みです。ちょっとした息抜きにサラっと読んで、”ああ、面白かったなあ”、と感じて日々の生活に戻る。そんな作品が好きなのです。

拙作もそんな雰囲気になるといいな、と考えて思い浮かべたのが、我孫子武丸さんの作品でした。

我孫子さんと言えば、いわゆる「新本格」ブームを牽引された作家のお一人です。コミカルなものからシリアスなもの、ほのぼのとしたものからオカルトめいたおどろおどろしいものまで、多種多様な作風で様々な作品を発表されています。

なかでも私が好きなのは、「速水三兄妹シリーズ」です。

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主役の3人は、狂言回し役の刑事の長男、探偵役の喫茶店マスターの次男、そして末の妹の三兄妹です。この3人が中心となり、スラップスティックなコメディのようなてんやわんやを繰り広げながら事件を解決していきます。その楽し気な雰囲気がとても好きなシリーズなのです。

拙作の各話の冒頭は、「犯人の独白」から始まります。とくに1話では「犯人が毒薬を入手したことの独白」から始まります。実はこのスタイル、速水三兄妹シリーズを意識しているのです。

「明るく、楽しいミステリ」。殺人が起きるような話とは不釣り合いな言葉ではありますが、拙作は、そんな所を目指しています。

力を抜いて気楽に楽しめるミステリです

ところで、肝心の「謎」についてです。正直に申し上げて、拙作にはびっくりするような目新しい謎や斬新なトリックは出てきません。

出てくるのは、そこそこの謎です。さらに言うのであれば、現実ではちょっとどうかな、という微妙なものも出てきます。

そんな拙作のいちばんの特徴と言えば、謎をどう解決するか、の「ヒント」部分でしょうか。

TVドラマの刑事モノでは、主人公の家族などの周囲の人の何気ないひとことや行動が事件解決のヒントとなりますよね。

本作では、このヒントを出すのが人ではなく、サウナなのです。

どういうことなの……と思われるかもしれませんが、サウナなのです。

誰が・どのように・どうして事件を起こしたのか。いわゆるフーダニット・ハウダニット・ホワイダニットの3つの軸とは別の、「どうヒントを出しているのか」という要素です。

サウナさんがどんな風にヒントを出しているのかをお楽しみに。「なんでそれがヒントになるんだよ!」と、突っ込みながら読んでいただけると嬉しいです。

最後にひとこと

「探偵はサウナで謎をととのえる」は、私が考える「サウナとミステリのここが好き」を詰め込んでみたお話です。

サウナに関するいろいろなものごとを、シンプルでさらっとした感じのミステリと組み合わせながら、楽しく執筆しました。

1話完結の短編が、全部で6編。それほどには劇的でもなく、あらかじめ謎が解決する事が約束された「お約束」満載のミステリです。

6話の、いえ、6セットのお話を、ご近所の温浴施設にふらっと訪れるような感覚で楽しんでください。サウナのように、気晴らしに1セット読んで気分転換。そして、「さあ、それでは日々の生活に戻りましょうか」と思っていだければ筆者としては嬉しい限りです。

ミステリ好きの方、サウナ好きの方、ぜひ楽しんでください。

最後に本記事を読んでいただいた皆様にひとこと。

ミステリはいいぞ。


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