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epilogue 04【連作短編「epilogues」より】

この物語はフィクションです。実在するあらゆる個人・団体・学校・組織および事件・事象などとは一切関係ありません。
連作短編「epilogues」をまとめたマガジンは↓こちらです。



 さて、その後の話をしよう。

 もともと「美しかったあの頃」の蛇足みたいな「薄汚れたその後」に、さらに「その後のその後」を付け足そうというのだから、蛇の足につけ爪でもするようなものだ。まったく、作家としては、わたしはあまり上等じゃない。もしかしたら、人間としても。

 でも、わたしはそれを書かずにはいられない。彼女と、彼と、彼女が、どうなったかについて。

 その終わりについて。

 いや、ある個人の物語が「死」によってしか終わらないというのなら、彼女の言う「とりあえずの結論」について、記しておきたいと思うのだ。

 ごく私的に。
 不器用な彼女の――いや――コドモたちの代わりに。



 彼は妻からの突然の宣言に、戸惑うことになった。妻は、ただ明るく、こう言った。

「ユウジさん、好きなひとがいるなら、うちに連れておいでよ」

 歳を重ね、かつて純朴な少年だったがいまは嘘の上手になった男でも、そう真っ直ぐと隠し事を突かれると、言葉を失うしかなかった。取り繕うための言葉を選ぶ間すら、妻は与えずに、楽しげに続けた。

「あのさ。隠し事なんて、いらない。わたしは、嫁だけど、ユウジさんの全部を独り占めなんかしない。うん、悲しいことなのかもしれないけど、わたしは誰かを独り占めしたいと思ったことがないし、いま、ユウジさんについてもそう。むしろ、『あの』ユウジさんに、好きなひとがいるなら、それがどんなひとなのかの方が、興味ある」
「……」
「どんなひと?」
「……」
「あ、慰謝料よこせとか、訴訟なんかしないから!」
「……いや、ほんと……なんていうか」
「言いづらい?」
「……」
「なら、言いやすくしてあげよう」
「……は?」
「わたし、他のひとと組む」
「え?」
「オトコ、昔のオトコ」
「……」
「わたし、一時期、そいつと組んでた。物語も、絵も、三流、四流って感じだったんだけどさ。絵を描くことしかできないわたしに、漫画っていうものがあるよって教えてくれたひとだったんだよ。小学生の頃に。ある意味の恩人、師匠。そして、いつのまにか恋人だった。だから、恋人の欲目っていうか……いや、むしろ遠慮かな、才能の無いそいつに合わせて、わたしはずっと日の当たらない暗いところに居続けてた」
「……うん」
「で、ほら、わたし、魔性の女だからさ、才能があるから。自分ではそんな風に思って無くても、相手は複雑だったみたいで」
「……ああ」
「でも、わたしにくっついてれば、いつか自分もクリエイターになれんじゃないかって、下心で、憎くて苦しくて嫉妬してるくせに、自分からは別れられなくてさ。わたしも、なんか才能があることの引け目を感じて、そのままでいるしかなくて。笑っちゃう。泥沼だったよ。あの頃」
「うん」
「わたしたちは、憎しみあって、お互いにどちらにも良いオモイなんてさせないように、そのためだけに一緒にいただけでさ。なんど別れても、結局元サヤになって。で、同じ事を繰り返し、ループループループ」
「うん」
「だから、そこから引き上げてくれたユウジさんには、ほんと、感謝してる」
「……うん」
「ほんとに」
「うん」
「でも、それがさ、こないだわたし会ったでしょ? 相変わらず情けないオトコだったんだけど、でも、最後の作品って渡されたネームが、もう何があったの? って驚いちゃうくらい、良くてさ」
「……うん」
「もう、すげー、描きたいって、思っちゃった」
「うん」
「わたしさ」
「うん」
「どうやらエッチなことではそれほど興奮しないんだけど」
「うん」
「漫画を描くことには、すごく、すごく、興奮する」
「うん」
「セックスなんて、馬鹿馬鹿しくなるくらいに」
「うん」
「すごく、エロい、気持ちいい、どうにかなっちゃう」
「うん」
「それを、他のオトコとするよ。昔のオトコと」
「うん」
「ユウジさんのオハナシも悪く無かったけど、でも」
「うん」
「でも、あいつは――あの作品は、ユウジさんのより、ずっといい」
「うん」
「読んだとたん、描きたくて、描きたくて、しょうがなくて。悪いと思ったけど、我慢できなくて、描いちゃった」
「うん」
「実は、もう、原稿送りつけて、担当からOK貰ってる」
「うん」
「でも……すごく……」
「……うん」
「気持ちよかった。ユウジさんより」
「うん」
「そして、セックスの方も、いつか、するかもしれない。そのくらいイイと思った」
「……うん」
「ごめんね」
「うん」

 彼は、妻の艶めかしく潤んだ瞳と紅潮した頬に、その告白の真実を感じた。
 感性というやつは、残酷だ。本当に気持ちいいものを、ひとは誰も誤魔化すことなんてできない。
 表面上どれほど繕っても、ひとは心の内奥でそれを求め続けるし、ならば、こんな風に、はっきりと告げられることのほうが、楽なのかも知れない。
 苦笑するしかなかった。
 しかし、いったん膝に落ちた彼の視線は、どうあっても妻の恍惚の表情へと向けられそうになかった。脱力感に支配される身体の端で、何故か拳だけが強く握りしめられて、汗に湿った。
 妻は深い官能の余韻をため息で表現し、そして、もう一度言った。

「だからさ、ユウジさん、連れておいでよ。どんなに説明してもらうより、会った方が早い。わたしが自分自身でどんなひとかを判断したい」
「いや……」
「わたし、ほら、趣味『人間観察』だから」
「いや……だからさ――」

 妻は立ち上がり、それでも取り繕おうとする彼の頬を両手で包んだ。彼の逸れてしまう視線を、妻の瞳はしつこく追いかけ、そして、最後に観念した彼に、妻は真剣に、穏やかに、告げた。

「わたしは好きなモノのために生きる。誰を見捨てても、何を犠牲にしても。ユウジさん、あなたは?」
「……」
「だから、連れておいで」

 最後にニッコリ笑った妻に、彼は、とうとう頷いてしまうことになった。



 彼女は、そんな提案に、唖然とした。

「は?」
「いや、ですから、その――嫁が、『好きなひとがいるなら連れてこい』って」
「何……言ってるの?」

 相変わらず安ホテルのベッドの上で、彼女の物語は進行していた。
 ただし、その時は、『泥遊び』の前だったけれど。

「すみません、だけど……もう、僕もどうしていいかわからなくて」

 うなだれた彼を眺めながら、彼女は、髪をくしゃくしゃに掻きむしりたくなった。
 自分のいないところで、話が斜め上に展開したのだから。
 母親との件にしてもそうだが、どうして自分のレンアイは、自分のいないところで決定されてしまうのか。

 反射的な拒絶感。

 でも、そんな自分の率直な衝動をじっと堪えて、彼女は、彼の「永遠の恋人」の演技を続けた。

「できないよ。そんなこと」
「ですよね」

 そんなことを言う彼の妻も、それをそのまま伝えた彼も、頭がオカシイ、どうかしてる、彼女はそう叫びたい気持ちをぐっと堪えた。
 銛で突かれたみたいにこめかみを痛みが抉る。
 それに気付かないフリをして、この即興劇の演技に相応しい台詞を探す。

――考えろ、わたしに相応しい言葉を。

 そうして考えて、彼女は慎重に、小さなため息をついた。
 何も思いつかない。
 いや、ひとつだけ、頭をよぎる。

「わたし――」

 言いかけた言葉が止まる。その続きを問いたげに、彼は彼女を覗き込んでいる。
 彼女は口をつぐんだまま、「飼い主」が与えてくれた衣服のボタンを、ゆっくりと外す。
 こめかみが痛む。ここ最近では、最もひどい。
 どうでもいい。言葉など、身体で、その快感で、有耶無耶にしてしまえばいいものだ。
 いや、しかし、彼女は、その男に、自分が何を求めていたかに気付かないフリをすることができなかった。自らの衣を解く指が止まる。

「あなた、憶えている?」
「え? 何をですか?」
「十九才のあなたは、こう、言ったの」
「……はい」
「『愛しています。あなたは僕の愛する最後のひとです』」
「……はい」
「こうも言ったわ」
「はい」
「『あなたと一緒にいると、それだけで、僕までキレイになったような気がする』」
「はい」
「それから」
「……はい」
「『あなたが、本当の自分を、どこにでもいるつまらないオンナで、そんな言葉に相応しくないんだって言ったとしても、僕には、美しいひとだって、そういう風にしか思えないんだって、この先だってずっと、僕は、あなたを、美しいんだってことを、証明しながら生き続けるんですよ』って」
「……はは、そんな恥ずかしいこと言いましたか、僕」
「『この先、僕たちが、結ばれることがないとしても、僕の願いはただひとつです。人生最後の景色に、あなたを見たい。それだけです』……それから」
「もう……」
「『僕は、あなたのための、あなただけのための、あなたの美しさに相応しい言葉を、一生、探します』……そう言ったの。まだまだ、ある」
「……本当に、やめましょう」
「まだ……ある」
「……僕は、コドモだった」
「……やめて」
「僕には、なんの覚悟も無かった。傲慢で、幼かった」
「やめて」
「どこかで聴いた歌詞みたいな言葉を振り回して」
「やめて」
「あなたのことをわかった風に」
「やめて」
「いや」
「やめて……」
「自分のことをわかった風に……」
「やめてっ!」
「僕は――!」
「やめてよ……」

 男の小うるさい口を自らの唇で黙らせるいつもの手管を、彼女は弄せなかった。ただ、癇癪にも似た衝動が、桜色のシーツを掻きむしって拳に固まっていた。
 かつて、母の恋人――父親にまたがって、涙しながら、腰を振る間抜けな自分の姿がよぎる。
 激しい怒りも、強い衝動も、世界を変えない。
 どんなに強く願っても、ひとひとりの心を、わたしという心は、身体は、人間は、変えられなかった。
 だから、決めたのだ。もう、<それ>を望まないと。
 そして、自分の間抜けさを誤魔化すために、男たちを間抜けにしてやるのだ、と。
 間抜けであって欲しかったのだ。この男についても。
 自分の演技が、巧妙であればあるほど、彼の言葉は間抜けになる。
 美しければ、美しいほど。
 そうして、すべてが自分の理解の内にあることに――自分を変える必要のないことに、安心していたかった。

 そんな若き日の熱病と誤解の言葉を、裏切らせたくて、でも、同時に、そんな言葉が、いつか、叶えられてしまう日を、わたしは――。

 彼女の口は、もうすでにどこか諦めを含んで、動く。掠れた声が、出て行く。

「わたしは」
「はい」
「わたしは、汚れてる」
「……」
「とても」
「……」
「汚れてる」
「……」
「わたしは、あなたの言葉に、相応しくなかった。……いまも」
「……」
「わたしは、ニセモノだった」

 その愛欲の嬌声が響くべき部屋に、ただ沈黙が満ちた。
 男の口にはそれを否定する言葉が装填されることもなく、女の身体に男をベッドに引き倒す理由が濡れ溢れることもなかった。

 終わるのだ、とふたりは想った。

 あと何か身動きひとつで、これは終わってしまう。
 青春の余韻を、実らせることなど、所詮無理だった。
 虚しさだけが膨らんで、ふたりは、俯きあった。
 どのくらいたったろう。だが、終わりだと思うからこそ、言葉だけが、それを確かめるために、慣れない下手な演技にのせて、男の口を出て行った。

「『あなたが、自分を汚れて……汚れているというのなら』」
「……うん」
「『汚れているというのなら、僕はそのまま抱き締めて、強く抱き締めて、一緒に汚れます。そしてそれでも言うんです、あなたは世界で一番美しいんだって』」
「……」
「『でも、僕は、いまでも、あなたを美しいと思う』」
「……」
「『自分の方が、醜いんだって。自分の方が汚れてるんだって』」
「……」
「……『自分こそが、イツワリだって』」
「……」
「……『でも。なら。それなら』」
「……」
「『一緒に、このあとの人生を、嘘に塗れてくれやしないだろうか?』」
「……」
「……」

 もう感情など、沸騰しない。
 言葉にも、身体にも、想いなど、のらない。
 欲しいものなど、ない。
 愛することなど、有り得ない。
 いつか虚しくなってしまうものだけが、この世界に満ちていて、そして、ふたりを傷つけ続ける。

 そのキズをなめ合うトモヅレになら。
 もしかしたら。

「……ひどい」
「はい」
「ひどい、棒読み」
「……はい」

 その後、何を言ってもしても、どこか気まずく、はばかられるような気がした。
 だからこそ、ふたりは、その時も、どちらからともなく触れあって、部屋代分くらいにはなりそうなセックスを、結局は、した。




「忘れ物はない?」

 スーツケースを持った彼女はわたしの前に立ち、その問いに、うん、と頷いた。

「そう。じゃ、さよなら」
「うん、さよなら」

 その別れの言葉に、しかし、彼女は動かない。わたしは振り返り最近すっかり近くが見えなくなってかけ始めたメガネ越しに彼女の表情を見上げる。いつもの、演技がそこにあって、わたしは微笑う。

「何?」
「ううん、その……」
「ん?」
「もらってっていいのかな、って」
「何を?」
「服とか、アクセサリとか……」
「わたしが出て行った『恋人』の服をかき抱いたり、匂いを嗅いで涙する変態だとでも?」
「そういうことじゃないけど。……でも、お金、とか」
「……もともとあんたのためだけに買ったものだよ、それにね」
 わたしは立ち上がり、彼女と向かいあう。そして、その髪をかき分けるように撫でた。
「『ムスメ』の旅立ちに、何も持たせない親ではありたくない、と思うよ」
 彼女も微笑う。
「『ムスメ』とセックスする母親なんていない」
「どうかな。少なくともそういう父親はいるらしいよ。だろ?」
「そうね」
「うん」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「さよなら」
「うん、さよなら」

 わたしたちはもう一度見つめ合い、微笑みあった。
 わたしは椅子につき、そして、彼女はスーツケースを引きずって、玄関へと消えて行った。

 扉が開いて、閉まる。静寂が、部屋に落ちる。

 それだけのことだ。
 別れなどというものは。

 肩の力が抜けて、わたしは、キーボードを打つフリをやめた。やらずのため息が、洩れる。あのコが演技の上手いコだったから、わたしはできる限り、素を晒そうと決めていた。
 だけど、こうしていなくなると、自分がどれほど自分を演じていたかがわかる。
 コドモの前で、どれだけオトナぶっていたかということが。
 どこかほっとする。
 愛していながら、義務を成し遂げたような、肩の荷をおろせたような。
 わたしは、ふと思い出し笑いをする。彼女が、うんざりしたように、捲し立てた言葉に。

「ほんと、なんていうか、サクラが――あ、向こうのヨメ、っていうひとが、本当に頭がオカシくて。
 ダンナを手放すつもりはさらさらないけど、わたしのことを気に入ったから、一緒に住もうって。
 適当にセックスしていいし、なんなら自分のパートナー――昔の男だって言うんだけど――と皆でしてもいいかもしれないとか言って。
 もうわけがわからなくて、頭痛くなっちゃって。
 アイツはアイツで、苦笑いしてるだけで、情けなくて情けなくて。
 もう、真剣に考えるだけ馬鹿みたいで、でも、サクラったら毎日電話かけてきて。そのたびに口説かれるの。しつこく。
 あの夫婦! ダンナはダンナで昔はしつこかったけど、ヨメもヨメ!
 うざったいたら! もうめんどくさくて、イエスっていうまでやめないっていうのよ!?
  ストーカー同士よ、あいつら! お似合い同士で、ふたりでやってりゃいいのよ! 巻き込まないで、って叫びたくなる!
 でも、こっちが何も言ってないのに、皆で暮らす家を探してるとか言って。ちょっといい古民家見つけたとか言い出して!
 しかたないから、一緒に見に行っちゃったっていうのよ。ここが恭実の部屋ね、とか、決めつけて、ほんと腹が立って、腹が立って!
 アイツはやっぱり苦笑いしてるだけだし!
 サクラなんて、単行本が売れたら、しゃれおつにリフォームしようぜ! とか勝手に盛り上がっちゃって!
 あ、そうだ、ヤスミ! 歌上手いんでしょ? 有名な曲カバーとかして、YouTubeで稼ごうぜ! 目指せヒカキン! とかはしゃいじゃって! もうめんどくさい! 思わず、うん、って言っちゃったわよ!」

 怒りにまかせて、手足をブンブンとばたつかせてみせる彼女が、今までで一番楽しそうに見えたのは何故だったろう。
 わたしには、それはあげられなかった。
 仮に、痛みをひととき痺れさせてやれたのだとしても。

 まったく。

 わたしは頭を掻いて、コーヒーでも淹れようと、立ち上がった。そして、ふと、違和感に気付く。
 静寂の中に、何かが息を潜めている。
 わたしは書斎のドアを開け、廊下から玄関を眺める。
 彼女が、まだ、そこにいた。
 わたしは、その背中に、期待などしない。
 わかってる。蛇足、だ。

「どうした?」
「……もう、戻って来れないなって」
「ああ」
「戻って来れないな、って」

 わたしは彼女に近づき、ふと指を伸ばした。しかし、その肩に触れる前に、その手は自然と引かれた。

「またこめかみが痛くなっても」
「……」
「もう、我慢するしかないんだなって」
「……」

 彼女が言って欲しい言葉を、思わず口にしたくなる自分に気付く。だから、わたしはそれを呑み込む。
 そして、別の言葉を。
 精一杯の、強がりの餞を。

「恭実」
「うん」
「あなたの欲しいものは、一生手に入らない」
「……ひどい」
「絶対に、手に入らない」
「……」
「この世界に、そんなものはない」
「……」
「でも、だからこそ、それ、は美しい」
「……」
「焦がれなさい」
「……」
「でも」
「……」
「絶対に手に入らないそれに、焦がれて、苦しんで、みっともなくて、格好の悪いあなたを、わたしは、誇らしく思うだろう」
「……」
「ずっと」
「……」
「ずっとね」
「……うん」

 彼女の後ろ姿が低い天井の向こうに見えない空を眺めるように上を見上げて、深く息を吸い込む音がする。引き留めて、キスくらい、しておいていいのかもしれない。
 そんな想いをあっさりと儚くして、彼女はもう一度、蛇足の「さよなら」を言い、今度こそ、扉の向こうへと消えて行った。

 わたしは、強烈に、ホールケーキというやつにフォークを突き立てたい衝動に囚われた。
 でも、汗で滲んだ拳を握り直し、誰に見せるでもなく、首を振る。
 わたしは、それを、何も叶わなかった人生の最期の楽しみに、とっておくと決めたのだ。

 そう、まだ、生きなければならない。
 少なくとも、あのコに、いつか、きみは美しいよ、とわたしも言ってやるために。

<04 了 one more epilogueへ>

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